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爆走!爆走!爆走に次ぐ奇行に次ぐ爆走!

「グミ食べたい」
深夜にこう思うのは恐らく一般人の思考。だから僕は一般人
「あんたコンビニ行くの」
姉貴が言う。
「深夜コンビニ行くのって結構覚悟いるじゃない。それだけほしいものがあるのね」
そんなんじゃないし。グミはいつだって食べたいし。僕が行くの西友だし。
「なんなら、西友まで行っちゃうけどね」
「えええええ」
ふん。すごいだろ。深夜でも西友まで行けちゃうんだぜ

自転車にまたがる。なんか焦げ臭いな。隣の家のタバコとうちの蚊取り線香が奇跡のマリアージュだ。おおう、煙くさい。いぶし銀。スモーキーばいさこー

西友まで爆走。自転車で行けばだいたいどこでも一瞬。神保町も今治も一瞬だった。これが心の距離ってやつ。横目に飲み屋で両手をあげて喜ぶお兄ちゃん発見。その心笑ってないね。明日金曜日だもん。木曜日の飲み会ほど割り切れないものはないよね。あんちゃん、肘曲がってんぞ

蒸し暑い千葉県の街、札幌は今いい感じの気候のはず。札幌ってなんだか閉鎖的だけどのんびりしたところだった。

僕の長崎出身の友人はこんなことを言ってた


寒いし、自然が少ないし、空が狭いし、海がないし、街には坂がないし、道は無機質な格子状。

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まあ確かにその通りだけど、長崎なんていう自然も歴史もあるところで育っちゃうと、もうどこにも住めんよねえ。札幌も千葉も似たような規模の街だけど東京に比べたらマシ。だいぶ緩やかに生きられる。たぶん彼女が東京に住んだらあまりの流れの速さに手足がバラバラになっちゃうのかも。フラジャイルな原生生物みたいに


醤油は甘口。

あとみんなこれも言うよね。やっぱり九州はよくわからん。僕は嫌い、甘口の醤油。だっておいしくないもん。あれはどの文脈で使えばいいの?



西友は大学生だらけ。木曜日も金曜日もおまえら関係ないもんな。
いや違いますよ。僕は違います。
確かに大学生です。大学生は大学生なんだけど、この人たちとは違う大学っていうかぁ、地元の他大生ですよ。服装似てるんだけどね厳密には違うの。今から説明するね


今日、姉貴が実家に帰ってきて色々な話をしました。

・ピーマンとパプリカは何が違うの?
・ダンゴムシは許せるけどワラジムシはキモい
・蝶はもてはやすのに蛾は毛嫌いするのなんで?

姉貴が返ってくると夏休みこども相談室ばりに素朴な疑問が投げかけられます。それに一つ一つ解説または仮説を打ち返す「ぼく」(22)

「品種が違うのよ、でも生物種としては一緒」
「じゃあ何が違うの?」
「あんな肉厚なピーマンあったら嫌でしょ」

まあこんな感じ


小原君と千葉大生の見分け方も説明しとくよ

顔を見ましょう。普通の顔してるのが千葉大生、顔色は暗いくせに目がキマッてるのが小原君。次に財布の中を見ましょう。これは一発でわかるよ。
グミ買いに来たって顔してるのに、42円しか持ってないのが小原君。
まあチョウとガぐらいの差しかありません。

てなわけで、グミ売り場前で呆然。左手には二層サワーズのラムネ味。これノーベルのマスターピースだからみんなも食べな。
「これじゃ駄菓子も買えねえぜ」
うまい棒は買えるね。この言葉誇張じゃなくても使うんだね

僕のくまちゃんのお財布。おばあちゃんからもらった。つぶらな黒目がランランと訴えかける。
「ないもんはないよ」
小銭入れという概念を導入して久しいけど、この小銭入れマジックテープが馬鹿になっちゃってあまり機能しない。気づけばバックの中が小銭いれになってる。ジャカジャカパラダイスなのだ。
でも許しちゃう。だってくまちゃん可愛いから。ああ可愛い

家に帰って姉にこのことを伝えたら
「千葉大生から百円借りればよかったじゃん」
曰く、こんな感じにのたまうわが姉君
そういうとこだぞ、あんたがおかしいのは

でもしょうがないから帰るよね。だって貧乏だし
買うものないけど、いやえっと買えるものないけど西友は大股で闊歩しちゃう。自転車置き場まで大股大股、どーーーん


自転車置き場にちょうど僕が出しにくいように新参者の自転車が置いてある
なぬ。生意気だぞ。しかも前籠に「しあわせバナナクレープ」が入ってる。
よりにもよって今の僕にそれやる?しかも「しあわせ」ってお前。嫌味にもほどがあるやろ。


こうしよう。
僕がそのクレープを握りつぶす。当然持ち主は悲しむ。僕はというと、別に嬉しくもスッキリもしない。クレープとか興味ないし。アレルギーで食えないもん。うん、ありだな。少なくとも今考えてる小説の主人公ならそうしたね。
「僕だって出来ることならクレープなんて潰したくなかったよ。自分の手で誰かが不幸になるなんて耐えられないじゃないか」
うん、いい感じ。こいつは思いつめた顔で居酒屋の前においてある酒樽の中身を全部ココナッツミルクにしてしまうようなやつだ。


ほらおじいちゃん、帰るよ。おじいちゃんは自転車を爆走した。風のように走った。日が沈むよりも速く走っちゃた。
ハンドルを右に傾けた時左足を踏み込む、左に傾けた時は右足を、
通称メトロームなんとか。これが速いのなんの、爆走に次ぐ爆走。時は大爆走時代。




曲がれ!!

曲がりました。



めぐる本棚っていう地域の本棚をみて帰ろうと思って、公園の前で急ハンドル。ズザーって派手な音がして本棚の前に滑り込む。ちょうど棚の目の前で止まって、顔と本の距離約15cm。


モンテクリスト伯 上
モンテクリスト伯 中
モンテクリスト伯 下

ドドンと登場です。

ガン見だよこれ。やだよこんな人こわい

隣で歩いてた千葉大生の姉ちゃんふたりもたぶんそう思ってた。
僕でもそう思う。別に僕だって好きで僕みたいなことやってるわけじゃないし。なんだよこっち見んなよ。前歯引っこ抜くぞ

ここの本棚の本、マシになったなあ。今まで陰謀論とかばっかだったのに。ありがとうフォトンってなんやねん。聞いたことないぞそんな光子。それにひきかえ『モンテクリスト伯』。いいじゃんいいじゃん。お持ち帰り決定です。

公園にも千葉大生発見。シーソーには男子5人組。ベンチにはカップル。お前らさあ。夏だからやってるだろそれ。どうせあれだろ、夏の夜の雰囲気に浮かされちゃって青春を語り合ってんだろ?お前ら冬場はそんなことやってないだろ。知ってんだぞ地元民は。全く…人間関係に時も場所も関係ないんだわ。困ったやつらだ

わかった。今からワイがお前らを試しちゃる。よう見とき。

懐かしい話。
コメちゃんと千葉のヨドバシカメラにいた時の話。
エスカレータを降りてるさなか、下の階におじさんがいる。
おじさんが手に持ってたコーラを開けたら盛大に中身が噴出した。
それはもう盛大に。メントスをいれたんじゃないかってくらい。
もちろんエスカレーターの降り口はびしゃびしゃ。
おじさんは何食わぬ顔で通り過ぎて行った。

それだけの話なんだけど。僕らはあの日大爆笑した。そして7年ほどたった今でも、事あるごとにその話を掘り返して大爆笑する。あのおじさんの澄まし顔はあり得ないくらい鮮明で、どうやら一生忘れられそうにない。

あのおじさんは僕らの人間関係を語るうえで絶対に欠かせない存在だし、僕らの人生に多大な影響を与えた。僕らがもし、売れっ子芸人になったらあのおじさんと一緒にひな壇に並ぶし、もしノーベル平和賞を受賞したら一緒に壇上に上がる。それくらいのキーパーソンなんだよね!

僕は今からあのおじさんになるよ。到底及ばないかもしれないけど、僕頑張る。もし、僕のせいでなんかエモくてチルい雰囲気がぶち壊しになって、「あああ、なんかしらけちゃった」ってなるんだったら、君たちの関係はその程度の物だったてこと。逆に「なんだあいつ馬鹿じゃねぇの」って10年後にも思い出せる笑い話になるんだったら、いいよね。僕としてもうれしい。

僕は今から君たちの友情を、愛情を、試させてもらう。
いざ参る!








「こっちをみろおおおおおおお」



大声で叫ぶ。
左手には『モンテクリスト伯』を鷲掴み。もちろん上中下セット
変なポーズで児童公園を自転車で爆走&縦断
釜じいもビックリなぐらい足をガニ股に高く持ち上げる
ここで重要、アシンメトリー。ビューティーな気持ち悪さを演出

小原君は公園を吹き抜ける一陣の風となった
それはもう。風って感じ

いやあ良いことしたなあ。これで彼らがノーベル平和賞を受賞したときは…(以下略)。礼装の準備しとかなきゃね。いやあこれ偉業達成RTAだろ。うんうん良いことした。今日は早く寝よう。


家に帰ってグミが買えなかった話をしたら、姉がハリボーグミの食べ残しをくれた。
「42円ぶんってこれくらいでしょ」
ハリボーグミが四粒入ってた。
「いてえええ」
虫歯によく染みた。








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