Apple信者がおすすめする執筆環境
まえがき
筆者はApple信者です。ここでは、Appleのソフト・ハードの美しさに触れながら、筆者であるまやが普段執筆に用いている環境を紹介します。なお、登場するスクリーンショットは基本的に12.9インチiPad Pro(第6世代)、iPadOS 18.2で取得したものです。
ソフトについて
重視すること
ソフトについて、まやは以下のことを重視します。
1.美しいこと(UI的にも)
2.Mac、iPad、iPhoneの全てから、iCloudを通じてデータにアクセスできること
3.作成したデータを、その重要な部分を失わずに、別のソフトに移行できること(特定のソフトでしか作成できないようなデータを作らないこと)
1について。まず、Appleはこの世界で最もユーザーインターフェースについて真面目に向き合い続けてきた存在だと言ってよいでしょう。Appleの歴史の中にも、酷いインターフェースが存在することは否定しませんが、それは過去数十年にわたるHuman Interface Guidelines(HIG)の積み重ねと、UIデザインにおいてHIGが他社の同様のガイドラインよりはるかに引用されることを覆すほどのものではないはずです。
そして、HIGのポイントのひとつに、同質のデザインを提示することでユーザーの学習コストを下げ、これが使いやすさに寄与するというものがあります。ですから、Apple製のソフトウェアは、多くのソフトで同様のデザインが採用されています。これ自体はGoogleでもMicrosoftでもどこでも、程度の差こそあれ行われているのですが、問題はそれがあるOS上で統一されるのではなく、ソフトのベンダーごとに統一される傾向があることです。これはボタンの配置位置、キーボードショートカットの実装、用いるデザインアセットなど、多岐に渡ります。これについては以下の記事が詳しく考察をされています。
Mac OS のクローズボタンはなぜ左配置なのか
(macOS上におけるChromeの例。ただし、iOS/iPadOSにおけるSafariタブのグリッド表示時など、Apple製ブラウザでもクローズボタンが右に来る事例はある。これについては左上に表示されることが多いWebサイトのロゴと重なるのを避けたのではないかと考えられる。なお、現在はAppleのサイトにも右上にクローズボタンを配置した例があり、こちらについては意図は不明)
2について。程度の差こそあれ、執筆者であれば突然のアイデアを文字にしたいことがあるはずですから、どのデバイスでもアクセスできるということは重要です。クラウドでの同期がなく、バージョンの異なるファイルが複数存在する場合の混乱はもう思い返したくありません。そして、AppleデバイスではiCloud以上に快適に使えるクラウド環境はありません。
3について。Appleデバイス向けのサードパーティーアプリには有料、特に継続課金制のものが多いです。また、ソフト自体がサポートされなくなることもあります。そのため自分からベンダーロックインされることをできる限り避けます。
結果として、ここでおすすめするものは、ハードだけでなくソフトもApple製のものがほとんどです。Apple自体がベンダーロックインを重要な戦略としていることは間違いありませんが、私見では、Appleへのベンダーロックインは利便性の提示によるところが大きく、独自形式ファイルの強制などによるところはあまりないと考えています。
執筆という過程
そもそも、執筆とはどのような作業でしょうか。まやは小説をはじめとして複数の種類の文章を書きますが、大別すると以下のように分けられると思います。
・プロットの作成
・資料集め
・文章の作成
・推敲
執筆環境というと、どうしても文章の作成に焦点を当てがちですが、キャラクターの情報を表にしたり、プロットや関係性を図にしたりといった作業も必要になります。このうち、資料集め以外の3つのための環境について、まやなりの回答を示したいと思います。
プロットの作成
小説を書く場合、まやは主に三幕構成に従います。このとき、各シーンを表に書き出す場合と、手書きで図に起こす場合とがあるので、ここではその両方について触れます。
各シーンを表に書き出す場合、まやはNumbersを使います。シェアの低いイメージのあるApple製のオフィスソフトであるiWorkですが、 Numbersにはひとつ、Excelにはない決定的な優位性があります。それはひとつのシートの中に表を複数配置できることです。
Excelではシートと表(行列によるセルの集合体)は一体で、各シートには1つの表があり、表の行列数は固定で変更できません。一方のNumbersではシートの中で、表は複数配置可能なオブジェクトの1つでしかなく、行列数も変更できます。
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手書きで図に起こす場合、まやはフリーボードを使います。近年追加されたばかりの新しいApple純正アプリで、作成したボードのフォルダ分けが出来ないとか、まだ機能面では向上の余地が多く見られます。一方で、OS標準のマークアップツールが使えること、課金が必要なく、今後もそうであろうことなどを重視して、フリーボードを採用しています。
ノートアプリ等には独自の書き込みツールを実装しているものが多く見られますが、それらはOS上の他のアプリで使えるわけではないため、個人的には好ましくないと感じています。
また、もちろん文章の形で構想を練ることもあります。このような場合には純正のメモアプリを使います。こちらもサードパーティーの有名なアプリに比べて機能は多くありませんが、まやには必要十分な機能です。
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文章の作成
文章を入力する……いえ、少し戻しましょう。文字を入力するツールというと、どのようなものがあるのでしょうか。テキストエディタとワードプロセッサに大別できます。ここでは、文書を作成するための機能、すなわち文章の装丁を編集する機能を持つもの(ただし、マークダウン記法によるものなどを除く)をワードプロセッサとし、それ以外のものをテキストエディタに分類したいと思います。テキストエディタには、Windowsのメモ帳、macOSのテキストエディットのようなシンプルなエディタだけでなく、シンタックスハイライトなどプログラミング用の機能を持つものも含まれます。
では、執筆に必要な機能とはなんでしょうか。もちろん個々人の手法にもよりますが、何を書くかによってかなり左右されるのではないでしょうか。たとえば、この記事のような解説文であったり、小説のプロットを含めた何らかの企画書であれば、見出しをつけることが必要でしょう。PDF形式にして配布したり、紙に印刷することが想定されるのであれば、ページの概念を持ったソフトがほぼ必須と言えるかもしれません。また、なんらかのレポートや論文、あるいは小説の本文であれば、規定の文字数に収まっているかといったことも重要でしょう。
そして、ここでPagesを紹介しましょう。iWorkを構成するワープロソフトです。
残念ながら、Pagesは、執筆用のソフトとして完璧ではありません。具体的には、句読点の文末ぶら下がり表示ができないとか、Macがなければ一部の設定が変更できないといった点です。詳しくは以下の記事を参照してください。
ですが、大体のことはできます。見出しもつけられますし、縦書きにも対応可能です。上記記事の方法に従ってページあたりの文字数、行数を設定すれば、禁足処理をした正しいページ数と大きくずれることはありません。つまり、賞の応募作などの執筆にも十分に活かせるということです。ちなみに、Pagesから直接EPUBファイルを書き出すこともできます。Pagesの名の通り、簡易的なDTPソフト……と言えなくもありません。実は、Apple Books上にPagesから直接公開することもできるのですから。
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文章内容は筆者の二次創作作品『遥「迷い蝶」』の一部。単語数表示はページ数などに変更可能。また、ページの四隅と四辺の中央に移動可能。フォントはヒラギノ角ゴシックW1 12pt。
……美しくないですか!?
推敲
これ、かなりやり方の好みが分かれると思います。Pagesのスマート注釈といった機能を使ってもよいと思いますが、私はPages上で読み返しながら逐一修正する方法をとる場合と、縦書きのPDFを作成して、Apple純正のブックアプリ(PDFを右綴じにするためにはページを逆順にするなど工夫が必要ですが)に入れて、書き込みで修正する場合とがあります。
番外編
先ほど、文章の作成のセクションで、テキストエディタという分類を作っておきながら、テキストエディタを紹介しませんでした。
私はプレーンテキストが好きなので、実はテキストエディタが好きです。機能がシンプルなものは、UIもシンプルになり、美しくなりやすいということもあります。
……ないんです。
いえ、なくはないんです。
が、MacでもiPadでも使える、しかもiCloudにも対応し、かつ美しいテキストエディタは、ほぼないと言って差し支えありません。
Macの場合、CotEditorという極めて美しいUI(macOSの提供するUIに則っています)の、しかも機能も豊富なテキストエディタがあります。プログラミング向け(というか、プレーンテキストエディタの大半はそう)のソフトなのですが、執筆にも使えますし、実際まやも使っていた時期があります。今でもプレーンテキストを扱う時はこれを使います。
でも……iPadにないんです……。
ハードについて
さて、ここまで散々Apple純正のソフトばかりを取り上げてきたわけで、当然ここから紹介するのもAppleデバイスになります。ただそもそも、キーボードで文字を入力することを考慮して作られているデバイスは、Macと iPadの2種類しかありません。ここからは、デバイスの選び方およびアクセサリの選び方が主な内容になります。また、2024年12月13日現在のラインナップに基づきます。
iPadについて
まず、キーボードが必要です。プロットや推敲で手書きをする場合はスタイラスペンも必要です。ここでは、スタイラスペンはApple Pencilを採用するものとして、キーボードについてのみ触れます。
ところで、あなたはタッチパネル搭載のノートパソコンを触ったことがあるでしょうか。キーボードの奥に手を伸ばして画面を操作するというのは、かなりストレスがたまると思います。
ですから、キーボードを用意する場合、タッチパッドかマウスを用意することを考えるべきです。強くすすめます。
そして、外付けのワイヤレスキーボード……というのも、正直面倒です。となると、選択肢はiPad用Magic Keyboardしかありません。
執筆に関係するiPad用のMagic Keyboardの特徴は以下の通りです。
・Magic Keyboardである
・タッチパッドが備わっている
・画面の角度を無段階で調整できる
Magic Keyboardである、というのはMac向けのキーボードであるMagic Keyboardと同じ方式のキーである、ということです。つまり、MacとiPad間を行ったり来たりしても、打鍵感が変わらないというメリットが得られるということです。
画面の角度を無段階で調整できることは、まやの個人的な感覚としては必須レベルです。特にモバイルデバイスであるiPadは、当然持ち運んで使用することが想定されているわけで、テーブルの高さ、椅子の高さ、それらの相対的な位置も様々です。時には照明の反射もあるでしょう。
では、Magic Keyboardのラインナップについて。現状は以下の3つが販売されています。
・iPad Pro(M4)用のMagic Keyboard(以下、M4用)
・iPad(第10世代)用のMagic Keyboard Folio(以下、Folio)
・上記以外のiPad Pro・iPad Air(ホームボタンのないモデル)用のMagic Keyboard(以下、特記のない限り、Magic Keyboardはこれを指す)
このうち、M4用とFolioにはファンクションキーが備わっています……が、執筆には不要です。F7で全角カタカナに変換するとか、F10で半角英数に変換するとか、そういったことはiPadでは(どんなキーボードを付けようが)できません。Escキーだけは使い道がありますが、まやは(US配列モデルで)Caps Lockキーの割り当てをEscに変更して使っています。
また、M4用はタッチパッドが感圧式になっています。そのほか見た目の違いもありますが、執筆用に必要不可欠ではありません。好みの問題ですが、まやは、iPad Pro(M4)とその他のモデルの価格差を埋められるものとは思いません。
なお、Folioのみ、キックスタンド方式で、キーボードを取り外してもスタンドとして使える利点がある一方、奥行きが大きくなるデメリットがあります。iPad(10世代)はワイヤレス充電可能なApple Pencilに対応していないので、こちらも積極的におすすめはしません。
そこで、iPad Air(M2)に焦点を当てましょう。問題になるのは画面サイズです。
それこそ好みの問題ではないか、ということになりそうですが、横幅の関係で、11インチモデルは通常のキーボード(Mac用Magic Keyboardを基準とします)よりもキーが小さく、また一部のキーは非常に細長くなっています。個人的には長音符キーが押しづらいのがかなり難点で、これをメインの執筆環境に据えたいとは思えません。しかしそれを補って余りあるコンパクトさがあるのは事実ですから、メインはMac、iPadはサブ、と考えるなら11インチモデルもよいでしょう。
一方で、iPadこそメインの執筆環境、Macはサブ、と考えるなら、13インチモデルがおすすめです。Macがサブとは……?と思われるかもしれませんが、基本的な執筆はiPadで、最初や最後のレイアウトその他の作業をMacで、という使い方は十分にあり得ると考えます。
最後に、Smart Folioについて。
なぜ側面を保護しないペラッペラの板に1万円以上も出さなくてはならないのか……?と考えるのはわかります。でも買ってください。中古でも互換品でも構いません。Magic Keyboardをつけたままではペンがまともに使えないため、Magic Keyboard(Folioを除く)を使う場合、磁石で固定されるタイプ、すなわち簡単に、頻繁に付け外しが出来るケースがほぼ必須です。
Macについて
執筆用に性能の高いMacは必要ありません。ですから、ラップトップではMacBook Air、デスクトップではiMacかMac miniの選択になります。
MacBook Airでは、画面サイズは純粋に好みの問題です。実物に触れて、好きに選びましょう。
一方で、デスクトップではiMacを強く推します。
一度、普通のモニタに繋がれたMacを触ると分かるのですが、macOSはある程度高解像度の環境で使わないと、一気に美しさが失われます。特にフォントの劣化が著しいです。
M1以降のiMacは24インチ(23.5インチ)に4480x2520を詰め込んでいます。これを代替できるモニターは基本的にありません。
あと色がかわいい。
ですが、iMacと比べたとき、Mac miniの価格は実に魅力的です。まやは最近のMac miniを使ったことがないので使い勝手に関しては明言できませんが、この場合でもフルHDのモニタは避けることをおすすめします。27インチ4Kあたりがよいかもしれません。
ダイヤル付きデバイスのすすめ
まず、ダイヤル付きデバイスの具体例を紹介しておきましょう。Loupedeck Live、Loupedeck Live S、Stream Deck +などです。まやはダイヤル付きデバイスとしてLoupedeck Liveを、ダイヤル無しのデバイスとしてStream Deck MK.2をMacで使用しています。
基本的にこういったダイヤルはデザインソフトや動画編集ソフトなどで数値を変更したり、配信中に音量を変更したりするために使われるイメージが非常に強いですが、まやは別の用途を考えました。移動です。
つまり、ダイヤルを回すと左右に文字カーソルが移動するとか、上下に移動するとか、ダイヤルを回した分だけ文字が消去できるとか、ページを移動できるとか、そういったことです。
Loupedeck Liveは4万円弱するのですが、後悔はありません。同じキーを連打しなくていい楽さ、すーっとカーソルが流れる心地よさは、4万円を遥かにこえる価値を持っています。
まやの執筆環境
デスクトップ
iMac (24インチ, 2023, 4ポート)
Magic Keyboard (US)
Magic Trackpad
Loupedeck Live
Stream Deck MK.2
モバイル
12.9インチiPad Pro (第6世代)
Magic Keyboard (US)
Apple Pencil (第2世代)
iPad mini (第5世代)
Apple Pencil (第1世代)