【無料公開⑥】会社売却とバイアウトそして事業承継の物語 5話 ~EBITDA、企業価値、売却額~
会社売却準備と事前情報整理 ~2018年3月15日~③
平井 「そもそもEBITDAってなんだっけ?」
清水 「ざっくり言うと、営業利益を少しキャッシュフローに近づけた利益指標です。営業利益に減価償却費やその他の償却費を加算して求めます。また、EV/EBITDA倍率の分子のEVというのは、企業価値とか事業価値といわれるものです。これらは厳密には時価総額や株主価値とは異なるものです(詳細は『会社売却とバイアウト実務のすべて』第四部 2-1参照)。もし、EBITDAが1億で5倍が相場とみなされて5億という事業価値が算出されたら、ここから純有利子負債を控除したものが全株式の売却対価、つまり株主価値になる(同書第四部 2-1参照)と思ってください(注)」
平井 「なるほどね。あとはよく聞くDCF法(同書第四部 6参照)というのは使えるの?」
清水 「DCF法は、基本的に数年後にキャッシュフローが安定成長フェーズに入るような企業であれば利用することができます。一般的には成長中の企業には正直使いづらい手法です。ただ、実務ではけっこうベンチャーの評価にも用いられています」
平井 「さっきのEBITDAの話に戻るけど、最近は営業利益が100万円なのに数十億円で売却していたり、そもそも営業利益が赤字という事例もあるよね。これってそういう倍率法でみると何百倍とかっていうことにならない?」
清水 「いい質問です。こういう評価額はEV/EBITDA倍率では算定しにくいものです。営業利益やEBITDAでは測れないほどの評価額は、将来のキャッシュフローの急拡大やシナジーによる価値向上効果を十分に織り込んではじめて表現できるものなので、企業価値評価モデル上はやや無理して算出していることもあります。買い手側がどうしても買収したいという場合では、評価額を無理やりにでも算定しないと買収できない場合もありますから。ただ、一概には言えませんが、相場観的には一定以上の規模の会社であればEBITDAの3~7倍くらいの事業価値で決まることが多いもので、超高額のM&Aというのはきわめて例外的なものだと考えたほうがよいです。そういう案件はよくネット等で取り上げられることで、あたかもそれが相場なのだと錯覚しがちですが、ほとんどの案件はそうではありません。あとは、詳細はここでは説明しませんが、VCハードルレート(同書第四部 7-2参照)という特殊な割引率を用いた評価方法や、上場した場合などを含む複数のストーリーを考えてそれらを材料に評価する方法(同書第四部 7-5参照)、自社自身のリスクを綿密に分析したうえでそのリスクに応じて割引評価を行う方法(同書第四部 7-3参照)、リアルオプションと呼ばれるオプション理論を用いた評価方法(同書第四部 7-6参照)等も使われたりします。業界によってよく用いられる手法が異なります。こういう部分は特に特定業界に強いFAに相談するとよいと思います。
あと、絶対にやっていただきたいのは過去の取引事例等を調べて、関係者にヒアリングして、そのときの売却対象会社の状況に類似した他社の過去のM&Aに関する情報を取得しておくことです。調査会社に頼んだりすれば非上場会社でも多くの場合は一定の財務情報は得られますが、M&Aの情報については個人的な関係から情報を取得するしかありません。多少のコストがかかってでも過去事例は研究しておいたほうがいいです」
平井 「たしかにそれはそうだよね。自分でも企業価値評価についてはちょっと調べておくことにするよ」
こう答えて平井はまた考え込んだ。清水との会話を平井はすべてメモしていた。
清水 「そうですね。そのほうがいいです。EV/EBITDA倍率、類似会社比較法、DCF法、企業価値(同書第四部 2-1参照)、株主価値、割引率(同書第四部 6-3参照)等の単語は特に重要なので、それらの意味を調べておくといいでしょう。あと、種類株式関係の資料を送っておいてくださいね」
このような会話をして清水は平井のオフィスを出て行った。すでに時間は午前11時を回っていた。
平井は清水との会議メモをみて色々と調べてみることにした。実は同日の13時からはVC(ホライズン)の社長である渋谷と面談が入っているのだ。それまでに、最低限自身でM&Aのことを調べておこうと考えた。平井は以下の4点について、渋谷との面談までにどうすべきなのか熟考した。
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〈M&Aを考えるときのポイントの一例〉
① 売却価格はどうなりそうか? 一般的に企業価値算定とはどう行うのか?
② 最終契約書でどういったことを定めるのか?
③ 事業成長を維持または促進できる相手はどこか? どう見分けるのか?
④ M&Aにおいてはどういった点で残る役職員をケアすべきなのか?
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注:厳密には、EV/EBITDA倍率でいう「EV」は、事業価値を意味する場合と、「企業価値」を意味する場合があります。関係式は以下のとおりです。
事業価値+非事業資産(余剰現預金等)=企業価値
有利子負債等-非事業資産=純有利子負債
企業価値-有利子負債等=株主価値
事業価値-純有利子負債=株主価値
(執筆及び監修:株式会社ブルームキャピタル 代表取締役 宮崎 淳平)
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