リセットボタンは押さないで~たまごっちが教えてくれたこと~
幼い頃、我が家にもテレビゲーム機はあった。けれど、それは少し年齢の離れた兄の所有物で、仲良く共有するなどという美しい文化は、我が兄妹の間に存在しなかった。また、この「妹(=筆者)」がとんでもない機械音痴だったのもあり、なかなか遊ばせてもらうことは叶わなかった。それ故、私は、テレビゲームとは無縁の子供時代を過ごした。
兄が友人たちとマリオカートで順位を競い合っていた頃、妹は、お下がりの自転車に跨り、友人たちと本気の自転車競走をしていた。
兄がテレビゲームの中で勇者となって冒険をしていた頃、妹は、友人宅の押し入れや物置、公園の木の上や草むらで豊かな創造力を駆使し、何者かになりきり冒険をしていた。
周囲にテレビゲームを楽しむ友人もいたけれど、特に興味を持つことはなかった。だけど、そんな私が珍しく興味を持ったゲームがあった。
たまごっちだ。ご存じだろうか?
(……おや、知らない子がたくさん。。増えたのかね。)
「たまごっち」とは、1996年11月23日に”デジタル携帯ヘッド”というコンセプトで発売され、女子高生を中心に大ブームを巻き起こしました。その後、2004年には赤外線通信機能が付いた「帰ってきたたまごっちプラス」として復活後、新しい遊びや機能を追加したシリーズが国内外で展開され、1996年からこれまでに全世界累計約8200万個を販売しています。(2017年9月末現在)(省略)たまごっち公式ホームページより引用
確かこんな感じだった気がする……(もっといい写真ないのかね)(たまごっち公式ホームページより)
当時、人気がありすぎて入手困難な状況になっていた。私は、昔から流行の波には乗れず、大分後れを取ってから追いつくタイプであるのと、しつこくおねだりをするタイプではなかったため、たまごっちに憧れを抱きつつも、もじもじして言い出せなかった。たまごっちを持っている友人宅へ遊びに行った時、一緒に遊ばせてもらっては満足しようとしていた。
そんな私にもこの流行りのゲーム機を手に入れるチャンスがやってくる。あれは、小学校3~4年位だった記憶だ。ある日、母が真剣な顔つきで「話がある」と私に声をかけた(まあそこに座りなさい)。私は、少し構えた。
「たまごっちが手に入るかもしれない。」という話だった(もう少し穏やかに言ってほしかった)。彼女は私の顔を見て、「欲しい?」と尋ねた。もちろん、自分のたまごっちが欲しかったから、私は頷いた。彼女は一呼吸置いてから私の瞳の奥を見つめ、「ひとつ、約束をしてください。」と言った。
その約束とは……「リセットボタンを押さないこと」だった。「ゲームだけれど、あなたがその手で生きものを育てていることを忘れないでほしい。たとえ好みのキャラクターが育たなかったとしても、リセットボタンを押してはならない。」と。
私は承諾し、無事、たまごっちを手に入れることが出来た。スイッチを入れて卵が孵化するところからさよならの瞬間まで、肌身離さずお世話をした。学校に行っている間は……母が勤め先に持って行き、面倒をみていた(「育てなくては」という責任感からである、多分)。その甲斐あってか我が家のたまごっちは、一番IQが高いとされるキャラクターしか育たなかった。ちょっと過保護だったんじゃないかな、とも思う。……そのうちに、たまごっちブームは去り、もうたまごっちで遊ぶことはなくなった。私は約束を守り、一度もリセットボタンを押さなかった。
ほぼこの子が育った。みみっち、懐かしいなあ……(たまごっち公式ホームページより)
大人になった今、振り返ってみると、たまごっちは私の心を育ててくれたのだと思う。幼い私は、画面上の物言わぬキャラクターを前にして「今、この子はどんな気持ちなんだろう?」「どうしてあげたらいいのだろう?」と、想像力を働かせた。そうしているうちに、その想像力は身の回りにある物にまで命を吹き込み、物を大切に扱うようになった。それだからなのか、私の持ち物は物持ちが良い。失くしても戻ってくることが多い。まあ……これは気のせいかもしれないけれど。
マリオカートは逆走するし(現実の世界なら大変)、世界を救う勇者にもなれなかったけれど(回復の魔法は使えるようになりたい)……私にはそれが丁度よかったんだなと、思う。
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お付き合いいただきありがとうございました!
編集:らいむ
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