アメリカ留学報告記
<初めに>
シアトルに来て3ヶ月が経った。
9ヶ月間の留学生活のうち3分の1が既に過ぎたことになる。1学期=3ヶ月のクオーター制なので秋学期が終了し、2週間の短い冬休みに入った。
そしてそれとほぼ同時に、コロナになった。
暇を弄んでいても仕方がないし、年末、学期末、いろいろな意味で節目でもある。せっかくならここまでの3ヶ月の経験を言語化させる作業でもしよう、と思った。
生活環境が激変してから、20年間の人生で今まで一度もたどり着かなかった思考に至ったり、考えたこともなかったアイデアが浮かんだりした。
せっかく現れてくれた靄のようなそれらがそのまま雲散霧消するまえに、できるだけリアルな形で電子データに変換しておきたい。
〈普段の生活〉
留学生活が実際どんなものか、来る前はあまり想像もつかなかった。しかし過ごしてみると日本での暮らしとあまり変わらないような気がする。以下、学期中の典型的な1日。
朝、ルームメイトの爆音目覚ましで起きる。朝食はシリアルかバナナか、時間がなければ食べない。身支度をして寮を出る。寮がキャンパス内にあるので、教室まで一瞬で着くのかと思いきや、シンプルにキャンパスがデカすぎで教室によっては徒歩15分くらいかかる。授業受ける。授業に依って長さが違うため、1コマ50分だったり110分だったりする。1コマ終了後、友達と図書館に行って勉強。13時ごろ学食でランチ。自分の住む寮の近くには、マジでハンバーガーしか旨くないLocal Pointという学食があり、週の半分くらいはそこで済ませる。食後は再度図書館に戻って勉強したのち、2コマ目の授業。17時くらいに授業が終わり、その後は流れで入部した卓球サークルに顔を出したり、寮で夕飯を食べたりする。
そう、基本的には、日本で3年の春学期に初めて経験したような、あの普通の「キャンパスライフ」を、ただ場所を変えて再現しているに過ぎない。
これをどう解釈するかは難しいが、自分の場合だといろいろな意味で逆を突かれているかもしれない。
アメリカの大学だから課題で殺されそうになるんだろうな、と思っていたら、意外とそうでもなかった。
かといって、所詮キャンパスライフなんだから気楽にやればいいだろう、とも思っていたが、それもそんなことはなかった。
留学とは、プラスマイナスの両面で“期待外れ”な、中庸たる営みである。
〈アメリカの好きなところ・凄いところ〉
・みんな優しい
マジでアメリカ人全員優しい。
こっちが外国人大学生(≒弱者)というのもあって、体感でいうと、1聞けば280くらい返ってくる。
例えば、先生に質問したとき。
それからクラスメートに課題の確認をしたとき。
渡米初日、Wi-Fi求めて道行く人にカフェの場所を訪ねたとき。
みんな、こちらが両手で抱えるくらいの大量の情報を提供してくれる。
あとボストンに行ったとき、空港のバス乗り場で迷ったので野生のオジサンにバスの行き先を尋ねたところ、そのままそのオジサンのレンタカーに乗せてくれて、観光名所を案内されながらホテルまで送ってくれたこともあった。
正直、入国審査のぶっきらぼうなマッチョのイメージが強すぎて、こんなにアメリカ人に愛想よく接してもらえるとはあまり思っていなかった。
・他人に興味がある
思うに、アメリカ人は社交的で人と関わるのが好きで、他人という存在に興味があるから、ここまで優しく接してくれるのかもしれない。
日常の会話の切り出し方をみても、
”What’s up?”
” How’s it going?”
“How was your weekend?”
など、その人の気分だったり毎日の過ごし方を聞くパターンが多い。
もちろんこれらは社交辞令であって、本当に相手の生活が気になっているわけではないと思う。
でも、俺は他人の毎日の過ごし方なんて正直あまり興味がないから、そういうことを聞く文化があるというだけでスゴいなと思ってしまう。
・学生の意識が高い。
逆に予想通りだったのは、やっぱり大学生の意識が高いということ。
特に理系の1,2年。ずっと図書館に籠っている。もちろん文系も勉強しているが、課題の量や授業数は理系ほどではなく、特に経済学部は激チャラのパーティー学部というイメージが強いらしい。どこの国も変わらねぇんだなぁと思う。
そして平日と祝日のオンオフの差が激しい。土日に勉強しようという発想には1mmもならない代わりに、平日5日間はガッツリ勉強しているらしい。
先述の激チャラパーティー勢ですら平日はお勉強モードらしく、誰かが「今度の水曜パーティーしない?」などと提案しようものなら「は?」「いやいや」「おかしいだろ」みたいな反応を食らうらしい。パーティー勢のくせに。
・システムが合理的
しかしどうしてここまで勉強に勤しむのだろう?と考えたとき、超合理主義アメリカのお国柄が垣間見える。
アメリカの大学は頑張れば頑張る分だけ報われるシステムが既に完成されていて、だからこそ彼らは日々勉強している。
というのも、アメリカの就職活動ではGPAがかなり重視されるらしく、それも3.9のラインに1次面接の足切りラインがあるなど、かなりハイレベルだ。他にも院試やインターンなど、とにかくありとあらゆるところでGPAが重要な評価基準としてちゃんと機能している。
一度友達とこのへんの話をしていた時、「GPA3.3は文系だとマジで低い方だよな」みたいなことを言われて腰を抜かした。
それから単純に卒業が大変だから勉強しているのもある。
よく、日本とアメリカの大学の違いとして、「日本は入学が難しく卒業が簡単、アメリカは入学が簡単で卒業が大変」と言われるが、これは100%正しいと思う。
ワシントン大学の4年間での学部卒業率は66.9%、6年以内で見ても81.9%しかない(参考;日本の大学の中退率は2%前後)。
「卒業が難しい」を細分化すると、①卒業条件が厳しい、②単位取得が難しいに分けられる。②に関しては、1つの授業あたりの評価項目が多く、例えば日本だと
「出席点20%、期末80%」
のところが、アメリカでは
「出席点10%、発言点10%、毎週の課題20%、ディスカッションへの投稿10%、中間プレゼン15%、期末35%」
だったりする。
めちゃくちゃ細分化されている分、ボーッとしてると大変なことになる。
だから決して、アメリカの大学生が真面目で日本が不真面目、なんてことではない。
アメリカの方が人間を動機づけるためのシステム構築が上手で、頑張った人が正当に評価される体制が上手いことできているだけだと思う。
公”正”性が無視される分、全員が平等に競争するための土台だけは、本当に美しいほどに整備されつくしている。徹頭徹尾首尾一貫、筋の通りまくった超合理主義の国。
〈アメリカの嫌いなところ〉
・物価が高すぎる!!!
マジでこれ。
コーラ500mlが400円、ビックマック単品が830円の世界。学食は一食あたり平均$12(=1800円)くらいかかるし、外食でもしようものなら軽く$20、3000円は飛んでしまう。昼食1回で飲み会かぁ…と思う。
特に2022年10月前後は円安が最悪だったので、1ドル1セントを切り詰める本当の苦学生をやっていた。
例えば、ハンバーガーしか旨くないでお馴染みLocal Point(学食)に通い詰め、「毎週末の朝食の時間帯だけ調味料コーナーにパンケーキ用の個包装のバターが出現する」という情報を入手し、毎週8,9個のバターを鷲掴みにして部屋に持ち帰っては、それらを合体させて一つの大きなバターを作っていた。
そのレベルの限界節約術に勤しむ毎日。
ちなみに最近、調味料コーナーからバターがなくなった。マジで俺のせいだ。
・飯で幸せにならない。
安くてうまくて健康的なご飯がない。
例えば学食は、ハンバーガー以外でいうと、ピザ、サンドイッチ、ラテンボウル、ライスボウル、サラダバーなどがあるが、こいつらは軒並み「普通」で、不味くはないけど特段おいしくもない。ゆえに食事で幸せになることがない。
特に、野菜の類が軒並み日本の3倍ほど高く、安いのは自国生産のオレンジを始めとする果物類くらい。あとスーパーの野菜のレパートリー少なすぎる。モヤシが無かったり、キノコ類が軒並み欠けていたり。
ただ炭水化物は圧倒的に安いし、ファストフード店のレパートリーだけは本当に充実している。
まとめると、日本よりも健康でいることのハードルが高すぎる。
・治安が悪い
シアトルといえば、アメリカの中でも比較的治安のよい方だったのだが、コロナ禍を経てかなり悪化してしまったらしい。
街一番の歓楽街、ダウンタウンの治安が最悪なのは言うまでもなく、ホームレスや薬物中毒者が昼夜を問わず道中にたむろしている。
しかし正直、中心街の治安が悪いだけなら、普段行かないので構わない。
本当に困るのは、大学近くも十分危ないということ。
キャンパスから徒歩1分のところには、the Aveと呼ばれる歓楽街があるのだが、ここを夜一人で歩くのは超危険。
発砲、強盗、傷害事件のいずれかがが月に1度は必ず起こる。
留学を始めて間もないころ、男性がバーで口論になった相手の大学生4人に突然発砲して負傷させ、そのまま逃走したという事件が起きた。
犯人が捕まったという続報は入っていない。
ちなみに、こちらに来れば誰でもweed(大麻)の匂いが分かるようになる。芝生の青臭い匂いを20倍にした感じ。
・弱者救済の手段がない。
国民皆保険制度が存在しないことなどが暗示するところは、超競争社会アメリカの異常なまでの残酷さである。
この国では金を得た者のみが勝ち、金を払った者のみが良い待遇を受ける。
資本主義やそれに伴う競争が行き過ぎた結果、残酷なまでに勝者と敗者に2分されているのだ、と節々で感じる。
例えば、アメリカでは大学も完全に資本主義に基づいているので、れっきとした一種のビジネスである。
そしてビジネスなので一番儲かるようにできているから、例えば学費には飛行機のチケットのような価格差別が存在する。
ワシントン大学の場合、州内出身者の学費は年間180万円(意外と安い)、州外出身のアメリカ人の場合は年間580万円、そしてInternational Studentの場合は年間780万円ほどである。
価格弾力性の低い生徒からガッポリ稼ぐという点で、完全にビジネスである。
このマインドが至る所に蔓延しているのがこの国の特徴であり、メリットであり、デメリットなのだと思う。
すべての社会主義的要素を排除した純粋な競争社会。勝てば圧倒的な年収、負ければハイウェイ沿いの芝生の上で一生を終える。
・Prime Video, TVer, Abema(無料版), GYAO! が観れない
Youtubeしか観れない。
有吉の壁の予告編は、俺にとっては本編である。
〈気づいたこと〉
・人生なにも変わらない。
まず一番大きいのは、留学に来ても何も変わらないということ。
環境は確実に激変するが、変わるのはそのくらいで、本当に自分自身は驚くほど変化しない。
英語も喋れるようにならないし、リスニングも上達しない。
つまり本質は留学中に何をしたかであって、そこで何もしないでダラダラ過ごすようなら、それはただ高い生活費を払っているだけの人間である。
「9ヶ月間母国から離れて一人で生活したことが自分への自信に繋がる」という点は、確かにある。
ただ、それは留学さえすれば誰でも手に入れられるモノなので、ある意味この“留学”という時間的なリソースの割き方に対する、最低限のリターンでしかないというか。
・留学は俺みたいなタイプでも楽しめるが、向いてはいない
あまり深堀りすると自己否定に入りそうだが、本当に留学に向いているのはパーティー勢である。
つまり人と関わるのが好きで好きで仕方がなく、毎日様々な人と喋っていたい人たち。
俺は一人の時間が好きすぎるし、長い時間合わない人間と一緒に居るとイライラしてしまうので本当に勿体ない。
それでも、授業中に手を上げるとか、初対面の人間と喋るとかは全然いけるタイプのオタクだから、まだ授業中も何とかなっているし、全然楽しめているけど。
・正規生凄すぎる
交換留学でアメリカに来られているという事実に多少の誇りを抱いていたが、こっちの大学に4年間通う日本人、いわゆる正規留学生という存在と関わってからその誇りが打ち砕かれた。
9ヶ月ですら不安なのに、この異国の地で全4年間の大学生活を全うしようという決断を下すには相当の覚悟を要したはず。
交換留学は、最悪こっちのコミュニティに入れなくても「俺の本拠地は日本だし」という言い訳ができるが、彼らはその逃げ方を塞いだうえでアメリカ文化と向き合っている。滅茶苦茶尊敬している。
・「日本人である」という無形資産
日本に居るときは気付かなかったが、日本人には「日本人である」という武器があるような気がする。アニメ・漫画・J-popのおかげである。
現代でも日本が誇る文化的なコンテンツ力は健在で、自分もアメリカ人と一緒にポプテピピックのコラ動画を観るなどしている。
日本のオタクが観るようなコンテンツと全く同じものをアメリカ人も観ていたりして、本当に驚かされる。
そしてこれらをきっかけに日本文化そのものに興味を抱いた人たちは、例えば高校の第一外国語選択で日本語を勉強してくれるなど、日本と更なる関わりを持とうとしてくれる。
そのため、このような人たちは日本人にも好意的で、第一印象の時点で何もしていなくても日本人というだけで興味を持ってくれている“”“気がする”“”。
つまり、日本人は日本の誇るべきアニメ文化のおかげで興味を持ってもらえたり、会話が広がったり、アイスブレイクが早まったりする“”と思う“”。
〈今までの人生で考えもしなかったこと〉
アメリカで働いてみたいなと思った。
同時に、アメリカでは働きたくないなとも思った。
アメリカで働いてみたい理由
・カッコいい。
・年収が高い。その分物価も高いが、肌感覚として物価は日本の約2倍、収入は日本の2.5~3倍くらい(勿論めっちゃ頑張れば青天井)なので、要するに年収が高い。
・ビジネスにせよ学問にせよ、すべてが最先端の国なので、学べることが多そう。
・挑戦って感じがする。
・アメリカで働いてますって言いたい。
・帰国後、アメリカで働いてましたって言いたい。
アメリカで働きたくない理由
・前掲の5点(物価、飯で幸せにならない、治安が悪い、弱者救済の手段がない(=保険がない)、日本のテレビが観れない)。
・つまり、日本の方がQOLが高い。現役でアメリカで働かれている方が仰っていたので間違いない。
・専攻の関係上、日本でもやりたいことができる。
・日本語ネイティブという強みを捨てて、あえてノンネイティブというディスアドバンテージを背負うのは冷静に考えて合理的ではない。
・友達に会いたい。
・家族に会いたい。
・つらい。
つまりこれらを抽象化すると、「アメリカ=自己実現」、「日本=幸せ」である。
QOLよりも自己実現を優先するならアメリカが適していると思うし、良く生きることを優先するなら圧倒的に日本だと思う。
シアトルで働かれている人生の先輩は、「アメリカにいる間は修行だ」と仰っていた。
英語力や論理力など圧倒的なスキルを有した方ですらそうなんだから、俺は尚更だ。
人生、結局どうなりたいのか。
これは究極の二択である。
成長するために生きているのか?幸せになるために生きているのか?
分かるわけない。まだ20歳なので。
ただ、現時点では圧倒的に幸せでありたいと思っているので、普通にアメリカで働くわけないと思っている。たぶん人より日本文化好きだし。
<最後に>
誰かにとっての俺って「なんかどっか行った奴」でしかないのに、そんな奴のことを少しでも気にかけてくださっている恩人たち、マジで全員に感謝しています。
帰国したら滅茶苦茶お礼したいですし、ぜひ遊んでほしいです。
ちなみに、<初めに>を書き始めた時には留学生活の3分の1が終わっていましたが、その後1か月以上間が空き、<最後に>を書いている今となってはもう全体の半分が過ぎているので、感傷的になっている暇もありません。
それでは中間テストの勉強に戻りたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?