Bloom Studio vol.9 イベントレポート 高橋かしこ 編集者・ライター
2021年7月4日(日)に髙橋芳一*(電子音楽家)と安田早苗(現代芸術家)がコラボレイトしたネット・イヴェント「Bloom Studio ZOOM Party vol.9」が開催された。第1部はYoutubeによるライヴ配信、第2部はZOOMによる視聴者参加型のトークという構成。
ライヴは安田作品が展示される町田市のカフェ“ガレスピー”で行われ、演奏するリアルタイム映像と髙橋自身が制作した映像がスウィッチングされて配信された。「(安田早苗の)立体作品のモティーフを拝借し髙橋なりの仮説で拡大解釈した音楽と映像」とのことで、映像には安田作品も随所に織り込まれていた。カメラに映った壁の配電盤のメータ、消防設備の赤いランプまでもがアートの一部に見える。
共演(と言っていいのか)のきっかけはtwitterでのやりとりだったそうで、意外な取り合わせのようにも見えるが、ライヴ後のトークを聞くに、実に順当な出会いであったことがわかる。
髙橋芳一はもともと現代美術家のような側面を持つ音楽家だ。
ROOMなどのユニットを経て、1986年にP-MODELへ加入。キイボード(シンセサイザー)担当だったが、P-MODELのアルバム『ワン・パターン』では「プレイヤー」ではないという立ち位置から「システムズ」とクレジットされた。
1987年の脱退後は、音楽シーンから一時遠のいたが、1991年から UNDER TECHNO SYSTEM (UTS) という自作楽器の制作を開始。UTSはP-MODELで「同期」だった中野テルヲに提供され、ライヴでも使用。2003年ころから髙橋自身の音楽活動も再開する。
この UNDER TECHNO SYSTEM (UTS) (詳細は下記参照)というのが、現代美術的側面を持っている。髙橋自身が電子パーツから組み立てた「楽器」なのだが、木材と金属からなるエンクロージャ(筐体)は非常に美しい。電子パーツと木材の取り合わせは、かつてのアナログ・シンセサイザーがそうであったように、意外でありながら見事な調和を見せる。
UTSのなかでもっとも大型なセットUTS-8を神社の境内で撮影した写真があるのだが、CD-R作品のジャケットで初めて見た際には、感動を覚えた。こんなに荘厳な佇まいを見せる「自作楽器」なんてどこにあるだろうか。
そうしたことに意図的だからこそ、髙橋芳一はこんな写真を撮ったのだろう。
「意外な出会い」は、髙橋芳一の音楽にも内在している。
彼のサウンドは、広義のシンセサイザー・ミュージック、現代音楽、パンク/ニュー・ウェイヴ、ノイエ・ドイチェ・ヴェレ(Neue Deutsche Welle/ジャーマン・ニュー・ウェイヴ)やテクノなどをルーツにしたエレクトリック・ミュージック。初期のソロ作品やライヴはもともとインストゥルメンタルが主体だった。ところが、10年くらい前のライヴから、彼は「叫びだした」のだ。
打ち込みが主体のエレクトリック・ミュージックに与える、即興的なシンセサイザーの発音と自身の「声」もしくは「叫び」という肉体性。
髙橋芳一のバイオグラフィにも2011年の項に「UTS-1、UTS-2による即興と全編ボーカルを取るパフォーマンスにシフトする」とあるので、それは意識的なものだったのだろう。
ただ、こうした意外性は、1年半在籍したP-MODELのライヴでも垣間見せていた。一見、寡黙で内向的な青年のようでいながら、彼はここぞというときには獣のように叫んだのである。
個人的に意表を突かれたのは、ジム通いして身体を鍛え、ハードなダイヴィングを趣味としていると知った時だ。先入観以外のなにものでもないのだが、髙橋芳一に対しては、読書とかインドアなイメージしか持っていなかったので、非常に驚いた。そうした、意外性、肉体性が彼の音楽にもある。
ライヴ後の安田早苗との対談で、髙橋芳一はこんなこと語っている。
「楽器の演奏はヘタだけど、表現はしたい。そういう時、シンセサイザーが適していた」
「自己表現として楽器の制作から始めた」
また、視聴者からの「色彩を感じる音楽だが、曲をつくる時に色や形は見えますか」との問いに髙橋芳一はこう答えている。
「色や絵は見えません。音も聞こえません。実は(湧き出たものを)必死になって定着させたもの。降りてきたものは定形じゃない。結果として違うニューロンを通ってできたのが音楽になったり、映像になったりする。音に定着させるか映像に定着させるかということ」
そうした、シンセサイザー・ミュージックにはそぐわないような、ある種の「熱い思い」「やむにやまれず出てきてしまったもの」が、髙橋芳一の音楽にはある。
安田早苗と髙橋芳一の共通項であったダダイスト、クルト・シュヴィッタースをタイトリングしたライヴ・イヴェント。次回は、観客ありで開催され、生身で感じられることを願う。
イベントのライブと講演以外を編集した映像
●UNDER TECHNO SYSTEM (UTS)
UTS-1
電鍵(モールス信号の送信装置)をトリガーに発音し、電球がピカピカ光る。
UTS-2
ミキサー内蔵の64音ポリフォニック発音器。
UTS-3
ノイズ回路とLFOを備えたデュアル・ドラム・シンセサイザー。
UTS-4
MS-20(コルグ製シンセサイザー)用の拡張オシレータ。
UTS-5
ICCワークショップで披露、4音モジュレーションオシレータ2基からなる。
UTS-6
超音波センサーの反応により発光し、同時に発音のためのをトリガーとなる。中野テルヲの「手刀パフォーマンス」でおなじみ。
UTS-7
独自規格のモジュール式パッチング・アナログ・シンセサイザー。
UTS-8
縦型 (Arizona)と横型 (Colorado)の2基から構成され、発光&発振を行う。
UTS-9
「ナログビデオ画像5チャンネルスイッチャーと9パラレル出力器」「インチブラウン管モニター」「ライヴ演奏等撮影用暗視ピンホールカメラ(赤外線投光器)」によって構成。MIDI/CV GATEコンバータの出力で発音する。
UTS-10 (Arizona Babes)
UTS-8のコンパクト版。
高橋芳一 音楽作品
●ソロ
Under Techno System tray live 2004 DEC 26 (2005/CD-R作品)
Trace back data regenerated (2010/NAR-0001/CD-R作品)
Under Techno System Live 2003 at tray (2011)
収斂する輻輳 (2012)
end to end (2013/ミニアルバム)
Distant Waves (2015)
●P-MODEL
One Pattern (1986)
●Cross
Crazy Riders On the Standard System (2015)
★P-MODELのメンバーとしては「先輩」である秋山勝彦とのユニット