売却型M&Aの流れ④〜打診にあたっての資料作成〜
売却型M&Aの各プロセスを下記フロー図に沿ってご紹介して参ります。(全7回)
4.打診にあたっての資料作成
セルサイドDDが完了したら、実際に買収者候補に打診をするための資料作成を行います。まず、ティザー・メモランダム(以下、「ティザー」といいます。)です。ティザーはフィナンシャルアドバイザーを用いて打診する場合に、対象会社名を伏せた形で買収者候補にM&A情報を提供する際に用いる書類です。対象会社名を伏せてあることから、対象会社名を開示せずに多数の買収者に打診することが可能となります。売却者自身が打診するという行為は、打診先の買収者候補全員に売却対象会社を開示してしまうのと同義です。
ティザーを策定する際には、対象会社または事業が特定されない形で、かつ買収者候補に魅力的な投資対象だと考えてもらえるようにバランスを考えて記載情報をコントロールしていかねばなりません。この点において、このティザーの内容は非常に慎重に作成する必要があります。最適なティザーで買収者候補へ打診することは、最終的な売却可能性及び条件を高めることに直結します(より正確には、自社の価値を正確に理解してもらえる買収者と出会える可能性が高まるということです。)。
次に、インフォメーションメモランダム(以下、「IM」といいます。)です。こちらもティザー・メモランダムと同様、非常に重要です。IMとは売却者(または対象会社)が買収者候補と秘密保持契約(以下、「CA(Confidential Agreement)」といいます。)を締結した後に開示される対象会社の詳細情報を掲載する書面です。特に、多数の買収者候補に検討参加してもらう形の入札プロセスにおいては、このIMの重要性がさらに高まります。入札プロセスでは、買収者が意向表明書(本書解説を確認ください)を提出するまで、当事者間の面談やQAセッションを行わないケースがあります。これは多数の買収者と面談したりといった手間を省きたかったり、情報開示を限定的にしたかったりといった理由によります。こうなると、IMが価格提示前に買収者が入手できる唯一の検討材料になることもあります。IMは、対象会社のビジネス内容、ビジネス・フローは勿論のこと、買収者の属性やシナジーの考え方、市場環境、プロジェクション及び説明など多岐にわたる項目が記載されます。また、検討の中で買収者が気になるであろう弱みやリスク等についても詳細が記載されるのが通常です。セルサイドDDにより抽出された事項を如何に適切に余すところなく伝達するかということが重要になります。もちろん、情報の内容によっては「あえて」掲載しない情報もあります。しかし、一般的には魅力であると思われる部分、対象会社の本質的価値であると思われる部分などを中心に、具体的に情報をまとめていくことで、対象会社の本来の魅力を買収者に正確に伝達することが可能となります。
このIMの重要性を示すエピソードはいくつもあります。「このIMがなかったら本件は承認を得ることができなかった」というようなファンドさんもいましたし、「数ある検討案件の中では、しっかりしたIMがある企業の案件を優先して検討し、そうでない案件は検討優先順位を下げている」というような銀行(LBOローンを提供する)もいました。このように、IMは買収者側にとって重要な検討材料となり得ます。
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