思想が明確なブランドは何が良いのか? ~ブランド戦略のレイヤーの違い~
「思想~ビジョンや、提供する価値が明確なブランドは何が良いか?」
単にコアファンができたら、指名買いで価格競争から逃れやすくなるだけではありません。思想が明確なブランドの効用は、社内外をまたいだバリューチェーンにおける取引と関係維持のコストが著しく下がることにあります。
強烈なブランドは、その価値に惹かれた従業員が集まり、その価値に惹かれた顧客が集まる、ある種のインナーサークルのコミュニティのような存在になります。
そこでは、阿吽の呼吸を含めたハイコンテクストなやりとりが高速で実現する。社内同士、顧客同士、社内と顧客の間で発生する、その深くて速い相互交流が他では得られない体験となり、それは最終的には企業に経済的価値をももたらします。
ある種の同一性、陶酔感を含めて、ブランドの思想は強烈になるほど、宗教と似てくる側面もあります。
また、ブランドの満足〜不満足は、事前期待との一致やギャップで生まれます。ブランドの主張が強く、世の中で広く理解されているほど、ブランドに惹かれて関係をつくる従業員や顧客は、提供する価値とミスマッチの少ない母集団になり、不満足をうみだすギャップが減っていきます。(これは、数少ないブランドコンサルティング業の社会的価値だと思います。ミスマッチは少ないほうが世の中幸せです)
ただ、そのような作用は、目に見えない、そのコミュニティにいないと実感できない、外からその効果の測定が極めて困難。ですが、ブランドを単なる市場競争戦略ツールではなく、ブランドを軸足に経営することの意義は、このあたりにあると感じてます。
このようなブランドの効用は、そのようなブランド企業やコミュニティを体験してる人は、わりと自然に同意してくださることが多い話です。
もちろん、その思想や価値観の同一性が生み出す凝縮性は強みと同時に、市場パラダイム転換器には、市場に適応できない要因の弱みにもなります。
そのときは、思想や価値の抽象的なベクトルを維持しながら、商品やサービスを具体化するレイヤーは市場に適応させるべく変える。この二階建て構造を分けてマネージするのが大切です。
ブランドのパーセプション=知覚価値をいじって、マーケティング4P施策なり採用施策を外形的に整えるのは、顧客や採用の市場に向けた競争戦略レベルのブランド戦略。
先ほどの、一貫性のある思想や価値に準じた施策と発信を積み重ね、全てのバリューチェーンの取引・連携コストを下げるのは、経営レベルのブランド戦略と言えます。この2つを混同しないのは大事です。後者は、即効性はないですが、確立してくると、強い競争優位の源泉になります。
経営レベルの思想やビジョンをつくるときは、顧客の声に耳を傾けてもあまり得るものはありません。社内コアメンバーが心の底から信じられるものしか、ブレない軸足になりようがなく、そこは多少傲慢でも啓蒙的アプローチであるべきです。逆に、市場競争戦略となる商品・サービスのポジショニング的な知覚価値は、常に顧客視点からフィードバックを得て軌道修正する市場適応であるべきです。
・・・あるべき、というより、適切に軌道修正しないと、どこかでビジネスが失速します。商品・サービスでも傲慢な啓蒙的アプローチで当たってしまった成功体験があると、なかなか切り替えが難しいんですけどね。
その二律背反を混同せず、自覚的に対応を分けてマネージするのが、長期的に栄える企業の根底にあるスキルです。思想レベルの啓蒙アプローチの傲慢さを、商品サービスレベルに持ち込み、市場適応できなかった会社は、長期的には衰退します。啓蒙的アプローチで傲慢に見えるAppleも、よくよく観察していれば、iPhoneのラインナップは、けっこう試行錯誤しながら大画面増やしたり、市場ニーズに頑張って適応しているわけです。
思想は競合からキャッチアップされにくいし、思想には流行り廃りの変化はない。しかし、商品サービスは外形的なキャッチアップは容易だし、流行り廃りが激しく、一定レベル以上の市場シェアを目指すなら、その市場変化への適応は避けられません。そこを混同しないようにしましょう。
ちなみに、経営レベルの軸足にするブランド戦略は、企業としてひとつのコアブランドで事業をしている会社、例えばAppleやBMWのような会社が当然やりやすくなります。商品ラインナップも多様に見えて、本質的にはひとつの価値やそれを具現化したデザイン言語で提供し、一貫性ある顧客体験を提供します。
でも、P&Gやトヨタのような、多様なターゲット顧客や多様な市場に対して、多様な価値を、多様な商品ブランドで提供しているような企業であれば、そこは商品ブランドごとの市場競争戦略としてのブランド戦略をフル活用するのが適した事業形態になります。
どちらが良い悪いということではなく、経営レベルの軸足のブランド戦略は、やりやすい~やりにくい事業形態やガバナンス形態があるということです。
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私が社外取締役を務めるMininalは、常勤経営陣の創業メンバーには、強い思想・ビジョン、そして商品のクオリティへのこだわりがあります。私の役割のひとつは、創業メンバー達のビジョンやこだわりを大切に守りながら、同時に市場適応を支援することにあると思っています。
例えば、こちらのページは、Minimalのバレンタインデーの特集ページですが、チョコレートブランドとしては男性支持層の厚い”Minimalらしさ”を感じさせつつ、バレンタイ商戦のメインのお客様である女性層に受け容れられなければいけない。「赤い❤はあり、なし」という表面的な表現の是非もあれば、「そもそも、どう表現したら、Minimalらしさとバレンタインデー向けであることが両立して伝わるのか?」、施策判断においても、大切にしている価値と市場適応の狭間で喧々諤々とディスカッションします。そこに正解はなく、自分たちのこだわりを大切にしながらも、お客様のフィードバックを真摯に受け止めて、進化し続けていくしかありません。
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これはインサイトフォースの多くのクライアント案件も同様です。素晴らしい思想やビジョンがありながら、市場適応に苦しむ企業は多い。そのような構図には変革の触媒としての価値があると思っています。
ちなみにインサイトフォースは、クライアントの思想・ビジョンに選り好みや好き嫌いはありません。違法性がある、反社会的な内容というものでない限り、思想の小さな好き嫌いには持ち込まず、クライアントのビジネス成果を出せるプロフェッショナルファームでありたいと考えています。言わば、目指すところは、合法的でチームメンバー連携によって成果を出すゴルゴ13ですね。
ゴルゴ13の割に喋りすぎたので、本日のブログはこれにて終了です(笑)
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P.S
ここまで読んでくだった方は、ぜひMinimalのバレンタインデーページを見てください。手前味噌ですが、商品の美味しさだけでなく、コンテンツも担当のメンバーが頑張って作り込み、読み応えあるものになっております。