トイレの長トング

 電車の中で見た薄毛治療のポスターに大きく写る院長らしき男性自身が末期の薄毛だったのには申し訳ないが大いに違和感を覚えた。

 会社のトイレで個室に入りズボンを下ろして便器に座ったら端の方にボランティアのごみ拾いなどで使う長いトングが立て掛けてあったので末期薄毛院長と同じくらいの違和感を覚えた。

 誰がこんなところにこんな物を置いたのかは知らないがあまりに場違い過ぎて解せない。当世風に言うなら解せりみが浅い。でも問題はそこじゃなくてあの長トングで何を掴むつもりなのかが重要であり喫緊の課題。まさか夢や希望ではあるまいよ。

 いや本当は自分でも気が付いているけど気が付かないフリをしているこの複雑な乙女心をおもんぱかれ。パン屋のトングで掴むものはパン。焼肉屋のトングで掴むものは肉。ならばトイレに置いてある長トングで掴むものはアレをおいて他にない。

 そう。未来だ。未来。いまだ来ぬもの。今より先のこと。訪れるはずの明日。我々はこの長トングでまだ見ぬ明日を掴み取ろうとしているのだ。たぶん。きっと。

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