超短編小説-「ダチョウと子象。」
さっき書いた短編をアップします。
よくある休憩時間、作業場喫煙所の風景かと思います。
「ダチョウと子象」 作・よーかん
清掃員のオバサンがバケツに古い灰皿の中身を入れ、新しい灰皿を置いてくれた。
オレが清掃員のオバサンに会釈して、彼女が去ると同時に、チエコ氏が難しい表情で唸り声をあげた。
「うーん・・・。」
チエコ氏は唇の端に煙草を挟んだまま、しかめっ面でスマホを睨んでいる。
壁時計を確認すると休憩時間はまだ10分弱も残っている。
「・・・。」
どうやらチエコ氏は質問してもらいたいようだ。
「ナニ?その、うーんって?」
まあ、時間もあるし、いいかと思い訊いてあげた。
「いえですね、この写真どう見ます?」
差し出されたスマホには、地面にかがんだ大きなダチョウに、子象が寄りかかって、気持ちよさそうに眠っている姿があった。
アフリカのサバンナかなにかの景色らしい。
フェイスブックのポストだ。
大きな英語の文字で「赤ちゃん象がダチョウの枕で寝むる世界はワタシ好みの世界です」そんな言葉が書いてある。
「え、どうって、どう?」
可愛いじゃんか、そう思ったが、チエコ氏に半端な答えを返すと怪我をする。
用心にこしたことはない。過去、チエコ氏に生半可な返事をして、幾度も痛い目にあっている。
こう見えてワタシはマゾでもなんでもない。
「どうってどう?って、クラ先輩それ、マジらしくないダメリアクションっすは。」
これは、静かに喧嘩売られているのかもなと、内心苦笑いしたが、素の顔でもう一度応える。
「象がダチョウを枕に寝て、ナニか問題ある?なんだよ、ダチョウを枕にしたらダメだ象、とか言ったらハッ倒すよチエコ氏。」
「あ、いえ、そういうんじゃなくて、キモくないっすか?」
チエコ氏は、用意していたダジャレを先に言われたのが悔しかったのか、スマホをぐっとオレの顔に突きつけてみせた。
小さい指だ。薬指のマニキュアが少し剥がれている。
「ああ、キモいか、理解る気がする。」
「ナニ、面倒くさそうに答えてるんすかぁ・・・。」
煙草をそっと口からはずし、長くなった灰を器用に灰皿に運んで落としている。こういう所だけは、なかなか良いオンナだチエコ氏は。
「だって、単純にカワイイじゃんか。」
真顔で眼を見つめて言ってやった。
「キモすぎっ。」
笑顔を隠すように下を向く。そのまま手を伸ばし灰皿で煙草をもみ消している。
「キモくねえよ。」
今回はオイラの勝利だ。
久しぶりの勝利。
盛大に煙草をふかしてやろう。
ありがとうございます。