森の　じどうはんばいき

森で　見つけた　へんな　じどうはんばいきの　おはなし

「だいじなものを、一こ　入れてね」

川で拾った平べったい石！水切りをするのに最高なやつ。

カタン
　ことん

こないだ捨てた落書きノート
「かっこいいパイロット！」
(あんま、いらないけど)

「だいじなものを、一こ　入れてね」

すっごく良く飛ぶ　紙ひこうき！

カタン
　ことん

「たからの　ちず」
　僕よりすっごいへたくそな字だけど、ふむふむ、ぜんぶ歩いて行ける

ザリガニがいっぱい釣れるポイント
カブトムシの集まる木
へいの後ろでみえなかったけど、かんぺきな鳥の巣

カマキリの卵の見つかる草むら
何かの骨
誰かが隠し忘れたビー玉、いっぱい！

「だいじなものを、一こ　入れてね」

お母さんからの　てがみ！がっこうが　いやで　泣いた次の日
おべんとう箱に入ってた。
「おべんとうたべたら　かえっておいで」

カタン　
　ことん

「おかあさんのおっぱい味」

後ろを向いてコッソリ飲んだ。

えへへ。うふふ。

「だいじなものを、一こ　入れてね」

おかあさんのおさいふから、ちょっと100円、借りてきた！
「チューリップの花束！いっぱい！でてこい！」

カタン
　…………。

じどうはんばいきからは、何も出てこない
待っても待っても、出てこない

ドングリ、ビー玉、ありったけ。ポッケの中のもの全部、
僕のだいじなお気に入り、みんな入れるから、
お願いします。でてきてください。
お母さんの、だいすきな、かかえるほどの、チューリップ。

待っても待っても
待っても待っても
…………。

夕方、本当のことを話した
「どろぼう！」

僕は泣いた。おかあさんも泣いた。
カッコいいパイロットのせいふくで、敬礼しながら
写真たての、お父さんだけ、笑っていた。

(一行目からだんだんちいさくなる、うずまき🌀)
僕は、どろぼうじゃない　勉強もいっぱいして。
僕は、どろぼうじゃない　スポーツだっていっぱい頑張って。
僕は、どろぼうじゃない　良い大学に入って。
僕は、どろぼうじゃない　会社に行って、車に乗って、旅行に行って。
僕は、どろぼうじゃない　デートして、結婚して、子供がうまれて。
僕は、どろぼうじゃない　それでも、なにも、しんじられなくて。
僕は、どろぼうじゃない　喧嘩して、離婚して。仕事も、うまく、行かなくて。

僕は………僕は……

二十年ぶりに、森にいったら

まだ残っていた　じどうはんばいき

「だいじなものを、一こ　いれてね」

僕は、一枚だけ残っていた　家族の写真を入れた

カタン
ゴトンゴトンゴトン……

平たい石。良い感じの紙ひこうき。たからの地図。何かの骨。カマキリの卵。ビー玉。おっぱい味の空き缶。100円玉がひとつ。家族写真…。

ボロボロの紙切れ。

「かっこいいパイロット！」
「おべんとうたべたら、かえっておいで」

野原と、森と、流れる川と。自販機と僕と、飛行機と。

空は　高くて
森は　今日も　森のにおい

「だいじなものを　一こ　入れてね」