もしひなちゃんが・・・
ある日の夕食時の我々夫婦の会話。
僕 「もしひなちゃんに、(我々が視覚障害の両親であるということで)こんな家庭にどうして私を生んだんだって言われたらなんて答える?」
妻 「私たちが見えないっていうことで、いじめにあったりした時にってことだよね」
僕 「うん。
例えばそこでごめんって謝るのは違うと思うねんな。謝った瞬間に、ひなちゃん自身の存在を僕らが否定してしまうことになるから」
妻 「そうだね。まずはひなちゃんの言いたいことを全部聞いてあげることじゃない?
そんで私たち家族でもっと他に楽しいことを見つけていこうよって言うかな」
僕 「パパとママはひなちゃんが生まれてきてくれて本当に幸せなんだよってことも一緒に伝えたいかな」
妻 「親の自己満足って言われるかもしれないけどね」
僕 「たしかに。実際ひなちゃんがその瞬間幸せと感じてないならそれは僕らの自己満足やね。
その時はひなちゃんの言いたいことを全部受け止めてあげることかな。僕らはどんなこと言われたっていいわけやし」
妻 「大人だったらさ、そんなやつ(親が視覚障害ということで心無いことを言う人)となんて付き合わなくていいって言ってやりたいけど、子供にそれを言うわけにはいかないもんね」
僕 「確かに大人やったら言ってまう(笑)
いろんな人がいることを知って自分で選ぶならまだしも、いろんな人と出会う前から選択肢を狭めたくないし。
それに、ひなちゃんに言い返せなくしたら終わりやと思う。説明をして納得させる問題じゃないし」
妻 「逃げ道は作ってあげないとね。理屈で説明することはいくらでもできるけど、なんの解決にもならないし」
僕 「それこそほんまに僕らの自己満足やな(笑)」
妻 「学校以外に別のコミュニティーに参加させてあげるとか。
私たちができることってそこで何か言うことじゃなくて、ひなちゃんのことを認めてくれる別の環境を作ってあげることだと思う。
学校だけが世界の全てになったらそこが行き詰まった時本当に辛いから」
僕 「習い事とかサークルとかなんでもいいもんな。ひなちゃんの居場所がそこにあれば」
妻 「学校は大事だよ。でも勉強だけでいったら塾っていう選択肢もあるし」
そこでいったん会話が途切れた後、しばらくして妻は言った。
妻 「あのさ一つ思ったんだけど。ひなちゃんが私たちになんで生んだんだって言ってくれた方が幸せじゃない?だって言ってくれないかもしれないよ」
僕 「それは…」
妻 「きっとひなちゃんはいっぱい愛されて優しい子に育つよ。そうしたら私たちがそれを言われて傷つくこともわかる子になるから」
僕はしばらく返す言葉が見つからなかった。
僕 「それはもう、なんとしてでも僕らが気づいてあげるしかないな。
ひなちゃんが言葉に出さなくても、どんな些細なことでもひなちゃんの変化に気付いてあげられるぐらい一緒に時間を過ごさんと」
そこから話題はなんでもない美味しいデザートの話に移って行った。
我々の会話の9割以上を占めている食べ物の話の合間に、こんな会話をしたことを、いつの日かやってくるかもしれないその時のために、記録に残しておきたいと思った。