残腎機能とクレアチニン
腎機能・筋肉量・蛋白摂取量の指標
健康診断の採血で測定される血清クレアチニン値は腎機能の評価や透析導入時期を判断するために使われたり、また、透析導入となった後もより良い透析が行われているかどうか、筋肉量、透析効率、蛋白摂取量など、全身状態の総合的な指標として用いられています。
クレアチニンとは筋肉へのエネルギーを供給するクレアチンリン酸の代謝産物であり、クレアチニンの数値は体の筋肉量を反映します。主に筋肉で作られ、腎臓から速やかに排泄されます。検査ではCrやCREと表記されます。そのため、長距離ランナーや筋肉ムキムキの人など、筋肉を酷使する人はクレアチニンの値は高く出ます。
心臓から大動脈には1分間に約5Lの血液が送り出され、腎臓には約1Lもの血液が流れています。腎臓は血液量の最も多い臓器です。腎臓は糸球体という糸くずのような細い血管をもち、そこで血液は濾過され、原尿が生成されます。原尿の量は一日、約150リットル。腎臓が血液からくみ出す水分量は一日150リットルもの量があります。そこから99%以上が尿細管に張り巡らされた静脈に再吸収され、残り1%が尿として一日約1.5リットル排泄されます。
このとき、糸球体濾過量 GFR というと、濾過した量?150リットル?と考えがちですが腎臓のすべての糸球体により濾過される血漿量のことをいいます。単位はml/分、またはL/日、単位時間当たりの量です。糸球体で濾過された1日150リットルの原尿はその99%が尿細管で再吸収されるので糸球体濾過量は尿として排泄される1.5リットルを除いた148.5リットルとなります。そして糸球体濾過量 GFRとはイヌリンクリアランスとイコールです。イヌリンとは糖の一種で代謝、再吸収されない性質をもっています。
クリアランスとは「透析効率を評価する指標」としても使われます。濃度100%の汚水が一日当たり100リットル、浄化装置(腎臓)に送られ、濃度20%まできれいになったとき、80リットルは完全にきれいになって、20リットルは全く汚れたままだと言い換えることができます。このときのクリアランスは80リットル/日、単位時間当たりの量で表します。
糸球体から濾過された原尿150リットルは尿細管で再吸収され1.5リットルの尿となるわけですが、原尿中に排泄されたイヌリンは一切再吸収されず、すべて尿として排泄されるのです。このときのイヌリンクリアランスは150リットル/日、単位時間当たりの量で表します。イヌリンスリアランスを求めるには1%イヌリンを含む生理食塩水を持続静注し、30 分間隔で蓄尿と中間点採血を3 回行い、3 回のクリアランスの平均値を求める方法がとられます。煩雑ですので腎移植のドナーなど、厳密な腎機能評価を行うときに用いられます。
クレアチニンクリアランスはクレアチニンがイヌリンと似ている動態をもつことからクレアチニンで代用したものです。Ccrと表記します。
通常の腎機能評価では、まず、クレアチニンの数値を使ってeGFR(推定糸球体濾過量)を計算します。若い医師ほどeGFR(推定糸球体濾過量)をよく使い、健康診断で腎臓が悪いといわれ、再検査の際、eGFR(推定糸球体濾過量)の数値を教えてもらう患者さんは約半数といわれています。
eGFR(推定糸球体濾過量)の数値がわからなければクレアチニンの数値を覚えておき、、インターネットで自動計算してくれるサイトがあるので計算してみましょう。「eGFR 計算」で検索すると出てきます。その式は
CKD-EPI式
eGFR(mL/min/1.73m2)=194×Cr-1.094×年齢-0.287(女性は 0.739をかける)
複雑な式ですがCrのマイナス乗が式にあります。Crが高いほどeGFRは低くなります。クレアチニンは筋肉量と腎機能によって決まります。Crが高くても筋肉があるからなのか、腎機能が弱いのかわかりません。そこで体格で補正しています。1.73m2というのは平均的な日本人の体表面積です。体形が極端な人は補正係数を使用します。それから年齢、腎機能は年齢とともに低下します。日本人は腎機能が弱く、加齢とともに腎機能は弱まり、45 歳までの10 年と45歳以上を比べると、2 倍の速度でGFR は低下します。そして性別。女性の方が腎機能はいいのです。eGFR(推定糸球体濾過量)が90以上では正常と判断されます。それ以下の値ではそれ自体が残された腎機能の割合と考えてもよいようです。このわかりやすさがeGFRの利点です。
クレアチニン1.8です。気をつけましょうなどといわれてもよくわかりませんが、あなたの残された腎機能は40%、前回の検査から10%も低下していますが喫煙や高血圧など、生活習慣はいかがでしたか?と聞かれれば、腎臓を守るためにいろいろと実践したくなるものです。
PRではありませんが、家庭用eGFR測定器も販売されるようです。指先から血液を一滴とり、30秒でeGFR、クレアチニン値が測定できるようです。
eGFRが60以下でCKD、慢性腎不全と診断されます。残された腎機能は60%となっています。日本でCKDと判断される人は1330万人、成人の13%が腎機能の約半分を失っているのです。eGFRが15以下で末期腎不全。残された腎機能は15%以下であり、透析、移植の準備が必要になります。
厚生労働省のアナウンスしている透析導入基準は以下の I ~ III 項目の合計点数が60点以上になった時とされています。
I. 腎機能
クレアチニン8mg/dl以上 → 30点
クレアチニン5~8mg/dl→ 20点
クレアチニン3~5mg/dl→ 10点
II. 臨床症状
1.体液貯留 (全身性浮腫, 高度の低蛋白血症, 肺水腫)
2.体液異常 (管理不能の電解質・酸塩基平衡異常)
3.消化器症状 (悪心, 嘔吐, 食思不振, 下痢など)
4.循環器症状 (重篤な高血圧, 心不全, 心包炎)
5.神経症状 (中枢・末梢神経障害, 精神障害)
6.血液異常 (高度の貧血症状, 出血傾向)
7.視力障害 (尿毒症性網膜症, 糖尿病性網膜症)
これらのうち3項目以上のものを30点、2項目を20点、1項目を10点。
III. 日常生活障害度
尿毒症症状のため起床できないものを30点
日常生活が著しく制限されるものを20点
通勤, 通学あるいは家庭内労働が困難となった場合を10点
透析導入基準ではeGFRではなく、クレアチニンの値が使われています。クレアチニンは健康診断でも測定するので身近な値です。腎機能が相当低下しなければクレアチニンは上がりませんので異常値ではなくとも、注意が必要です。一般的にクレアチニンが2を超えると将来透析になる可能性が高いといわれます。食事療法(減塩、低たんぱく食)、血圧管理、適正体重、禁煙、そして腎臓を弱らせている原疾患の治療の有無にもよりますが2を超えるとクレアチニン5までは緩やかに進み、5を超えると回復は難しく風邪や体調不良、やけ食い、やけ酒などのきっかけで腎機能は急激に悪化、緊急的に透析を導入するといった事態もでてきます。透析開始は10が目安です。
すでにCKD(慢性腎不全)の診断を受けていてクレアチニンの定期チェックを受けている人はだいたいの透析導入時期を予測することができます。
クレアチニンの逆数(1をクレアチニンの数値で割ってもとめられた数値)を時系列でプロットすると通常、一定の傾きをもつ下降線が描けます。
その下降線を延長し、0.1とクロスする時期がおおまかな透析導入時期となります。(0.1のクレアチニンの数値は10。)
下の図では昨年の4月の定期検診でクレアチニンが2.4、年が明け、病院を受診したことろ3.0だった場合です。昨年の4月が1/2.4=0.42、今年の2月が1/3=0.33でプロットしてあります。
10ヶ月で0.09落ちていますから1ヶ月あたり0.009落ちていることになります。そうなるとクレアチニンの逆数が0.1となるまで25ヶ月。二年と一か月後に透析導入となると見積もることができるわけです。これは大まかな目安で糖尿病の場合、これより早く尿毒症症状が現れます。治療、生活改善がクレアチニンが2mg/dlの境界線を超える前に行うことが大事です。
eGFR(推定糸球体濾過量)もこういった使い方ができます。定期検診でクレアチニンの値を測ったらeGFR(推定糸球体濾過量)を計算しておきます。eGFR(推定糸球体濾過量)は残された腎機能の割合ですからクレアチニン同様、横軸に一年を12メモリ、縦軸をeGFRの100から0のグラフを作れば今、腎臓の何%が機能しているのか、一か月で何パーセント落ちるのか。運動や禁煙、血圧管理でどのくらい低下が抑えれれるのかを理解することができます。eGFRが60以下となればタンパク質を制限することを医師に勧められます。eGFRが30以下となるとリンの排泄がうまくいかず、血管に与えるダメージも大きくなります。またこのころには運動能力は半分以下まで低下します。eGFRが15以下ではカリウムが体にたまってくるため制限が必要となり、透析、移植の準備が必要となってきます。
透析導入後はクレアチニンの数値はまた別の意味をもちます。前述のように、クレアチニンの値は性別、年齢、残腎機能、そして栄養状態、筋肉量、透析条件によって決まるため、透析を受けている患者さんにとって、クレアチニン自体の基準値、正常値というものはありません。クレアチニンの値が低い場合、平均的な透析を行っているのなら、透析効率が良いと判断するのではなく、筋肉量が少ない、蛋白質が十分に取れていないと判断されます。
急激なやせ、体重増加がない時、クレアチニンは筋肉量と相関します。よってクレアチニン産生速度は年齢とともに低下します。体格のいい若者と老女のクレアチニンの値は違います。クレアチニン産生速度は年齢、性別とともに判断しなければなりません。
%クレアチニン産生速度は性別、年齢、透析前後のクレアチニンの値から求められる指標です。90%であれば、同性、同年齢の人と比べ、筋肉量が平均より10%劣っていると評価することができます。下のグラフの通り、%クレアチニンの値が90%台の人、筋肉力が平均より10%劣るだけで死亡率は平均的(100%台)の透析患者と比べて死亡のリスクは1.5倍となっています。
70%で死亡のリスクは4.8倍、60%以下となると28倍となります。
PCR(標準化蛋白異化率)やKt/Vのように蛋白質をしっかり食べる、よい透析を行うといった直接的な方法では%クレアチニン産生速度は改善しません。しっかり食べているか、そして摂取した蛋白が筋肉として体についているかということは透析の質、食事、運動、基礎疾患の治療の成果など総合的によい状況でなければなりません。効率の良い透析を行っていても家では寝たきりでは蛋白は使われず、排泄されるだけです。%クレアチニン産生速度の値は死亡のリスクと強く関係します。