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位置情報データのフロントランナー・酒田理人 前社長が語る ブログウォッチャーの歴史と、データビジネスの過去・現在・未来

黎明期から位置情報ビジネスに携わり、2024年3月に退任されるまで、社長としてブログウォッチャーを牽引してきた酒田理人(さかた・まさと)さん。位置情報ビジネスとブログウォッチャーの成長する過程と、そこにかけた想いを、歴史とともに語っていただきました。

<お話いただいた方>
酒田 理人(さかた・まさと)
高専、大学、大学院と一貫してコンピュータサイエンス分野を研究。2008年、新卒でリクルート入社。その後、ブログウォッチャーへ。2012年に位置情報プラットフォーム「Profile Passport(プロファイルパスポート)」をローンチ。2014年に同サービスの事業責任者に。2019年、代表取締役社長就任。2024年4月以降は、顧問としてブログウォッチャーに参画する。学生時代にゲームプログラマーを目指していたほど無類のゲーム好き。

ーまずは、酒田さんとブログウォッチャーの出会い、参画された経緯などをおしえてください。

ブログウォッチャーは2007年の創業ですが、その時にリクルートの内定者だった僕は、大学で自然言語処理などを研究していたから、インターン先としてブログウォッチャーを紹介されたんです。
当時のブログウォッチャーは、社名の通りにブログのデータの分析をやっていたから、ちょうどいいんじゃないかと。最初は東工大の先生も含めて、ブログのフィルタリングなどを研究していました。
リクルートに入社して2〜3年は別のIT系の部署にいたんですけど、継続的にブログウォッチャーのインフラ構築などには携わっていて、2010年に新しくプロファイルパスポートのサービスを立ち上げる、ということで異動したんです。

ー参画された当時のブログウォッチャーは、位置情報データではなく、自然言語処理の会社だったんですね?

そうそう。バイトしてた頃はね。Shootiというサービスで日本中のブログを分析していたから、そのアルゴリズムの研究とかをしていたんです。当時は社員が6〜7人、パートナーが10人程度の会社でした。

ーそこからなぜ、位置情報データの会社になったんでしょうか?

当時のブログウォッチャーの社長には、データ・情報を使った事業を創りたいという思いがずっとあって。ちょうど国内でiPhoneが発売された時期に、どんなデータが使えるのか、みたいな話が出ていました。位置情報はちゃんと使えるものとして存在していて、かつ当時提携していたアメリカの会社が位置情報を使った研究をしていたから、彼らの使っている技術を日本で取り込めたら、それを軸にしたサービスをつくれるんじゃないかと思った…という流れでした。

ー当時の日本で、位置情報データを使ったビジネスってあったんですか?

僕が知る限り、あまりなかったんですよね。いくつかの企業はありましたけど、人流や位置情報という言葉すらも、浸透していなかった。
それで日本で使えるモジュール「プロファイルパスポート」をブログウォッチャーが作って、アメリカの会社とライセンス契約を結ぶことが約1年議論して決まって。サンディエゴの本社に行って締結式みたいなのをやりました。

ー 位置情報データが全く知られていない状態から、ビジネスとして拡大させていくまでの過程はどのようなものだったのでしょうか?

この過程が長すぎて、おじいちゃんの昔話みたいになりそうだから、あまり普段話さないんですけど…だって「昔は大変だったんじゃぞ」って言われても実感ないじゃないですか。

2010年に研究を始めてから、位置情報データでビジネスが出来始めたのは2015年くらいかな。その間にGPSの研究を始めて、アプリサービスを作ってもなかなかうまくいかなかったりして。そこからビーコン技術を研究して、リクルートを巻き込んで実証実験をして、リクルート内で大きく表彰されたりしたけど、ビジネスとしてはなかなか難しかった。
そこでプロファイルパスポートはGPSデータに回帰しようということになり、出会ったのが今はLBMA Japanの代表理事をされている、当時は某アプリ事業会社のCOOだった川島さん。ここでプロファイルパスポートを導入して頂いたことで位置情報データの取れる量が爆発的に増えて、分かることがめちゃくちゃ増えたんですよね。テーマパークや観光スポットの月次の来場客数が発表される前に、夏休みだから増えてるとか、雨だから減ってるとかが分かって、であれば業績予測なんかもできるな、なんて実感できた。

2016年に改めてプロファイルパスポートをリリース、人材も集まり始めた頃にちょうど、ポケモンGOによって位置情報データの潮目が変わったんです。
位置情報の許諾率も各アプリで10%ずつ上がったし、ブログウォッチャーに対するサービス利用の相談もめっちゃ来るようになった。年間で億円単位の契約が決まり始めたのもこの頃ですね。

ーすごい、時が味方したんですね。

準備していたからこそ、時流に乗れたんだと思っています。どうやったら勝てるのかとたまに聞かれますが、勝つまでやり続けるしかないんです。競合他社もどんどん人も事業も変わっていって、ブログウォッチャーはやり続けることが出来た数少ない会社なんだと今は思います。新規事業の成功って、やりたい気持ちを持った人たちが、どれだけやり続けられるかで決まるんじゃないのかな。ブログウォッチャーの仕事は、ブログウォッチャーの人が今もそれをやりたいと思うから続いているわけですから。

ー位置情報データ業界のリーディングカンパニーとなったブログウォッチャーですが、その社長を勤められる中で、心がけてきたこと、注力してきたこと等をお聞かせください。

2016年頃までは、どうやってビジネスとして成立させるかを考えていました。そのあと2019年頃までは「位置情報業界のKINGになる」を目標にしてきました。
じゃあ、KINGになるってどういうことかというと、データ量が多くなければいけないし、ユースケースも優れていなければならないし、業界でも広く使われている必要がある。位置情報・人流という言葉を使ったときに、ブログウォッチャーが真っ先に想起される状態ですね。だからこそイベントとかもやって、会場に1,000人以上を集めたりもしました。

ー 2019年以降は、何を目標にされたんですか?

2018年頃から業界団体(現LBMA Japan)の設立に向けた活動を始めて、当時なんとなくグレーなものとして捉えられがちだった位置情報データや人流を、世の中に認められるものにしていくことに注力するようになりました。位置情報データが注目を集めるようになってきたからこそ、各方面から、「本当に大丈夫なの?」といった問い合わせをいただくことも多くなってきたんですよね。
だから社内向けに基準やルールを設ける一方で、外部に向けてガイドラインを作ること、競合を含めた業界が団結してフェアにやっていく状態を作れないかと考えるようになりました。1社だけだと、勝手に言っているように思われてしまうから、複数社でデファクトスタンダードみたいなものを築いていこうとしたんです。
(*業界団体とガイドラインの策定はこちら
その頃から、ブログウォッチャーの売り上げを上げることだけでなく、やってきたことがどれだけ世の中の役に立っているか、大きくなっているか、業界が盛り上がっているかに意味を見出すようになりました。

ー業界に共通の基準を設けて、ユーザーにも、クライアントにも、自信を持って説明できるようになることで、位置情報データが世の中に浸透しやすくなりますね。

そうですね。位置情報データを主要事業にしている会社さんが上場したことは、自分にとっては本当に大きな変化を感じる出来事でした。

ー 一方で、位置情報データの利活用が社会に浸透していく過程においては、例え競合であっても、どこかが問題を起こしたり、社会から非難されるような利活用が行われた場合は、業界全体が失速しかねないという状況があったと思います。リスク観点は、どのように対処されていたのでしょうか。

2016年にヨーロッパでGDPR(EU一般データ保護規則)が成立して、同じ頃に国内で、位置情報データの取り扱いについてSNS等で炎上した案件が続いたから、位置情報って大丈夫なの?という風潮が強まっていたように思います。
だからこそ、業界を通じてちゃんとやろう、という機運が高まったのもありますね。何か言われても公明正大に説明できる状態を作っておく必要があるなと。

ーありがとうございます。2024年3月で、長年育成されてきたブログウォッチャーを卒業されましたが、どんな想いがあったのでしょうか。また、離れたからこそ見えるブログウォッチャーの魅力や特徴などがあれば、お聞かせください。

万感の思いがあって離れたというよりは、実は社長になったときから、どうやって社長をやめるかをずっと考えていたように思います。自分が育ててきたからこそ、自分がいなくなってもやっていける状態にしたい。それが出来そうな人たちが集まってくれて本当に良かった、そんな気持ちで辞めています。

ー委ねられる相手ができたから辞めた、ということですね。

そうですね。この人たちがいればちゃんとやっていけるっていう。もちろん、まだまだ足りない部分もありますけどね。
社長になる前は、どうやって売上を上げるかばっかり考えていたけど、社長になったら、どうやったら会社がちゃんと続けていけるのかを中心に考えていたような気がします。だから全力で採用をして、会社として人を増やすことにまず注力しました。人がいないと、続くものも続かないから。その中から、経営を任せられる人も見つかったわけです。

ーそれでは最後に、位置情報データを含むデータビジネスにかかわる人に大事にしてほしいこと、考え、今後の展望などを熱く語ってください!

データに関するリスペクト、そしてデータを何のために使っているかの目的を忘れないでほしいですね。データがどんな可能性やリスクを持っているのか、どういう由来でそこにあるのかを、常に意識してもらえたらと思います。
特定の企業が儲かればいい、みたいな矮小な話ではなくて、私たちは位置情報データを使って世の中に良いことをするという使命を追っているのですから。
そして、むこう数年で「位置情報の会社です」というところから脱却したいですね。「位置情報のKING」を自負していたからこそ、最初に「位置情報」と言わなくなる会社であってほしい。今はすっかり位置情報データが良い意味でコモディティ化しているし、今後は自分たちで分析することも減っていく気がするんですよね、生成AIの進化を見ていると。
だからこの先は、AIが位置情報データの価値を出せるような状態にしておくことが、僕は大事だと思っています。位置情報に限らない、AIを使った分析技術や使い方を知っている状態にしたいです。
一方で、位置情報データの分析だけでここまで進んでいるのは日本だし、日本は位置情報先進国だと思うんです。今後はこれをどうグローバルに展開していくかも考えていたりします。

ー海外展開、ですか!そのお話もまた、ぜひ聞かせてください!!今日はありがとうございました。