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「ギョーカイ」を敵に回してみよう

映像「ギョーカイ」の片隅で、細々と10年映画を撮ってきました。

もちろん、私の知っている「ギョーカイ」など、ごくごく一部であることは理解しています。故に、おそらくマスメディアで騒がれているような「ギョーカイ」と同一ではないと信じていますが、仲の良い後輩に「映画業界ってどう思う?」と質問して「腐りきってますね」と即答されると、わかってはいたけど、なかなか傷つくぜというくらいには、「ギョーカイ」ってヤダなと思っているわけです。

そこで、既に「ギョーカイ」からスポイルされている私だからこそできる実験として、映像「ギョーカイ」を敵に回してみようと思いました。(実際には、気付かれることすらないのだけど)

そんなことをいいながら、結局はお前も「ギョーカイ」を否定しながら「ギョーカイ」を延命させたいだけなのだろう?といわれないために、「ギョーカイ」の見やすい特質を3つ挙げ、そのいちいちに私がとってきた孤独な抵抗を記していこうと思います。

①ファッション

男性映画監督の紹介ページや著者近影などを鑑みると、黒縁メガネにあごひげ+ヘンな帽子というわけのわからないファッションが横行しています。誰が指南しているか分かりませんが、恥ずかしいくらいよく似ているように見えます。

私は近眼なのでメガネは外せませんが、「ギョーカイ」人とは思われたくないので、黒縁メガネは使用しないことにしました。あごひげも絶対剃ります。最近、お蔵になった映画の小道具として白衣を買ったので、公の場に出る際には、白衣を着ることになるかもしれませんが、ヘンな帽子は死んでもかぶらないことをここに誓います。

②宣伝

「ギョーカイ」には縦のつながりと横のつながりがあります。映画学校などの学閥や、配給会社などのビジネスつながり、監督同士が相互扶助のようなかたちで宣伝をし合うこともあります。それ自体は悪いことだとは思いませんが、仲間内で宣伝し合うだけで、たとえば海外の新人作家など自分と関係の薄い人物については一切語らないというような閉鎖的かつ利己的な空間を醸成するならば、それもやはり「ギョーカイ」なのではないかと思います。

そこで私は、一人の監督が一人の観客に映画を届ける「映画の細胞」という仕組みを作り上げ、宣伝と距離を取ることにしました。
宣伝をしないと認知が遅れるなど、デメリットは山のようにあるのですが、今のところ「ギョーカイ」のルールに従わないことのほうが気楽で楽しいので、一瞬間でも志を同じくする者たちと、経済以外の豊かさを獲得することはできるのかという遠大なテーマとも絡めあわせつつ、小さな実験を細々と続けていこうと企んでいます。

③キャスティング

「ギョーカイ」は、視聴率や再生数などの売り上げをモラルより優先してきたため、キャストを起用する際にも同様のジャッジを仕向けてきがちです。しかし、これは「ギョーカイ」だけの問題なのでしょうか。マッチング・アプリのやり取りなどを伝え聞くと、どうもそういったジャッジは日常茶飯のようで、誰の中にも通底する平凡な傾向なのではないかと思えてなりません。つまり、「ギョーカイ」の問題の半分は、私利私欲から生まれたコンテンツを有難がる観客の側にあるような気がしてならないのです。

「ギョーカイ」を潜在的に支え、実は肯定もしている観客の貪婪な視線からキャストを守るためには、法規制とか契約書などの突貫工事ではなく、もっとシンプルに「キャストを出さずに映画を成立させる」ことが肝要であるように思いました。結果、近年の私の作品には、生成AI以外では殆ど人間が出演しないというかたちに落ち着いています。
もちろん、この演出プランはかなり異端です。賛否もあるでしょう。しかし例えば、エロス表現ひとつとってみても、女性キャストを物理的に裸体にするというような網膜的な演出ではなく、劇伴や美術、ナレーシッョン領域において内面を露出させるなど、抽象的な参与のかたちはいくらでも創造しうるように思えるのです。逆をいえば、そういったレトリックをひた隠しにしてきたのが、今の映画「ギョーカイ」なのではないでしょうか。

ここまでお読みいただいた方の中には、こんなにも一方的に「ギョーカイ」をあげつらって大丈夫かと心配される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、まったく問題ありません。なんとなれば、「ギョーカイ」が興味あるのは、いつだって内容ではなく経済効果の見込まれる広義の影響力であり、私の記事が大多数に読まれるなどのハプニングが起きない限りは安全圏にあると確信が持てるからです。

では、いったい誰のために書いているのか?
もちろん、「ギョーカイ」が滅び去った後に来るであろうゆるやかな結びつきを待ちわびている新しい人に向けてです。もっとも、そういった方々は「ギョーカイ」の傾向など一切気にせず、淡々と作品を作り続けているとは思いますけど。

※注 すべての業界が悪いわけではありません。素晴らしい業界も存在します。多分

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