メリーもちつきマスという名の不思議な自転車教室
毎年、12月のクリスマス前に、ぼくらが運営するウィーラースクールin美山の年間最後の行事として、クリスマスとお餅つきを合体させたイベント ”メリーもちつきマス” が、美山の自転車活動の拠点施設 CYCLE SEEDS(サイクルシーズ)にて行われる。
この企画は当初ぼくが美山に引っ越してきたのを機に、「田舎に移住したのだから、どうせなら餅つきがしたい」ということで、なんとなく始まった企画だ。
始まった当初は12月30日の年末に行われていたのだが、2016年にCYCLE SEEDSの建設が始まったころから、クリスマスのタイミングに合わせるようになった。
クリスマス会と餅つき大会を合同で行うということで、 "メリーもちつきマス" という名称になり、近年、美山のスクールによく来る60〜70人近い子どもやその卒業生を中心に、その保護者やたちも合わせ100名を軽く越える参加者が集まる、ウィーラースクール in 美山の年末を締めくくる、一大イベントになっている。
ウィーラースクール in 美山とは、ぼくらが京都府南丹市美山町で、年間10回近く行っている自転車教室(ウィーラースクール in 美山)の、通年開催プログラムである。
このスクールは、美山町にある豊かな自然環境を活かし、自転車を楽しみを伝えることを目的として、ぼくが美山への移住後企画し推進している ”自転車の聖地プロジェクト” の活動のひとつである。
その、年間シリーズとしての美山のスクールの、この日が一番最後の回なのだが、実は、ほとんどの子どもたちは自転車に乗らない。
なぜなら、自転車に乗っているより、餅をついたり、他の遊びに夢中になるからだ。
自転車教室なのに、自転車そっちのけという、不思議な場。
そこがまた、ぼくらのウィーラースクールが大切にしている考え方の、一風変わって且つ面白いところだと思う。
この「メリーもちつきマス」には、美山でのスクールに年間を通じて参加する子どもたちだけでなく、スクールに来ていない子も自由に参加することができる。加えて、保護者だけでなくその他の大人も自由に参加できるようになっている。
要は誰でも参加自由。
誰に対してもオープンなイベントだ。
このイベントの参加費は、いやというほど餅をついて、いやというほど餅を食って、いやというほど遊んで、そして徹底的に楽しんでも、
なんと「無料(!)」。
これこそ、実にぼくららしい料金設定。
実は、年間10回のシリーズで開催されるウィーラースクール in 美山の参加費自体が、年間で1,000円/人(傷害保険込み)という驚きの金額。年間シリーズの一つであるこのイベントも当然、その参加費に含まれているのだ。
実は、これまでもこの参加費の話しを誰かにすると、必ず驚かれる。
「そんな金額でやっていけるんですか?」と。
そう思うのは当たり前だ。
年間10回で1,000円なんて、ほぼ保険代のみの金額にもならないレベルなので、どうやって採算をとっているのか、皆が不思議に思うのは当然だ。
中には、「これは金持ちの道楽なのか?」という意見も出てくる始末。
こうした活動の経費はどう賄っているのかなどは、書けばそこそこ長くなるので、また別の機会に。
いっそ「ウィーラースクールのビジネスモデル」とかいうお題で書いてみようか(笑)。
さて、お金の話しがでたついでに、少し触れておきたいことがある。
実は、ぼくらの基本的な方針に、ぼくらがやる子ども向け自転車教室では、子どもたちからできるだけお金は取らないという方針がある。(会場費などの必要経費が発生する場合は別)
なぜなら、子どもに「自転車の楽しみを教える」という教育行為は、本来、親や周囲の人間、たとえば地域で社会の責任として考えていかないといけないことだと、ぼく自身強く思うからだ。
例えば、こういった活動に対価が発生すると、子どもを預ける、預かる側双方に、サービス提供者と顧客の関係性が生まれ、結果、預ける側、つまり親や社会が、本来、親や社会が協力して行うべき子どもへの自転車教育を他人事に感じてしまうと、ぼくは考えているからだ。
親も関係者も、周囲の皆が、自転車教育を自分ごとにしていくためにも、まずは皆が対等にならなくてはいけないと思う。
「子どもたちは、社会全体で守るべき」という考えで行う自転車教育は、まずは、ミニマム(最小限)なサイズ、つまり親子という単位から始められる。
この考えを元に、「親子」から広がる「地域」というつながりを、ウィーラースクールは、とても大切に考えている。
とはいえ、この無料の餅つきも、実際は経費がかかるので、じゃあ、それをどうするかというと、実は参加者の寄付で賄っている。
会場には、そっと寄付箱が置いてあり、参加者の多くが、思い思いの金額を寄付をしてくれる。それが当日のもち米代やその他の費用になっているのだ。
寄付以外にも、参加者はいろんなことで、このイベントの当事者となる。
例えば自分たちで仕事を見つける大人、率先して子どもたちのために動く大人もいる。子どもたちも、自分で仕事をみつけてテキパキと働く子も多い。やることもなく、ぼさっとしている人などほとんどいない。(仮にいても問題ないのですが)
その会場には、仲の良い家族や親戚が集まっているかのような一体感がある。そんな様子は、見ていて本当に気持ちよいものだ。
この場は、皆が独自にそれぞれの役割を果たしながら、周りを気にせず、好きなように過ごすことができる、まさに自由で闊達な空間なのである。
そして昨年12月23日、恒例のメリーもちつきマスがCYCLE SEEDSにて行われた。
その日は、美山町内だけでなく、京都市内、大阪府、兵庫県、滋賀県、遠くは愛知県や石川県、富山県から、本当に遠方から多くの参加者が訪れてくれた。
普段、なかなか出会うことがない子どもや大人たちが「自転車教室」という機会を得て、京都の片隅の美山町に集結し、一緒に一日を楽しく過ごす。
ある子どもは、ひたすら餅をつき(この回は全部で13臼もあったので、つき始めから延々5時間かかった)、ある子どもはひたすら餅を丸め、ひたすら食い、またある子どもは、ひたすらかまどの火の番をし、と、皆がそれぞれの立ち位置で自由に過ごす。
生まれて初めてナタを使って焚付を作る子、その作業をただひたすら続ける姿は、傍から見ても実に微笑ましい。
ぼくはそんな子たちを見ながら、「今年は焚付を作りまくったから、来年は、餅をつきまくろうな」と、心の中で声をかける。
餅つきが進んでいくと、次第に子どもたちは、施設の周囲に散らばり、草っ原や空き地を思い切り走り回りまわる。犬や鶏と戯れ、自転車で坂道を転げ回る。
そうかと思うと、今度は大人と一緒になって鬼ごっこや大縄跳びなどを始める、などなど…。
子どもたちにとって、心から楽しめる場。
なにをして過ごしてもよいので、その場の大人は、その場にいる子どもたちの全てを許容する。だから子どもたちは安心する。
それこそが、ウィーラースクールの目指す場の様子だ。
ぼくらが考える自転車教室というのは、実は自転車が主体ではない。
自転車はあくまで切っ掛けと手段であり、本当に大切なのは、ここ(自転車教室)に来たことで、彼ら(子どもたち)が何を感じてくれたのか、なのだ。
日本でぼくらが行うウィーラースクールは、もともと自転車の操作技術向上と競技者の底辺拡大という大きな目的のもとに行われてきたのだが、ある時期から、自転車を通じた子どもたちの成長の場であることを目指すようになってきている。
「自転車は楽しい乗りもの」
だが同時に、自転車は公道を走る交通手段でもある。安全に走るためには、自転車道などのインフラの充実などに加え、法整備も当然必要なのだが、そうした外的な要素だけでなく自転車に乗る本人の内的な成長と熟成も必要になる。
つまり、交通社会の中で活かされる「社会性」を持った人間としての成長を必要とする乗りものだ。
だからこそ、社会全体で、人が成長するためのプロセス、つまり子ども時代の過ごし方や、経験しておくべきことに着目した環境作りが必要になると考えている。
ここには「あぶないからダメ」という、一律のきまりは何もない。
もし、なにか危険なことがあれば、自分たちで判断し、それにあわせた行動をしなければいけない。
ただ、野放しでもいけない。危険がどういうものなのかを、子ども自身がちゃんと知り、学ぶことができるように、周囲はしっかり気を配って、彼らにそのことを、理解出来るようにしっかり「伝える」必要はある。
さて、今回のメリーもちつきマスは、しこたま餅をついて、走り回って遊んだあと、恒例のクリスマスプレゼント交換をし、その後は、秋の埼玉県のスクールでいただいた大量のお菓子を使って、志願して屋根に登った子どもたちによる「お菓子まき」で大興奮のうちにクライマックスを迎えた。
こうして回を重ねながらつくづく大切だと感じるのは、子どもたちが自分たちのアイデアや意志で動くこと。
そして、そんな場を実現するためには、周囲の大人の、度胸と器の大きさが必要だということ。
手や口を出さない。彼らのやりたいことをゆっくり黙って見てやること。
子どもたちは、そんな周囲に守られ安心できる環境の中で、自分たちが大きく包まれている幸せを、きっと感じるだろう。
そして、そんな子どもたちを見ている大人たちは、とても幸せそうに見えるのだ。
そして、ぼくも同じ。
(余談)
美山のウィーラースクールをはじめて、まもなく10年になる。
始めたころに小学生だった子たちは、今もう大学生だったり、中高生になっている。
そんないわゆるOB、OGたちも、この餅つきにやってきて、子どもの面倒を見てくれたり、作業を手伝ったり。
中には懐かしいメンバーと談笑したりと、思い思いに過ごす様子がちらほら。中には「うちこのイベントが一年で一番すきやねん!」と豪語する女子高生もいるが、彼女を含め、その多くのメンバーが、普段のスクールにスタッフとして参加してくれるということは付け加えておきたい。
子ども向け自転車教室 ウィーラースクールジャパン代表 悩めるイカした50代のおっさんです。