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21 はるのひなた

生きること忘れてはるのひなたになる

嬶の拵える牡丹餅目当てに、今朝も彼岸から兄が来ている。この辺では彼岸へ送る折にも、彼岸から迎える折にも牡丹餅を桶一杯に拵える。

半分は食べるのだが、もう半分は帰りの草鞋の裏に塗るのだ。お浄土の行き来には針の山がある。この山の針を踏まないで済むように、草鞋の厚さの三倍ほどに、牡丹餅を塗って帰すのが、この辺りの流儀だ。

兄は牡丹餅に執着している。生きている時分から、弟の俺の分まで手を伸ばすほどに、彼はこの、赤黒い塊に魅入られていた。

お浄土でも、腹は減るものかい

減るも、減らないも、思いのままよ

不便なことだな、自分で決めるのか

それを誠の自由自在というのだ

お前は俺より歳をとったくせに、世の中を何も知らない、と、兄はケラケラ嗤う

身の置き所が無い春の宵をふわふわと逍遙い、いつしか全て諦めて眠りこける

目覚めれば、ああ、今朝も生きている、と曖昧な思いが到来する

兄が食いつくして精気の抜けた牡丹餅を持って、雉の釣り場に出掛ける

出来立ての牡丹餅は甘く、重く、強い
喰われるために生まれたという気概で、糯米一粒ひとつぶがギラギラしている
自分には、彼岸のものの食べたお下がりくらいが、程よく軽くて丁度良い

お前は相変わらず軟弱だ、兄さんより余程歳をとったくせに

そう言って、ケラケラっと雉が嗤った

ケラケラ嗤われているうちに、なんだか、
ぜんぶ忘れて春の日向になりたくなった

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