甥と義母と背くらべ
奥さんの実家に行ったら、大学生の甥っ子がいた。
甥っ子と会うのは実に2年ぶりだ。しばらく会わない内にだいぶ背が伸びていた。ラグビー部で日々鍛えているせいか、Tシャツの裾からのぞく二の腕は生ハムの原木くらいに太かった。
あの小さくてヒョロヒョロだった甥っ子がね。わたしも年を取るわけだ。
感慨深い気持ちで甥っ子の姿に目を細めていると、義母が言った。
義母「伯父さんより背が大きくなったんじゃない?」
うん。わたしもそう思う。中学生の時にはもう同じくらいだったし。今は確実にわたしより大きいだろう。
義母「ちょっと2人ともそこに並んで立って。背、比べてみてよ」
断る。何を言っているんだ義母は。絶対に甥っ子の方が背が高いのに、わざわざ比べてわたしに何のメリットがある? 負けると分かっているカードにチップを賭けるつもりはない。
義母「でもせめて、伯父さんよりは大きくなってくれないとねえ」
ババアよぉ……。
勝手にわたしのことを『孫が超えるべき壁』のように設定したことは不問といたす。
だが「せめて」は聞き捨てならないぞ。わたしは甥っ子にとってやすやすと乗り越えられる低き壁か? 物語の序盤で勇者の前に立ちはだかった挙げ句にすぐ倒される村の悪徳地頭かよ。
ごめん。仮にも奥さんの実母に対してババアは言い過ぎた。でも義母にも反省すべき点はある。
私「あのね。お義母さんは軽い遊びのつもりでも、男性にとって体の大小はオスとしての優劣を決定づけるデリケートな問題なんですよ」
義母「どういうことなの?」
私「カブトムシのオスだって小さい個体より大きい個体を見つけた時の方が嬉しいし、値段も高いでしょ? 小さいより大きい方が価値が高いんです」
義母「カブトムシなんて捕まえないし買わないから、よく分からないわ」
私「あーそうでしょうねすいません。じゃあ仮にわたしが『お義母さんそこに立って姪っ子と胸の大きさを比べてみて』と言ったら、どう思います?」
義母「エロくて嫌だと思うわ」
私「そういう話じゃないでしょ? わたしに対する感想を述べる場じゃないでしょ?」
義母「じゃあ背くらべはいいから腕相撲してみてよ」
アンタはイージーモードでクリアできないとハードモードでやり始めるのかよ。条件をより厳しくしてどうする。腕相撲はもう単純にオスとしての強弱だぞ。あんな二の腕生ハムラガーマンに勝てるわけないだろ。これ以上余計なこと言ったら宜保愛子って呼ぶからな。義母だけに。
甥「おじさん勝つ自信ないんじゃね?」
私「……あ?」
どうなるわたし。
たぶん次回には続かない。
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