超短編小説。「ヤマトナデシコ」
一昔前に書いた文章を改訂してみました。
好きな風景なので、また気が向いたらイジり直すだろうなと思っています。
京成沿線の千葉の夕暮れはこんな感じかと思っていただけると嬉しいです。
ヤマトナデシコ 作・よーかん
雲っていたけど、快適な一日だった。
細かい失敗に目をつぶれば、作業も順調に進んだ。
修正がきく許せる失敗だ。
早く上がって正解だった。
帰りの電車が快適だった。
座って本をゆっくり読めた。
向かいの席の足元に傘が横たわっていた。
電車の妙な空き具合に、祝日だったかなと疑問に思った。
大きなバックパックをドア側に置いた白人女性が、優先席でマドレーヌをムシャムシャ食べていてた。
お腹すいてんだろうなと思った。
途中駅から乗ったお母さん二人連れが、昨日秋葉原でおきた事件のことを話しながら、こわいはねぇ、ホントこわいはねぇと連発していた。
ホントに怖いと思ってんのかなぁと疑問に思った。
スポーツクラブのロッカーで水着とゴーグルを忘れたのにハッと気付いた。
しょうがないから、久しぶりにサウナにチャレンジした。
けっこう頑張ったら、ものの見事にのぼせてしまった。
受付の子に、サウナでノボセたと言ったら笑われた。
髪の色が黒に戻っていたのに気づいたがコメントは控えておいた。
外は暗くなっていた。
夜空を見上げたらビールが飲みたくなり、コンビニに寄ることにした。
コンビニの明かりを目指して歩きながら、あの傘を拾っておけばよかったなと後悔した。
交差点で信号を待っていたら。女子中学生二人組が素早く信号無視して横断していった。
やるなぁと感心していたら、スーパーカブにまたがったオジサン警察官が現れた。
警察官は女子中学生二人をチラリと確認し、ボクのほうを振り返ると、ニコリと微笑んでそのまま走り去った。
ややややるなぁと本気で感心した。
発泡酒を買いながら、チョット前まではこの季節、肉饅はもう売ってなかったはずだぞと気づいたが、店員に訊くタイミングを逃してしまった。
外に出たら雨が降り始めていた。
なんだもう雨ふってんじゃんと、独り言をもらしたら、さっきの二人組がいて笑われた。
灰皿に行き、缶をパシュリと開けると、二人組が「こんばんはぁ」と、傘をさし通り過ぎる女子高生に挨拶し、キッチリと会釈をした。
女子高生もサラリと会釈を返すと、二人の憧れのハーモニーを台無しにしない自然なリズムで歩きさった。
よっぽど嬉しかったのか、二人組は笑顔で何か言い合いながら雨の中へかけ出ていった。
なぜか一人取り残された気分になった。
煙草をポケットから出し、発泡酒をグビリとかたむた。
雨空を見上げ、もう一度グビリとかたむけてみた。
「日本も捨てたモンじゃないな。」
そう思えた。
(6月9日2008年・現代詩フォーラム掲載作品「ヤマトナデシコ」、4月29日2019年改訂版。)
ありがとうございます。