【コラム】 実用的かはさておき
点字版の母子手帳があるのをご存じだろうか。我々視覚障碍者でも読めるように、母子手帳の内容を点字化した冊子だ。かく言う私も役所で教えてもらうまでその存在を知らなかった。
妻の出産からさかのぼること約9ヶ月前、役所に母子手帳をもらいに行くと、やたら分厚い冊子があることに気付いた。広辞苑ともいえそうな大きさのこの冊子こそが、点字版の母子手帳だ。夫婦ともに全盲の視覚障害であることを職員さんに伝えたところ、これをもらうことができた。
書いてある内容は一般の母子手帳とほぼ同じである。日常から点字を使っている人ならあるあるだと思うが、点字はひらがなしかなくかつ浮き出る文字なため、非常に分厚くて重いものになる。高校まで勉強していた教科書をほうふつとさせた。
ただ実用的かと言われるとなかなかそうは言い難いのが現状だ。持ち運ぶにも荷物になるし、そもそも母子手帳には我々が書き込むべきことが山ほどある。仮に点字で書き込めたとしても、それを病院のスタッフなど第三者が確認できないのでは意味がない。
では全く無駄なものなのかと言うとそうでもない。母子手帳なんて僕自身人生で初めて手にしたもので、それにどんなことが書いてあるのか内容をしっかり知るというところで大変役に立った。そして視覚障碍者の子育てが少しは行政にも認知されているという事実に安心したのも確かだ。
欲を言えばいっそのことアプリなどにして、スマホで書き込んだり管理ができると、我々も同じように扱うことができる。これは以前に出生手続きの時にも書いたことだが、紙ではなくwebやアプリになるということは、我々視覚障碍者でも使える可能性を広げることにもつながるのだ。
今もこの点字版母子手帳は、我が家の本棚に大事に保管している。この先もし第2子ができることがあったとしても、まあこの母子手帳は1冊でいいだろう。