登記上の代表取締役等の住所の非表示措置について(実務論点)

商業登記規則の改正に伴い、代表取締役等の住所非表示措置に関する令和6年7月26日民商第116号通達(以下、本通達)が発出されています。これにより、代表取締役等(以下、代表取締役)の住所非表示措置に関する実務運用に関しての取り扱いがある程度明確化されています。

とはいえ、実際にはいくつも運用が不明確な点があるため、解釈(私見や推測を含みます。)及び今後の運用状況を随時アップデートしていきます。

・代表取締役が外国居住の場合は、非表示措置の対象になるのか?

非表示措置をする場合は、代表取締役の住所の行政区画までを登記事項証明書等に記載することになりますが、この「行政区画」については、本通達上、以下の定義があります。

なお、ここでいう「行政区画」とは、都道府県及び市区町村をいい、指定都市(地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項に規定する指定都市をいう。)においては、同法第252条の20第1項に規定する区を含むものとする。

つまり、都道府県及び市区町村(政令指定都市の区を含む)以外は行政区画として認めないことになるので、外国住所では該当する行政区画がなく、非表示措置ができないものと考えられます。これに対し、日本の行政区画に準じた取り扱いを認める可能性もないとは言えませんが、文理的に言えば、行政区画の定義を明らかにしている以上、これに該当しないものは、行政区画以下の部分を非表示にできないと解するのが自然であると思われます。

※2024年12月24日追記

『月報司法書士』No.634の77頁以下、「代表取締役等住所非表示措置に関するQ&A」(新保さゆり司法書士)によると、外国住所であっても代表取締役の住所非表示措置の対象になるとあります。仮にそうであるとすれば、上記通達において、「ここでいう「行政区画」とは、~これらに類する外国におけるものを含むものとする。」とすればよかったのではないでしょうか。

・本人申請(司法書士などに登記申請を依頼しないで、ご自身で登記申請する方法)をとる場合は、非表示措置の申出はできないのか。

このような質問を頂くことがありますが、法文上は可能です。但し、資格者代理人が作成する証明書類(本店の実在性を確認したことを証する書面、実質的支配者の本人特定事項を証する書面)については、本人申請の場合は作成することができないため、これに代わる書面は認められるのか(当然同じ方法は認められないため、他の信ぴょう性のある客観的書面)、については、現時点の実務運用上は明らかではない部分があります。

・非表示措置の申し出ができる登記について、代表取締役等の就任登記が挙げられているが、これは、当該非表示措置の申し出の対象となる代表取締役等の就任のみを意味するということか。(たとえば、代表取締役Aが就任する登記の際に、既に登記されている代表取締役Bの非表示措置の申し出はできないということか)

そのような趣旨であると考えられます。記載例を見ますと、対象となる代表取締役の役員欄の枠の中で新たな登記が入っている場合か、管轄外本店移転登記のように新たに登記簿を調製している場合のみとなっているため、就任した代表取締役以外の代表取締役についての申し出を行うことはできないと考えられます。

・ファンドヴィークルのような株式会社がある場合、そのヴィークルの親会社の実態が存する場所において、同居していると認められることを資格者代理人が確認した場合には、本店の実在性を証する書面にそのような記載をして受理されるか。

実在性がないと認められる場合について、郵便物の不達等が挙げられているため、少なくともその会社の会社名を名宛人とした郵便物が届くことは最低限必要と思われますが、本店の実在性を証する書面として、確認日時や具体的な確認方法を資格者代理人が記載した書面を提出することが求められており、その記載が不合理なものでなければ認められる可能性が高いと思われます。とはいえ、間接的な方法の場合は、最終的には登記官判断になると思われます。

・会社設立時の本店の実在性を証する書面とは、どのように作成することになるか。

運用によるところなので、現時点ではなんとも言えませんが、宛名の商号・本店所在地が登記と一致していれば、配達証明等でよいことになるそうです。

とはいえ、以下のような問題が想定されます。

・会社設立前に会社名義で賃貸借契約を締結することは通常できないこと

・契約期間開始前に利用する(郵便の受け取りやスペースの利用をする)ことは禁止されていること

このため、通常は、持ち家の自宅兼事務所などでない限りは、郵便による実在性確認はリスクや不確実性があると思われます。また、そもそも会社が成立するのは設立登記を申請した時であるため、事前(設立登記前)にどのような確認をしたとしても、そこにその会社の本店がまだ存在しているとは論理的に言えないのではないか、という問題があります。

・非表示措置が講じられた場合、自分(代表取締役)自身やその会社自身が登記事項証明書を取得する場合には、代表取締役の住所の全部を表示させたものを取得できるのか。

できません。そのような方法について何ら法令上規定されていないためです。

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