マーケティング調査の使い方の誤解
よく、潜在顧客の調査をやったときに「競合の王者ブランドA社は◯◯が強く、チャレンジャーである自社は◯◯が弱い。じゃあ、自社の◯◯を強くすれば、もっと顧客に選ばれるはずだ。」一見正しいようで、この場合の多くは◯◯が強くなっても顧客に選ばれないという罠があり、実に多くの企業で蔓延しています。
これは調査やマーケティングが悪いのではありません。調査の限界と戦略の原則を知らないことで起きてしまうことです。
顧客から、関与度・リテラシーが低い商品・サービスの調査は、回答者も対象の評価がよくわからず漠然としていて、大手ブランドとより弱いブランドでは”安心できる””信頼できる”みたいな項目で差がつきます。でも、これは定性的なインタビュー調査で掘っていくと「答えようがないのでそこにつけた」みたいなニュアンスも感じられます。
つまりその定量調査の差を素直に埋めれば、上位の王者ブランドとのビジネスの差が埋まるのか?これは結構難しいことが多い。そもそも大手である安心感を強く求める層は、チャレンジャーである自社の安心感スコアを多少改善したところで選択は変わらない。
戦略論の知識という意味では、チャレンジャーと見なされるブランドは、なにはともあれ”差別化”要素がないと選ばれようがない。トヨタがマツダやスバルをパクった車をつくれば売れる。でも、マツダやスバルがトヨタをパクったら売れない。チャレンジャーは、顧客があえて選ぶ理由を作らねばならない。
同様のミスリードは、顧客満足度調査でも多い。上位ブランドの満足度が高い項目を、下位ブランドが穴埋めで頑張る。これは品質レベルが低い時代=最低限の品質を下回ってるときは競争力向上に効いてきますが、これだけ品質の平均値があがってくると、メーカーのモノづくりの誠意としては良いが、競争戦略としては有効ではないケースも多い。
こういう、調査の限界や、競争戦略の原則を知らないままに、顧客からの評価の差を埋めても売上があがらなかった、という経験から「マーケティングは使えない」「調査は役にたたない」という言説がおこりがちです。
マーケティングは「顧客調査結果の言うとおりにする」ことではありません。
ただ、その誤解の蔓延を許してるのは、弊社を含め、マーケティング支援側業界が啓蒙していく努力なり力量が不足しているからなんですよね。たまに、マーケティング支援側の人でも、同じようなロジックで「調査結果が弱いところを埋めれば良いよね」とリードをしていてびっくらこくので、世の中の多くの企業現場で多発しているこわさを感じます。
自社が王者ブランドなら、下位のブランドが仕掛けてきた差別化施策をパクるのは、モラルはさておき、戦略論としては正しいのです。トヨタが下位のブランドの車をパクる、NTTドコモがソフトバンクのiPhone導入をパクる、InstagramがSnapchatをパクる・・・これは競争戦略としては正しい。
もちろん王者もパクるだけでは先行きはないのですが、王者ブランドがチャレンジャーのブランドをパクることは、チャレンジャー側の差別化を無効化し、市場競争では有意な防御施策になります。
本当に恐ろしいスキのない王者は、下位ブランドの差別化施策を無効化しながら、自社のリソースでなければ実現できないような大きなイノベーションの構想を描き、仕込み、実行し続ける会社です。
王者だと社内も緩んできて、なかなかできないですし、本質的にイノベーションはDisruptive=破壊的であるがゆえに、自社が現在儲かっているビジネスも破壊しそうで、なかなか踏み込めなったり。
マーケティング調査を使いこなすのは案外難しく、統計的知識も最低限あったほうが良いのですが、統計や分析手法を極めれば、良いマーケティング戦略が描けるわけではありません。あくまでも意思決定したいイシューを洗い出したうえで、イシューに適切な調査の手法と分析を使うというイシュー起点が重要です。
調査を設計するときに、「何を顧客に聞きたいか?」をという問いを入口にすると論点が拡散して間違えます。細部を考えれば、聞きたいこと~聞いたほうが良いことなんて山ほど出て来る。
そうではなく「顧客調査の結果から、何を決めたいのか?それはどんな意思決定のオプション~分岐があるのか?どんな材料があれば適切な意思決定ができるのか?」を問うべきなのです。
これはリサーチャーの仕事ではなく、リサーチャーに依頼する側の仕事であっって、これがないままに進んでしまう顧客調査は、聞きたいことの答えが羅列した分厚いレポートが来て、その成果は・・・???です。
ビジネスをわかっている人は、リサーチをわかっていないことが多く、逆に、リサーチのプロは、その活用先となるビジネスを理解していないことが多い。
この間を埋めて、つなげることは、マーケティング調査をするうえで大変重要と感じておりますし、手前味噌ですが、私の会社のインサイトフォースがコンサルティング案件の中で提供している機能のひとつかな、と思っております。