生々しいCFT(クロスファンクショナルチーム)運営のコツ
昨日、ITmediaマーケティングさんに連載の最終回『ブランディングとセールスの連動、「CMO待望論」より必要なこと』を寄稿させていただきました。
http://marketing.itmedia.co.jp/mm/articles/1606/13/news045.html
内容をざっくり言えば
・日本企業は、創業世代の経営者が去った後、誰かひとりに権限が集中することが文化的に馴染まないことが多い
・そのため、マーケティング関連の判断権限が一極集中するCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を設置するよりも、各部署からメンバーを出して、部門横断的に検討するCFT(クロス・ファンクショナル・チーム)の運営が現実的な最適解である
という話です。
ちなみにCFTではなく事業部や商品企画部門だけでブランドのコンセプトを立てると、こうなります・・・
とにかく合意が得られず、マーケティング施策はバラバラに。
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そして、この記事の見てくだった田端信太郎さんより、こんなDMが。
*ご本人よりキャプチャ掲載許可をいただいております
CFT運営の肝心な部分を書かなかったのは、ノウハウとして隠したかったのではなく、原稿スペースの字数として足りなかったから、です(笑)
ということで、CFT運営のコツについて書いていきます。
田端さんへのアンサーソングというより、ひとり疑問に思う人がいたら、きっと読者の多くのサイレントマジョリティな方々も同じ疑問を感じられたと思いますので、このブログは寄稿記事の補足として。
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CFT運営のコツ1 経営者のお墨付きを得て、各部門からの協力を引き出す
田端さんが”日産ではゴーンさんが後ろ盾”と書いたように、ベタな話ですが、CFTの会合に人を出すには、各部門のトップの承認や、人のアサインを得ることが必要です。そこで、しっかりとコミットし、CFTでの決定事項を部門に持ち帰って部門長の同意も取り付けられる、部長から信任を得ているエース級を出してもらう必要があります。そのため、「経営者が積極推進している」というお墨付きを得ることが、CFTの決定事項が、実際の組織の意思決定につながるための第一歩として重要になります。
部門長が「適当なメンバーをアサインしておいてお茶を濁そう」と思ったら、もはやCFTは機能しません・・・。
ちなみに、技術シーズのウェイトが高い業界では、研究開発部門のメンバーもCFTに入ることがベストです。コンセプトとシーズの連携の可能性を素早く判断できますし、いち早く新しいシーズの情報もあがってきて、企画に反映できます。CFTの中に技術的な可否の判断ができるメンバーがいると、具体的な商品・サービスのコンセプトや仕様の検討速度があがり、良い感じになります。
あと、外部のチャネルでの販売が多い企業は、営業部門のメンバーも巻き込んでください。店頭でのバイヤーからのフィードバックや、実際に店頭で得られそうな棚の場所など、商品・サービスのコンセプトやラインナップを考えるうえで与件となる貴重な宝の山の情報が満載です。
さらに言えば、営業部門はえてして商品企画部門に「売れない商品を企画し、自分たちが押し付けられて割りを食っている」という社内対立の気持ちも抱えがちです。自分たちも根っこの企画から関わっていると、商品やブランドのコンセプトに対する納得感も、チャネルへの営業マインドもまったく変わってきます。ベタですが、営業の売るモチベーション施策としても、営業サイドは巻き込むべきです。
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CFT運営のコツ2 経営者から検討範囲で与件となる情報を引き出しておく
CFTで検討して合意形成したことを、いざ経営陣に上申した際、経営陣からすると検討する余地もない内容で、承認しがたい・・・・残念ながらそんなケースも発生します。この徒労感~リソースの浪費を避けるためにも、CFT運営開始前に経営陣に入念にヒアリングすることが重要です。
事前確認のポイントとしては・・・
●経営における実現可能性
例:既存ブランドでの実現が難しければ新ブランドを立ちあげても良いか否か/自社の既存ブランドと価格帯がかぶるなどカニバリリスクへの許容度
●経営上の意思
例:商品の差別化に限界を感じるので、サービスでの差別化も検討範囲に入れて良いのか?/たとえ儲かるとしても他社の二番煎じ商品はNGなのか?
●経営からの必達事項
例:市場シェアで7%、売上140%増を二年で達成/初年度は利益よりも売上の垂直立ちあげを重視して投資(その際の予算枠の想定レベル)
などなど。
商品サービスの企画やブランド戦略の中身を検討する前に与件を引き出しておくことで「経営からみたら検討に値しない領域(OBゾーン)」を見定めて無駄な検討を回避し、貴重な時間を浪費せずに済むようになります。戦略の検討というのは「あらゆる可能性を、すべて深く検討すること」は現実的ではありません。それを文字通り実行したら、どんなに豊富な知見を持つメンバーと時間があっても成果は出ない。むしろ、事前に把握できる情報に基づいて、いかに検討領域をあらかじめ絞り込み、絞りこまれた領域でどれだけ深く考え抜くかが勝負となります。
一見地味に見えて軽視されがちなステップですが、経営サイドの与件整理はCFT成功の重要な第一歩です。
ちなみに経営サイドの与件というのは、意外に暗黙知のままであることも多く「与件はなんですか?教えてください」と正面から聞いてもあまり出てきません。上記の例のように「既存の商品ブランドの枠におさまらないコンセプトの場合は、別ブランドを立ち上げる、既存ブランドを差し替えるという選択肢もありえますか?」というように具体的にYes/Noで解答できるよう、事前に判断の分岐点を洗い出し、質問を準備しておくことが重要です。
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CFT運営のコツ3 基本情報の収集とメンバーへの共有
大企業になると、事業やブランドに関する基礎的な情報ですら部門ごとに分散していることが多いため、まずは集約してCFTメンバーで情報レベルをすり合わせておくのが重要です。
具体的に収拾すべき基本情報の例としては、
●業界の売上推移やメガトレンド
● 自社ブランドおよび競合ブランドの市場シェアや売上推移
● 自社のSWOT やシーズ分析
● 市場全体および自社や競合ブランドの顧客特性
● 自社ブランドへの顧客ロイヤルティ評価
● 購買チャネルの構成比、使用シーンなどの実態
などなど。
意見が異なる背景を深掘りすると、実際は「考え方が異なる」のではなく「前提となる情報が異なる」といったことが多く、それを避け、質の高い検討をするためにも、この最初の準備が肝なのです。
この前提となる情報の認識が共有化されると、CFTの議論が無駄に荒れなくなります。すんごい重要。
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CFT運営のコツ4 ファシリテーターの設置
CFTで検討すれば、当然多くの人の意見が割れ、部門の個別最適の利害も絡むため、その調整~合意形成が必要になります。そのとき、適切に議論を進行させ、良い意思決定に収束させるために、ファシリテーター役が必要です。
意見が割れた時は、単に声の大きな人の主張に従うのではなく
・市場~顧客視点からの評価(ソースとして客観的な調査結果もうまく使う)
・戦略の原理原則に基づく評価(例:弱者のチャレンジャーであれば、大手のマネをしてもブランドパワーやチャネル支配力の面からも勝ち目がない)
など、客観的な目線から、それぞれの選択肢のメリット/デメリットを洗い出し、一覧化して見える化したうえで、意思決定を採択することが重要です。
そのとき「何を選んだか」も重要ですが、CFTの円滑な運営のためには「選ばなかった方向性と、その理由」もしっかりと残し、共有化しておくのがコツです。選ばなかった理由が明確であるほど、各メンバーが部門に持ち帰って部門長に説明する負荷は減りますし、会社としても意思決定を手戻りすることがなくなり、時間のロスも抑えられます。
ちなみに、よく誤解をされがちですが、戦略の知識があればヒットするものがわかるわけではありません。どう頑張ってもヒットさせるのが難しい、無理筋な取り手がわかり、失敗可能性が高いものを排除できる、までが戦略の知識の限界です。
あと、、肝心なCFTのファシリテーターの要件は3つあります。
1.議論を引き出し活性化させるファシリテーションスキル
2.参加者が戦略セオリーに沿ってアイディアを考え、意思決定するためのフレームワークを提示する知識
3.発言した人や自分の所属部門の立場に引っ張られずに議論をリードできる立場の独立性
一般的にファシリテーターに求められるものといえば1ですが、さまざまな部門のメンバーが集うCFTにおける議論では、それだけでは不十分です。
質が高く効率的に議論するためには、商品サービスのコンセプトや戦略を考えるためのフレームワークを提示する力も必要です。*バラバラのフレームワークで考えたものは、集約のコストがかかります。また優れたフレームワークは、参加者のアイディアの質を高めます。
3の独立性は社内メンバーでは限界は出てしまいますが、1と2は経験と育成によって社内メンバーが身につけていくことも可能です。
私が言うとポジショントークになりますが、プロのコンサルタントがファシリテーターを務めるプロジェクトを経験したメンバーが、次回プロジェクトからファシリテーターを務めることが、もっともスムーズな内製化への道といえます。
ちなみにファシリテーターの独立性に関しては、本人の心構えだけでなく、周囲が理解し、支援する姿勢も重要です。これは特にCFTの中で役職の高い方がしっかり理解し、支援することも必須となります。ミーティングは、どうしても役職の高い人が発する空気が支配するものなので「役職の高い、社内で影響力の高い人が言ったことだから是とする」という空気を打破することが重要なのです。
その声の大きな人の意見が勝ち、市場でも勝てていれば良いのですが、競争力が弱っているときは、その「声の大きな人の見解」が市場とズレている可能性が高いのがシビアな現実です。
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CFT運営のコツ5 手戻りが難しい意思決定は、経営陣に承認を得て進む
CFTは部門横断で、現場メンバーが検討するものですが、後戻りが難しい分岐点での意思決定は、その都度、経営陣に確認を取ることが重要です。
具体的には、
・ブランド戦略の大きな方向性(ターゲット顧客、インサイト、ブランド知覚価値)
・商品・サービスのラインナップ~仕様
・型投資が発生するデザインの決定、巨額投資が発生するマス広告の方向性
などなど。
CFTで揉んだうえで、適時経営陣に報告~承認を得る機会をつくり、しっかりと進捗報告をするのもポイントです。経営陣からすると現場に任せる不安は、現場が思う以上に大きいものです。そのとき、適したタイミングでしっかりと承認を求めてくるCFTであれば安心感も大きく、安心して権限委譲できるようになります。
また、CFT側は、メンバー間で、しっかりと意見の合意形成をはかってから上申するようにしましょう。ここで一枚岩になれているかどうかが、CFTに無用な社内政治を持ち込ませないポイントになります。
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私の経験上、重要な鍵だなとぱっと思いつくコツは以上です。
構図をばっくり図にすると、こんな感じでしょうか。
簡潔に書こうと思いましたが、書いてみたら、思った以上に、普遍的で新しい話がなく、重く面倒な話ばかりですね(苦笑)
「正直な話、けっこう面倒だな・・・」
そう思いましたよね?(笑)
でも、CFTとは、そういうこってり泥臭いものなのですし、その泥臭いことをしっかりやらないと、うまくいきません!(きっぱり)
ちなみに、CFT推進体制のデメリットを挙げると、多数のメンバーを巻き込むことで検討速度が遅くなることです。
CFTではなく経営層や事業部のみで戦略検討するということであれば、プロジェクト期間を半分程度に圧縮することも物理的には可能です。ただし、一部の人のみで戦略策定し、後で現場に戦略を共有するケースでは、どうしても理解と納得度が浅くなり、マーケティング4P施策展開においてうまく施策が連動して自走するまでの期間が長くなります。最悪のケースでは、結局戦略が絵に描いた餅となり、実行されないままで終わる。(この最悪のケースは多いのです・・・)
CFTになると、プロジェクト推進には時間がかかるものの、マーケティング4P施策展開の際に現場はスムーズに自走していきます。
結局のところ、この推進体制の選択が意味するのは、「戦略の社内浸透コスト」を先払いするのか、後払いするのか、ということに尽きます。
創業世代によく見られる、強い求心力とリーダーシップを持つ経営層であれば、経営層のみで戦略を検討し、実行段階で現場を巻き込む進め方が機能することも多々あります。
しかし、権限が分散して情報もタコ壺化しがちな歴史ある大企業においては、CFT方式により部門横断で現場を巻き込む有効性は極めて高く、結果的には「急がばまわれ」を実感することは多いものです。
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私が経営するインサイトフォースでは、創業世代が経営されるオーナー系企業のクライアントとは、トップと直接のコミュニケーションでの戦略検討が多いのですが、創業世代から経営陣が代替わりしたあとの大企業がクライアントの場合は、商品・サービス企画支援プロジェクトにおいて、こんなこってりとしたCFT運営を支援させていただくことが多いです。
コンサルティングの現場って、色々と謎が多いと言われがちですが、実態は泥臭いものですよ。でも、その泥臭いことをやり抜いて、市場に投入したクライアントの商品・サービスがヒットしたときには、なんとも言えない喜びがあり、そのクライアントのCFTメンバーの方々とは、戦友と呼べるような絆が生まれることもある。(私が勝手に感じているだけかもしれませんが・・・)
ブランドやマーケティングのコンサルティングは、大変で、難しいのですが、得られる喜びも多く、飽きのこない仕事です。