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【手作りラー油で死にかけたお話】

それはとある休日。
少し前にネットの情報で、サラダ油と七味唐辛子でラー油が作れるという噂を目にした。
七味唐辛子は自分で買う機会の少ないものだが、これを気に手に入れてみてもいいかもしれない。
好奇心が勝った。
考えついたメニューは、ラー油でもやしと鶏肉を炒め、大手牛丼チェーンがやっている、米の代わりに豆腐で丼を作るというシンプルなものだった。
何度かこの豆腐で丼を作るのは真似しており、自信があった。
食べやすいのは絹だが、味がよく絡むのは木綿、と、自分の好みも把握していた。
だから、今回も、失敗などしないだろうと思っていたのだ。
しかし現実は甘くなかった。
そう、失敗したのだ。
まず、ラー油作りが失敗だった。もうこれが諸悪の根源と言ってもいい。
入れ過ぎたのだ、七味唐辛子を。
ラー油の作り方は、ズボラなため、一番シンプルな熱したサラダ油に七味唐辛子を入れ香り付けをする、というものを採用した。
まぁ想像に難くないと思うが、その時点で七味を焦がしたりして、許容範囲内ではあるが失敗だった。
何を思ったか、色が綺麗に出ないのは七味唐辛子が足りないからだと思い、追加してしまったのである。
もう、こうなると手に負えない。
出来上がったのは、焦げた七味唐辛子の浮く辛すぎる脂だ。
ただ、一口舐めて見て、辛いがもやしと鶏肉で炒めれば食べられそうだと判断した。
この判断が素人判断過ぎるのは言うまでもない。
それでも、当時の自分は、初めてのラー油作りが失敗だと思いたくなかったのである。
もやしを焼く。
作った少量のラー油を、できるだけ焦げた七味唐辛子を寄せながら投入し、絡める。
焦げた臭いはするものの、美味しそうな匂いもする。何とも言えない不思議な匂いだ。
鶏肉を入れようと、解凍のために冷蔵庫に移していた鶏肉を取る。
カチンコチンだ。
一度凍ったままの鶏肉を無理矢理炒めて中が焼けてなかった悲しい事件を起こしていたため、今回は鶏肉は諦めることにした。
さらば鶏肉、明日の食卓で会おう。
もやしだけでもいいだろ。
雑な気持ちで、丼に木綿豆腐を一口大に解しながら入れる。
炒めたもやしを乗せる。
「いただきまーす」
間延びした声で言ってから、箸を口に運んだ。
そして直ぐ様後悔した。
辛すぎて噎せたし、どれだけ水を飲んでも唇と舌の痛みが取れない。
致死量だ……!
心の中で叫びながら、大量の水を消費した。
もうダメだ。
もやしは三十円の十円引き、豆腐は六十円、サラダ油や七味唐辛子のことを考えたら百円もする。
無駄にはできない。
しかし、普段料理をしないことが祟って、とにかく水を入れて炊いて、玉子を綴じて甘みで相殺しよう、そんなことしか浮かばなかった。
とにかく辛かったので水は入れすぎた。後でこんなに要らんだろう、と、水は少し抜いた。
玉子を綴じる。
もう先程の死ぬかと思えるほどの辛さにビビってしまい、物価高騰の昨今に、卵を三つも入れてしまった。
結果、水で薄まりまくった、何か判らない汁物のようなものが出来上がった。
もやしが多すぎて、溶き卵は失敗し、固まりまくっている。
致し方なし。
味は、先程の凶悪な辛さがなくなり、そこそこ食べやすい。
辛いことに変わりはないのだが。
しかし、こんなことが起こっても、前向きな気持ちは忘れずにいようと思う。
失敗は成功の母。挑戦する者にしか失敗は訪れない。また、挑戦しない者に成功もない。
次は唐辛子の量を量ろう。
そう、信用してない未来の自分と約束しながら、よく判らない汁物のようなものをいただくのだった。

おしまい

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