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黒鳥社より2024年年始のご挨拶 【blkswn CEO土屋繼】

Photo by Sven Creutzmann/Mambo Photography/Getty Images

このたび、能登半島地震で被災された方々へ心よりお見舞い申し上げます。少しでも早い復興を祈念申し上げます。

元日から大きな事件が続き、挨拶文を公開するかどうか悩んだ。

しかしながら、意外とこの挨拶文を毎年読んでいる方々がいらっしゃるようで、「読みましたよ」みたいな感じで初見の方々に言われることが増えた。駄文に目を通していただき本当にありがたいと思う。そういう意味では、このnoteのようなプラットフォームが、自分のような人間にも文章を公開する機会を与えているというのは、インターネットテクノロジーによる社会の民主化の、小さな一事例になるのだろうと改めて感じる。

そしてこんな文章を通してでも少しは気持ちが届けば嬉しいと思うが、それはあまりにも楽観的だろうか。とはいえ、出版社という会社の意味合いを考えるとこうやって何かの文字を発信するのもひとつの役割なのではないかとも思う。もちろんこういった姿勢に対して批判的な意見があるのも当然だとも思う。そんなことを考えながらも結局公開することにした。

いきなり呑気な話になるが、Don Wasという音楽プロデューサーがいる。
The Rolling Stonesのいくつかのアルバムのプロデューサーとして、あるいはジャズレーベル〈Blue Note Records〉の社長として有名なミュージシャンであるが、1979年に「Was(Not Was)」というグループを結成し、1980年代〜1990年代初頭にかけてアルバムを何枚かリリースしている。そのうちの1枚に収録されていて、個人的にイカしていると当時から思っていたシングルがある。その名も「I Feel Better Than James Brown」という1曲だ。

これくらいの時期の音楽シーンには、なかなかイカした曲名がつけられた楽曲がちょいちょいあったような気がするが、いかにもジャンキーっぽい飛んだ内容だと推測される曲名に、当時だけでなく現在の僕も少しだけワクワクするような感じがある。


なんでこんな話から入ったかというと、何ということはない。歌詞に「Fidel Castro」の一節があるからだ。カストロ(カタカナ表記にするが)は言うまでもなく、キューバの革命家であり政治家である。2016年にその人生を終えているが、1989年のベルリンの壁崩壊時には63歳であり、この「I Feel Better…」がリリースされた1990年においてはなおもその力は健在だったと記憶している。この曲の歌詞にはカストロだけでなく、CIAも登場するが、1990年当時も続いていた東西冷戦の背景を考えれば別に驚くことではない。しかしながら、それから34年が過ぎた現在、この曲を改めて聴くとかなり不思議な気持ちになる。

その気持ちは何を表しているのだろうか? 2023年を通じて、否、ここ10年以上を通じて幾度となく目の当たりにしてきた、二項対立の終焉に対しての郷愁の念のようなものなのかもしれない。とっくに終わったはずの二項対立に僕らは、僕だけなのかもしれないが、強く縛られていると感じることが多い。それだけでなく時には、二項対立の存在そのものに、安堵感にも似た、ある種の居心地の良さのようなものを感じている瞬間があるかのようにも思う。そして僕にとってカストロは、その二項対立の現象の象徴であり、代表のように感じているのかもしれない。

2023年はそういう意味において、2022年以前よりもはるかに強く、二項対立の終焉を感じざるを得ない年であっただけでなく、もはや対立の軸そのものがどこにあるのか、よくわからない摩訶不思議な出来事がたくさんあったように思う。論点が多くあり、正義の主張、悪の主張が交差し合い途方に暮れ、特にはねじれの位置にあることに絶望し、自分自身、自らのアイデンティティの立脚点すら見えなくなるような錯覚すら覚える1年だったと感じる。

その延長にあるかのように思えるこの2024年には、どのような未来があるのか。そしてどんな論点が、あるいは対立が、そして線引きすることが難しい僕らの想像の臨界点を超える事象が起きるのだろうか。もはや絶望ともいえなくはない、ただひたすら不安と焦燥のみに包まれた時間を過ごすことになるのではないかと思う。

そんな状況に対して、黒鳥社という会社としては、変わらず何かしらの見方やスタンス、そしてきっかけを提示できればといつもながら思う。そして毎度毎度、年初に同じことを考えてしまうのは自分の“癖”なんだろう。

引き続き、みなさまからの暖かいご支援、ご協力を頂戴できれば幸いです。
本年もどうぞ宜しくお願いいたします。

土屋繼
株式会社黒鳥社
代表取締役CEO/マネージングディレクター