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視覚障害者も晴眼者も存分に楽しめる「ヴァンジ彫刻庭園美術館」

和久井はよく美術館に行くのですが、最近気になっていることがあります。
ダイナミックな壁画や華やかなドレスなど、美術館の展示はいつもため息が出るほど美しいのですが、これを視覚障害者がどのように楽しめるのかということです。

言葉を尽くして展示を説明することもひとつの方法だと思いますが、やはり誰かのフィルターを通しているので、なかなか伝わりにくいのじゃないかと思うのです。
しかも、館内ではお喋り禁止、撮影禁止の美術館も多く、黙々と目で見て「ううむ」と唸って帰ってくる、という展示が多いのではないでしょうか。

視覚障害のうち、ロービジョンといわれる方たちは、視野が欠けていたり、狭かったりするので、写真に撮って拡大すると見えることがよくあるようです。展示物に近づけなかったり、ケースの中に入っているような場合は、写真に撮れると、よりよく見えて楽しめることも、是非知っていただきたいです。

さて、2023年6月4日、静岡県三島市にあるヴァンジ彫刻庭園美術館に見学に行ってきました。ここをユニバーサル・ツーリズムの拠点にしようということで、視覚障害のある方が楽しめるしかけがたくさんあるのです。

美術館の建物。ここにもいろいろなしかけがありました。
反対側から見ると、屋根の上に猫のように眼下を見下ろす彫刻が。

ジュリアーノ・ヴァンジは1931年生まれのイタリア人彫刻家です。人間の悲哀や生きる苦しみを表現、人間を深く見つめた作品で評価がとても高いかたです(受け売り)。

まず「庭園美術館」なので、彫刻の多くは屋外にあります。なだらかな丘陵には点々とヴァンジの彫刻が据え置かれています。

コンクリートを歩けばがっしりした感触、芝生に入ればフカフカ。足元からもさまざまな感触がわかります。

いつもは「見る」だけの美術作品ですが、ガシガシ触ってOK。実際に触って見ると素材によってヒンヤリと冷たかったり、太陽のぬくもりを吸い込んで温かかったり、ツルツルだったりザラザラだったり、想像以上の表情がありました。美術を「体験」する感じです。これぜんぶ、ヴァンジ氏自身の希望により実施されているそうです。

「壁をよじ登る男」(1970年、ブロンズ、アルミニウム)。壁をよじ登った男が、その向こうの景色を見て何かを感じているような表情をしています。後ろから見るととてもコミカルです。

木々のさざめく音、鳥の鳴き声、お花の甘い香りや芝の青い香り。季節も良くて風がすがすがしく、全身で庭園と美術を満喫しました。

小さな丘の上にそびえるクスノキ。

五感をフル発動する美術館でした。

そして「五感」というからには、視覚は5つの感覚のうちのひとつ。
視覚障害のある方とその感覚の4/5を共有できる美術館なのです。

橋にはレールガイドがついていて、視界を汚すことなく白杖のかたも歩きやすいように配慮されています。

レールガイドは白杖を当てやすく、引っかからないように角度や高さにこだわり独自に制作したとのこと。

ナビレンズという視覚障害支援のガイドアプリがあります。
この美術館はナビレンズで細かくガイドしてくれる日本初の美術館だそうで、「視覚障害者がひとりで美術館に来られる・楽しめる」ことを目的として作られているとか。
そのため白杖のかたも迷わず進める上、適切な説明で作品の詳細を知ることができます。
ガイドをするほうの負担もかなり低く、アテンドしながらも(する必要がほとんどないですが)一緒に楽しめるでしょう

ナビレンズのコードがここそこに設置されています。スマホをかざすと即座に読み込み、どの方向へ進めばいいのか、どこに何があるのかなど詳細な説明が読み上げられます。


この階段を下ると……
小さな空間の中に、男性と抱きあっている大坂なおみ(似の彫刻)が。音が反響するため空間の大きさがわかるはずです。


ヴァンジ彫刻庭園美術館、現在はコロナ禍により経営難に陥り休園中です。ぜひユニバーサルツーリズムの拠点として再開してほしい。
四季折々、何度行っても楽しめることと思います。
とても素晴らしい施設でした。

ブラインドライターズは、スタッフ全員がなにかしらの障害があります。みんなが心地よく生きられる社会のために、エンタメや教育のユニバーサル化を応援していきます。

ヴァンジ彫刻庭園美術館
〒411-0931
静岡県長泉町東野クレマチスの丘347-1


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