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最近、ちょっと疲れたなぁと…いうあなたにおすすめの一冊〜『西の魔女が死んだ』〜

「自分のことは、自分で決める。」これって、自由である反面、厳しいことの様にも感じる。だから、ときどき、ちょっと疲れる。誰かに変わってほしくなることもある。だって「自分で決める」ことは、結果について「誰のせいにもできない」ということだからだ。それでも、自分の頭で考えて選択することは、とても大切なことだと思う。そうそう、魔女修行も「自分で決めること」が大切なのだそうだ。

今回のかきあつめテーマは、「おすすめの本」である。私がお勧めしたいのは、こちら。


『西の魔女が死んだ』著:梨木果歩

中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変わるひと月あまりを、西の魔女のもとで過ごした。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも……。(あらすじより引用)


本書は2007年に映画化をされている為、ご存知の方もいらっしゃるかもしれない。私は、昨年の自粛期間中に映画を初めて鑑賞した。映画は台詞含めて、原作に忠実に再現されていたため、読んだ時に頭の中でイメージした映像と、実写版の映像がどれくらい一致しているか、答え合わせをしながら楽しんだ記憶がある。


私がこの本に出逢ったのは、大学生の頃だった。まいの葛藤は自分自身も感じたことのある感情だったから、物語の世界に一気に引き込まれた記憶がある。

あらすじは前述のとおりである。主人公のまいは、感受性の強い子だった。幼くして感受性が強いというのは、時々、苦しい想いをするものだ。自分の内側に湧き上がる感情を手懐けることすら難しいのに、他人の感情の動きにも過敏だと、一つ一つが気になって、その一つ一つを未熟な正義感で正したくなるけれど、経験がない分、表現力は足りないし、上手く立ち回れないし……わかってもらいたいけれど、わかってもらえない、まいもそういう生きづらさを感じていたのではないかと思う。

学校という実社会の中に溶け込めなかったまいは、おばあちゃん(=西の魔女)の家に暫く滞在することになった。滞在前、ママはパパに対し、まいのことを「感受性が強くて扱いにくい子」と話していた。まいは偶然その会話を聞いてしまっていたから、ひどく落ち込んでいた。一緒に住むことでおばあちゃんが自分にがっかりしないか心配だった。けれど、滞在初日、まいが席を外している時、おばあちゃんはママに力強い声でこう言った。

「まいと一緒に暮らせるのは喜びです。私はいつでもまいのような子が生まれてきてくれたことを感謝していましたから」


この言葉は、まいにも聞こえていた。まいの存在を全肯定するこのシーンが大好きだ。

そこから、まいの魔女修行が始まる。この修行で大切なのは「自分で決めること」であり、強い意志の力が求められた。自然に囲まれたおばあちゃんの家での暮らしの中で、起きる時間、寝る時間、勉強の時間、運動の時間、「自分で決めた」ことに従って生活を送るうちに、まいは少しずつ自分を取り戻していき、自立心も芽生えていく。意志の力が育っていくのだ。

この作品をお勧めしたい最も大きな理由は、おばあちゃんの愛情たっぷりの言葉が好きだからである。特に、まいが学校にいかなくなった原因である中学校での女子同士の人間関係について、「学校に行くことから逃げてしまった、弱かった。一人でいるか、集団の中にいるかを決められなかったんだ」と呟いたこと対し、かけた言葉が心に残っている。それはこちら。

「その時々で決めたらどうですか。自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからと言って、誰がシロクマを責めますか」


もちろん、苦手/嫌いは関係なく、やらなければならない時はあると思う。けれど、ある程度取り組んだのならば、「自分が楽に生きられる場所」を求めていいのだ。力を抜いたときの方が人は力が発揮できるものだから。この言葉が好きなのは、私自身が「こうでなければならない」と決めつけてしまった思い込みに気づかせてくれるからかもしれない。

この後、ある事件がきっかけで、まいとおばあちゃんの関係は、ぎくしゃくしてしまう。仲直りができないままに、まいは家族のもとに戻ることになるのだが……数年後、おばあちゃんはまいに「魔女の魔法」をみせることになる。最後の一行まで目が離せない。ちょっと疲れたかもなあと感じているそこのあなた、読んでみてはいかがでしょうか。

お付き合いいただきありがとうございました。

編集:円(えん)
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