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位置情報ビジネスの業界団体LBMA Japan 代表理事・川島邦之氏が明かした、業界の成り立ちと未来への想い

位置情報を扱う企業による業界団体で、ブログウォッチャーも初代理事を務める一般社団法人LBMA Japan。業界の発展と企業間の相互連携を目指す非営利団体で、安心・安全な利活用を促進するための取り組みの一つとして「位置情報データ利活用 共通ガイドライン」を策定しています。 今回はそんなLBMA Japanの代表理事・川島邦之様に、位置情報ビジネスの軌跡とガイドライン策定の経緯、そして今後の展望などをお話いただきました。

<お話いただいた方>
川島 邦之(かわしま・くにゆき)
NY州立大学プラッツバーグ校卒。米シリコンバレーでのモバイル関連の営業・インキュベーション事業経験を経て、日本にてベンチャー領域に於ける事業開発・経営を歴任。専門分野は、新規事業開発、屋内センシング技術活用DX、位置情報データの活用・流通。 2020年2月一般社団法人LBMA Japan設立・代表理事就任。

ー川島さんとブログウォッチャーの出会いをおしえてください。

2014〜2015年頃、株式会社ジョルテというカレンダーアプリの会社で事業開発をしていた際に、位置情報データを用いた機能を導入することで、より良いサービスを提供できないかと模索していたんです。
そんな中、アメリカ出張をした際に、現地のLocation関連の会社(Gimbal社)と話をする機会があって、日本ではブログウォッチャーと協働してる、みたいな話を聞いたんです。それでブログウォッチャーを知って、ついにプロファイルパスポート(ブログウォッチャーが展開する位置情報データプラットフォーム)を導入するに至りました。当時のプロファイルパスポートを導入した企業の中では、ジョルテが一番大きかったんじゃないかな。
そこから、色々な取り組みを一緒にやり始めて、新しいサービスを作っていこうと盛り上がっていました。これが2016〜2017年くらいですね。

ージョルテの事業開発からLBMA Japanの設立へ。業界団体の立ち上げには、どんな経緯があったのでしょうか?

2018年頃から、ユーザーへの説明が丁寧にされておらず、位置情報データの取り扱いについて炎上する案件が出てきて、SNS等を通じて「位置情報データを勝手に使っていいのか」という論調が目立ち始めました。そこに対する危機感というか、せっかく盛り上がってきた位置情報データの利活用を推進するのが難しくなりそうと考えたんです。
同じ頃、位置情報データに関わる人たちで忘年会を開いたんですけど、集まったメンバーで、このままではマズイという話になって。団体をつくって社会から安心してもらえるように自主的にルールを定めていこう、そんなコンセンサスをとったんです。
グローバルな視点だと、LBMA(Location Based Marketing Association:位置情報を軸にした、マーケティングやサービス施策の促進を目的とする事業者団体)という団体があるから、その日本支部を作ればグローバルネットワークもできるんじゃないかということで、2018年末にアメリカに行って、LBMAのPresidentのAsif Khan氏に、日本で団体を作りたいという相談をしました。

ー2019年に発足したLBMA Japanですが、設立当初の位置情報データ業界はどのような業種が多かったのでしょうか。

研究所や分析、GIS事業者も位置情報データを使ってはいましたが、団体を作ろうという話は広告関連事業者からスタートしています。先述した忘年会は、広告系企業の方の参加が多かったんです。でもこの時は、ブログウォッチャーは入っていなかったですね(笑)

ー初期メンバーはどのように集められたのですか?

当時からなんとなくあった横の繋がりを形にしようとしたのですが、大企業は位置情報データの取り扱いに慎重だったことから、団体に加盟して表に立つ、ロゴが出たりするのはちょっと…という企業も多くて。だから初期の15社程度は1社ずつ、私たちが声をかけて集まっていただきました。

ーガイドラインの策定は、企業側からの、お互いを守るためのニーズとして浮上したのでしょうか?

守るためというよりは、モヤモヤしているものを線引きするというのがポイントとしてありました。当時は個人事業保護法においても、位置情報データの取り扱いの定義がなかったため、「使っていいの?」かを聞かれても、はっきりとしたYESもNOも言えない。
だから、事業者はこのようなルールに基づいてやっている、という宣言をすることで、線引きをすることが目的でした。

ー 1社が単独でやっても、独断と思われがち。業界として、LBMA Japanとしての共通ガイドラインがあって、則っていると伝えることで、特に国や自治体を中心としたユーザーへの見え方、伝わり方が違ってきましたよね。

そこが目的だったので、そう言っていただけるとありがたいですね。

ーガイドラインの策定過程で、特に意義を感じたことや、直面した困難などはありましたか?

当時は13社くらいで集まってガイドラインを作ったんですけど、それぞれが違う事業をしていて、データ取得のテクノロジーも異なることから、なかなか統一した文言に落とし込むことが大変でした。しかも、誰もガイドライン作りをしたことがない。だから、これでいいのか、という確証が持てなかったですね。
そもそも、13社で合議を得るってなかなか…(苦笑)みんな、利害関係も一致しないからね。

ーガイドラインは最終的に、各方面の専門家や、関係省庁等を含む多くの方にレビューいただくことになりましたが、最初から想定されていたのですか?

最終的に何をもって良しとするかという段階で、関連しそうな省庁や団体にレビューしてもらいました。
見ていただいて、コメントをもらうのは、実は大変だったんです。結局電話して、正面突破しましたよ。いまでは各省庁と、一緒に何かを推進する枠組みを作れてきていると思っています。

ー2022年4月に個人情報保護法の改正が行われた背景には、位置情報データの活用拡大や、LBMA Japan等の各団体の活動などが影響しているのでしょうか?

LBMA Japanは関係ないですね。というのも、改正案はLBMA Japanの設立前から議論されている内容です。ただ、改正に当たってのパブリックコメントの募集には、積極的に意見しました。

ーガイドラインの策定・公開により、大きな変化はありましたか?

ガイドライン発行が2020年の6月で、新型コロナウイルスの感染拡大が同年の2〜3月からでした。コロナになって、ステイホームになって、「人流」のニュースがテレビで盛んに報道されましたよね。
「個人情報を伴わない、携帯電話から取得される情報」、位置情報はそういう枕詞で説明されていました。みんな家にいるからテレビを見るし、そこで一気に位置情報が社会に浸透しました。
ガイドラインが何かを変えたというよりは、コロナ禍が位置情報データ活用の社会の認知を変えたのではないでしょうか。だからこそ、コロナ禍以前からガイドラインの策定に向けて動いていたことには意義があったと思っています。

ー加盟企業も増え続けています。現在、ガイドラインの実効性を担保するためにされている具体的な取り組みや、直近の課題などあればおしえてください。

監査や認定の制度を作ったり、運用したりする体制を、2021〜22年にかけて作ってきました。今の課題は、ガイドラインを作った当初から位置情報データの範囲が広域化していることですね。
LBMA Japanの加盟企業も、2024年7月現在で84社になりました。発足当初はGPSを活用したスマートフォンから取得されるデータをベースにした広域の人流分析や広告活用がメインでしたが、今は半分くらいが屋内のデータやセンサーのデータを活用した事業を展開しています。
すると、ガイドラインで定義している内容が、そもそも対象でないという状況があるんです。では、屋内で取得されているデータについて定義するかというと、何を対象にすべきで、何が課題なのか、難しい部分が出てくるじゃないですか。
サービスの広がりは良いことだけど、どこまでをガイドラインで担保するかを次の課題として捉えています。

ー 最近では携帯キャリア企業の加盟なども増え、業界団体としてのLBMA Japanの存在感はますます大きくなってきていますが、今後の展望をお聞かせ願えますか?

会員数をどんどん増やすことは、追い求めていません。最大の目的は会員事業者が成長すること、そのための機会を提供し、活動を行うこと。ガイドラインを作っているのも、顧客の信用度が上がって、ビジネスが広がることを目的としています。
加盟企業が成長を続けるためにやれることはまだまだたくさんあるから、それをきっちり実行していきたいと思っています。
現状はビジネスマッチングや展示会、セミナー。今年は脱炭素をビジネス化するところに取り組んでいますが、もう少し恒常的に会員企業がビジネスを最大化できるツールの開発を推進したいと思っています。

ーツールって…どんな構想なんですか?

位置情報データを活用したサービス、会員企業がそれぞれに持っている商材を、より広く知って、そして使っていただけるような仕組みを作りたいですね。

ーLBMAの代表理事として、ブログウォッチャーへの期待や要望があればおしえてください。

ブログウォッチャーはソリューションもデータ量もあるし、やっていることも最先端だと思っているので、もっと世の中に「すごいぞブログウォッチャー!」を打ち出していってくれると、盛り上がりそうですよね。

ーこの企画も、その一環なんです!!インタビューお受けいただきありがとうございます。最後に、位置情報データの未来について、想いを語っていただけたらと思います。

未来に向けては…派手なことではないんですけど、一つずつの社会実装を進めて、データ活用の幅を広げていきたいですね。昨年は生成AIやモビリティデータの活用、今年は例えばGX(グリーントランスフォーメーション)データとか、有用性を示すことで市場を広げたいと考えています。
「データ」がスゴいんじゃなくて、社会実装されて人の役に立つことに意味があるんです。そして、それが実現されるためには、企業が継続的に利益を得られていないといけないですよね。人の暮らしや働き方を変えていく、社会に繋げていく。その足元を固めるために必要なことを、団体として続けていきたいです。