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Eric Thielemans 高岡大祐 @豊橋 TAILOR JAZOUL
2024年10月27日 豊橋 Tailor Jazoul
Eric Thielemans(drums) 高岡大祐(tuba)
今回の関西東海ツアーの最終日でした。
満員御礼、ありがとうございました。
十数年前、大阪で演奏したエリックに店主の加藤くんは心酔。
あれから年月を経て彼は故郷の豊橋にオーダースーツのテイラー、そしてレコードバーをオープンした、
昨年久々に来日したエリックの東京公演を観に来てくれてエリックが「覚えているよ、その笑顔を」と。
「次に来るときは必ずKatoの場所に行きたい」というのはエリックの要望でした。
今回のツアーをブックする際に一番最初に決めたのはここ。
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純粋に二人だけのライブは今回ここだけだ。
エリックも加藤くんも再会が本当に嬉しそう。
いつもお世話になっている方から借りたドラムも万全。
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ここで演奏するときは、加藤くんの尽力でいつも満員。
それも即興演奏や型のない音楽を初めて聴く人、20代の若い人たちなどが多く、これがまた本当にありがたい。
最初はデュオを。
細長い割には天井が高い場所で近接位置。
エリックの音がこれまで以上に粒立ち良く聴こえる。
たまんないな、この音量と親密さなら、一番自分がミドルとしている音量より少しソフトなボリュームで、囁きより少しだけ大きいくらいの音で吹ける。全く無理しないでいられる。
どれだけ小さな音でも彼と場所に届いているのが、演奏しながら把握できる感覚。聴こえている音が、わかる。
自分が最も大事にするのはロングトーン。それをそのまま演奏できた。しずかな、うた、のような。
次はエリックのソロ。
「ちょっと遠いね」といってベースドラムやシンバルのスタンドを遠ざけてスペースを作って、前に出てタムの上に小物を置く。
立ってカウベルの演奏が始まる。昨年の演奏でも聴いていたのですぐに受け止められたが、たった一つのなんの変哲もないカウベルからいったいいくつの多彩な音色が出ているのか。
この後に「あの楽器はなんですか?」「普通のカウベル」という会話を何度もした。信じられなかったのだろう。
そこの彼の声が重なる。きくと昨年のソロ中に突然声が出た、それまでそんなことはしていなかった、らしい。
彼の声、特殊な響きがする。
カウベルの演奏が止み、タムの前にしゃがみ込み、床に散らばった小さな物たちから無数の音が広がる。
来たか。
作家が作ったというボーンチャイナの破片をつなげたもの、そこから零れた欠片の音が、やけに生々しい。
音の種類と数がとても多く(音量は密やか)、情報量の多さに目が眩みそう。正直言って、聴衆はついてこられるだろうか?とこのとき思ってしまった。自分の足元すぐで鳴らされる音の凄さ。具体と抽象の超速度混交。
これも後で聞くと、ダイレクトに聴く人を魅了していたらしい。自分の杞憂を恥じる。
休憩中、聴く人たちの興奮が伝わる。
様々な質問が生まれる。それはそうだ。
2部の最初は高岡ソロ。
ここで少し自分は嵌ってしまった。
この前日に行ったソロが予想外の展開でいい感じになって、エリックにもとても良かった、ということで、
同じことを二度してはいけない、という意識が生まれてしまった。
「最高のソロの次のソロが一番難しい」は常で、だいたいは良かったうまくいったウケたやり方を繰り返してしまおうとする悪魔の誘惑。やり方を繰り返すのは、自分にとっては即興ではない。
今回はその逆で、自分も模倣するなという自分への命令が、邪魔をする。考えてしまう。
これはいけない。やっていたことを捨てよう。
こうなったら頭を空に、考えられなくなるまで自分に負荷をかけて身体に演奏させるしかない、と思った。
循環呼吸、というかシンセ押しっぱなしでただ音が出続けるみたいにして、ひたすら手を指を早く動かす。サンプラーのボタンを高速で無心に押すように、フィルターをデタラメに切るように。
すぐに右手で動く速度の限界になる。これ以上は動かないし、走りすぎて足がもつれてコケるみたいに。
他に方法がないので、ピストンの2,3番(通常は右手中指と薬指で操作する)を右手の人差し指と中指で操作して、1番ピストンを左手の人差し指で操作する。ドラムを両手でやる要領。
これなら限界以上に早く動く、はず。
早く動かせすぎて、押金が、ネジが緩んでいく。とりあえず動けなくなるまで演奏して、その先へ。
うまく行くように演奏するのは、自分にとっては好きではない。
息果てるまでやって終わり。
その後は再びデュオ。
エリックは一部が終わった後にドラムを解体したまま。ドラムキットとしての使い方は繰り返さない。
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ソロ同様、たくさんの細かい粒子のような打音が散りばめられる。僕は演奏中はだいたい自然と目を閉じている。
無数の音の中に、たくさんの選択肢があるのを感じる。
空に広がる数え切れない星の中から、あそことあそこを結べば星座がみえる、みたいに、リズムの宇宙を感じる。ひとつではなく、同時に多数。
では、いまはこの星座で踊ればいいや、みたいな感じで、二人共全く異なるようで一緒のような、リズムが生まれては消えて生まれて、という演奏になった。
一つ一つの音が、次に生まれる音の元になり、その星自体動いているので、リズムは固定化されるのではなく、動きそのものとして生じて滅する。
演奏しているというより、踊っているという感覚。
いつまでやって、いつ終わったのか、よくわからなかった。
なにか自然に終わった気がする。
反応が熱い。
ここではいつもそうだが、それ以上に熱い。
来場者同士の会話もエリックへのたくさんの質問も、熱い。
豊橋で長年音楽・文化を見守り育ててきたグロッタの元店主ヒロミさんが「最高や!」といってくれるのも嬉しい。
年若いドラマーの質問にエリックが丁寧に答えている。
自由にやろうとか即興をやろうとか思わずに、子供が無心に遊ぶように、Playするだけでいいんだよ、と。
Playには「演奏する」という意味と「遊ぶ」という意味がある。わかっていても、日本語にはそういった両立する意味が言葉からはイメージしづらい。
「シリアスになるのは、自分自身であるということだけでいいのさ」
そうだよね。
ひっきりなしに話しかけられる彼と合間を縫って僕も少し話を。
「循環呼吸は、うん、ある意味楽なもんだよね」
うん、そうなんだよ。
「すごくないというわけではない。でもね
ダイスケにはもうすでにダイスケのa snare is bellがあるんだよ」
これまで音楽やってきて、これ以上のことはないと思う。
a snare is bellはただの録音物や曲名、演奏法ではない。
エリック自身であるし、これをやらないことこれではないこともまた、同じ意味を持つ。
つまり、自分もまだまだだなあ、と思ったということでした。
しかし、多分この夜の演奏は、自分の音楽として最良のものだったと言える。あのしずかなうたと、星座のようなリズムは、おそらくこれから一生やっていく自分の音楽が視えた。
たくさんの星の中から、星座を紡ぐようにリズムが視えたよ
zodiac sign of rythm
エリックもこれにはとても喜んでくれた。
店を閉めたらエリックと加藤くん、ヒロミさん我らがシスター・アコちゃんといつもの中華屋で軽く乾杯。
エリックは基本的に飲まない人なので、自分の酒量も控えめになっていい。ここでもエリックといろいろな話をするのだけど、これは結構怖い話だったので心に秘めておくことに。
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いい時間だった!