ナギとアキ、1DK 2丁目
”なぁナギ“
”んー“
”引越ししないか“
”…は?“
”いやさぁ、そろそろ新しい場所を求める期に入って“
”…“
”どうかな“
”…馬鹿言うんじゃねえこっちは会社があんだよ“
”だよなー“
”はぁ…“
こんな感じで
かつて親友だった
そして今度は
同居人となる親友との
他愛もない生活が続いている
牛鬼 渚
堅物で口数が少ない人、でも口下手なだけ。
OL"n"年目。仕事は出来るけど性格が性格なのでちょっととっつきづらい。
家賃が浮くので二人暮らしを受けることにした。
最近大学生ぐらいの息子を持つ親ってこんな感じなのかなって思ってる。
太宰 昭
牛鬼さんの小中時代の友人、親友と慕ってる。
高校の終わり頃遠方に越して、この度戻って来たので二人暮らししようと提案。今はフリーランスでなんか色々やってる。
結婚はまだ1mmも考えてないけど結婚したら楽しい家庭がいいなぁと思ってる。
・喫茶「なぎあき」開店予定
昭「最近思うんだが」モグモグ
渚「食いながら喋るなよ」
昭 ゴックン「…で思うんだよ、thinkingなんだよ」
渚「ん」
昭「カフェバー的なのやってみたいなぁって」
渚「…酒飲めないだろってツッコミ待ちか?」
昭「実はそうでもない、私さぁ会社勤めに向いてない人種じゃん」
渚「…まぁ」
昭「デスクワークとか多分1ヶ月で放り投げる、となるとやっぱ接客業タイプじゃん」
渚(容姿はいいからな…無駄に…)
昭「じゃあカフェとかバー開くしか無いじゃん?」
渚「飛ぶな、話を」
昭「いやファミレスとか居酒屋は…バイトでやったけどあれはちょっと…忙しさがおかしい…」
渚「あぁ…」
昭「まぁすぐ思い付いたのがそれってだけなんだけど」
渚「…というかよくこれを聞いてる気がするんだが、何で急にそんな事を」
昭「…」
渚「?」
昭「ナギが…フリーターって言うから…わかりやすい自営業にでも就いてフリーターって呼ばせないようにと…」
渚「そんなの気にしてたのか…」
昭「貴様ー!きさきさ貴様ー!フリーターとフリーランスは違うだろー!フリーランスはまだちゃんと働く意志は感じられるだろー!」
渚「えっあっ…おう…」
昭「私は人生遊んで生きたいけど流石にそうもいかないから働くって意志はあるわい!」バンバン
渚「わかったから叩くな、机を」
昭「ふー…ふー…」
渚(そもそも私は逆に気にしてなかったんだが…というかフリーターだって働く意志はあるだろ働いてるんだし…)
昭「…まぁそういう事」
渚「雇ってもらうんじゃ駄目なのか」
昭「店持つのはロマンだろ」
渚「…その、私は別にお前にもっとまともに生きろとか、もっと稼げとか、頭ごなしに言うつもりは無い」
昭「知ってる」
渚「いやもう少し稼いで欲しいのは正直あるけど、それでも時たま自由過ぎると心配になる。いつか痛い目を見るんじゃないかとか、思わない所で人に迷惑をかけたりとか…」
昭「…まぁ言いたい事はわかるよ、もう学生じゃないんだし」
渚「…」
昭「でもやっぱりさ、いつ死ぬかわからない死んだら終わり来世も不明って人生。そんな人生でもさ、折角なら楽しく生きたいじゃん。もちろんそれは誰も同じだからそこはうま〜く人と擦り合わせていくけどさ」
渚「…昔からそういうのは上手かったな、お前は」
昭「あと私が楽しみたいのもあるけど、ナギとも楽しみたいのも本音だぞ?」
渚「んん…」
昭「しかし何だ、ナギは本当心配性だな」
渚「お前が自由過ぎるんだろこの野郎」
昭「そう、私は自由でナギは堅実。だから一緒にいて丁度いいのさ」
渚「お前に学ぶ事あるか…?」
昭「もうちょっと柔らかく生きようよ」
渚「それは…正直少し思ってる…」
昭「私もナギの一歩止まれる所は尊敬してるぞ」
渚「実践してくれ…」
昭「というわけで、どんな店にしようか」
渚「おい」
昭「やっぱコンセプトは大事だよな」
渚「…」
昭「やっぱ豆にこだわる?」
渚「…コーヒー飲めないんだが」
昭「あ?あ、そうだったな…うーん…」
渚「いや別に私の事はいいんだが…」
昭「いやでも普通にコーヒー苦手な人もいるだろ、やはり紅茶も欠かせないな」
渚「そうだな…」
昭「うーんでも今の時代こだわるっていってもなー、自力で色々揃えられるし…別の所で勝負するか…?」
渚「いや…もうお前がいればいいんじゃないかな…」
昭「え?」
渚「…何でもない」
昭「んー…バーの方はどうよナギ、酒なら得意だろ」
渚「別に得意では…酒の種類にこだわるか創作カクテルに手を出すか…あ」
昭「おん?」
渚「…酒が飲めないマスターの気まぐれカクテル?」
昭「お〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん?」。
渚「いや博打が過ぎるな…頼む奴いないだろ…」
昭「いやぁ、なかなか面白い事考えるなぁ」
渚「うーん…ベースを選択制にして…いやでもなぁ…」
昭「えーでもちょっとやってみたい」
渚「それで金取るのはどうなんだ」
昭「試したい人だけやってみりゃいいのさ」
渚「えぇ…」
昭「じゃあナギにやってみていいか?」
渚「は?」
昭「ここである程度経験値積んどけばいけそうじゃないか?」
渚「…いや知らん」
昭「じゃあ来週から試すか」
渚「…」
昭「ウイスキーとジンはあるんだろ?だから割材色々揃えんとな」
渚「…はぁ」
キュッキュッ
昭「ほい」
渚「ん」
昭「食洗機買いたいなぁ」
渚「買ってくれよ」
昭「でもこういう時間も好き」
渚「そう」
昭「〜♪」
渚「…なぁ」
昭「ん?」
渚「本当に店やるのか?」
昭「ん〜」
渚「え、何だよその反応」
昭「まぁ、もうちょっと考えようかなと」
渚「…あっそう」
昭「でもさぁ、隠居したら始めるってのもいいかもなぁ」
渚「…」
昭「その時にさ」
渚「?」
昭「互いに独り身だったら一緒に始めるのはどうよ」
渚「そんな先の事は約束出来ん」
昭「だから口約束、無理だったらそんな事は忘れたさでいいし」
渚「…そんなんでいいのかよ」
昭「いいんだよ、そうだったらいいなって未来予想図なだけ」
渚「…」
昭「楽しい事考えようや」
渚「なら自分の楽しい結婚生活でも考えてみろ」
昭「…自分で言うのもなんだけどさぁ」
渚「?」
昭「下手な男よりイケメンな女って需要あるの?」
渚「お前…そういう自覚あったのか…」
昭「いや…逆によ、逆に嫌でも思い知らされるのよ…」
渚「…なんかすまん」
昭「いいよ…」
渚「…多分あるよ、お前みたいな面白い女」
昭「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?そう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?そっか面白いか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
渚(うざ)
・…
昭「…」
渚「…」
昭「…」
渚「…なぁ」
昭「…」チラッ
渚「…いや」
昭「…」
ここ2日程あんな調子で渋い顔で黙り続けている
多分怒っているわけではなく家事も手伝ってくれる
ただとにかく…少し怖い
普段私に対して甘いとも言えるレベルで話しかけてくるからこうも黙られるとついに我慢の限界が来てしまったのかと不安になる、いつも適当に流してたし…
本当にそうなら非があるのは私だし仕方ないとは思うが、それでも長く付き合ってきた親友に愛想尽かされるのは…
渚(どうしようか…)
同僚(またお悩みセンサーが反応している)
同僚「どうしたの怖い顔して」
渚「いや…別に…」
同僚「まぁ無理に聞かないけど、1人で悩んでも出ない答えもあったりするよ」
渚「…今日ちょっと付き合ってくれ」
同僚「喜んで」
同僚「…ははぁ、イケメン同居人がめちゃおこだと」
渚「おこっ…てんのかもよく分からない、あいつ時々本気か冗談かよく分からない事言うし本心が分からない時がある」
同僚「ミステリアスイケメン同居人…はともかく、今までそんなに怒ってるっぽい所見たことあるの?」
渚「…はっきりと怒ってる所はあるけどあんな黙りこくるようなのは無い…と思う」
同僚「うーん…何だろうね」
渚「…」
同僚「あとはそうだな…お手紙?」
渚「手紙…?」
同僚「まぁ手紙って言ってもメモにちょろっと書いて渡すだけでもいいんじゃないかな、ようは文字で会話するのよ」
渚「?」
同僚「会話だとさ、どういう言い方するかとか何を話して何を黙ってるかとか色々考えるのが嫌な時もあるじゃん。文字なら書くっていう考える時間があるから」
渚「嫌…というかそんなの考える必要あるか…?」
同僚「うーん、歯がすっぽんぽん…」
渚「…チャットとかじゃ駄目なのか」
同僚「手書きもいいもんだよ?」
渚「はぁ」
同僚「まぁそんなわけで明日文房具屋付き合ってよ」
渚「明日?」
同僚「私も色々買いたいんだー」
渚「…午前なら」
同僚「やったーお出かけー、ってわけで飲み過ぎないでよね」
渚「む…」
翌日、若干怠い体を引き摺りながら同僚と文房具屋に向かった
初めて知ったが今文房具はかなり種類が増えていた
同僚はメモが並ぶ棚から牛の見た目をしたメモを勧めてきた
…何かしら嫌味を感じ取りそうになったがそれは流石に被害妄想と跳ね除け、そのメモを買う事にした
そして帰宅後…
渚「なぁ」
昭「ん?」
渚「ぬぁ!?」
昭「え…そんな驚く事無いだろ…」
渚「…だったらずっと黙ってるなよ」
昭「ワルカッタ…で、これ…あ」
バタンッ
昭「行っちゃった…何々」
『何か悩みや不満があるなら言って欲しい、言えないならこれに書くでもいい、何かしら伝えて欲しい』
昭「あー…本当に悪い事しちゃったな…じゃあまあ折角だし書くか、あとぶっ叩かれる覚悟もしなきゃな…」
思わず飛び出してしまったがどうしよう
…昼飯用の飲み物でも買ってくるか
渚「…ただいま」
昭「ん」チョイチョイ
渚「?…あぁ」ピラッ
『怒らないで聞いて欲しい、これを読んでいる頃には私は元気だし普通に喋っている事でしょう。もう一度言うけど怒らないで欲しい。
…口内炎が3つ程出来て喋るどころじゃなかった』
渚「…」
昭「まぁ…そういうわけで…」
渚「…………………」
昭「…」
渚「…」カキカキ
昭「…?」
渚「…」トン
昭「…」ピラッ
『治ったなら、別にいい』
昭「…はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
渚「…」
昭「もーナギ愛してるぞー」
渚「…」
昭「…あの?渚さん?」
渚「…」
そんなに怒ってはいないが3日程黙る事にした
特に理由は無いが
昭「あの、渚さん、いや、あの、すいませんでした、ご迷惑おかけしましたそのだからとりあえず喋って!頼む!えもしかして口内炎!?私が使ったサプリあげようか!?ねえちょっと!?」
正直ちょっと面白かった
・女は誰だって顔面施工業者
渚「ふぁ」
昭「おはよ」
渚「…おはよ」
昭「今日はBLT〜」
渚「…ん」
昭「飲み物…ココアでいいか」
パシャッ
ツメテッ
渚,昭「「いただきます」」
昭「…今日は一日晴れるのか」モゴモゴ
渚「洗濯やっといてくれ」
昭「えー?」
渚「シャツが足りない気がする」
昭「しょーがねーなー」
渚「さんきゅ」
昭「のーぷろ」
ポフポフ
ヌリッ
渚「じゃあ行ってくる」
昭「…」
渚「…なんか忘れてる?私」
昭「あ?あいやなんでも」
渚「なんだよ…じゃあ行くから」
昭「あい」
バタン
昭「…」
昭(ナギってすっぴんで行ってんのかなぁってぐらい化粧薄いな)
昭(まぁ素材が良いからそれでも十分いいけど)
昭「ふむ」
昭「あ、今日ゴミ出しか」
ガチャッ
昭「あ」
JD「あ」
昭「おざます」
JD「ざっす」
昭「…」
JD「どしましたか」
昭「…うちのナギ、わかります?」
JD「あー茶髪のおねーさん」
昭「ナギ、普段化粧ほとんどしないんですよ」
JD「そういえば前会った時もすっぴんでしたね、まぁその時はパソコン届けに来てくれただけみたいだったけど」
昭「会社行く時も最低限隈と血色悪いのを整えるぐらい」
JD「まぁでも美人っすからねー」
昭「そうなんだよねー」
JD「でも牛鬼さんにも言ったんすけど化粧したら絶対最強だと思うんすよ」
昭「だよね!?」
JD「ぉおっ」
昭「面倒くさがりだし朝が大変だろうから普段はあれでもいいけど…やっぱ自分はいい物を持ってるって自信持って欲しいし」
JD「朝から胸焼けする惚気っすねぇ」
昭「親友は自慢したいものですよ」
JD「胃薬案件〜、そういえば前から聞きたかったんすけど」
昭「ん?」
JD「太宰さんって…あ、仕事何してるんすか?」
昭「私?フリーランスでまぁ色々…たまに知り合いから仕事頼まれたりもするけど」
JD「へ〜…」
JD(あっぶね、「ヒモなんすか?」って聞きそうになった)
ガチャッ
渚「ただいま…」
昭「おかえり」
渚「あ“〜酒」
昭「帰って早々酒かい、先に風呂入りな」
渚「はぁ…」
シャワァァァァァァ
昭「今日寒かっただろ、冷たいビールでいいのか?」
渚「んー…ビール常温でもいいんだけど吹きこぼれるし…」
昭「あぁ、泡が」
渚「…はぁ」
昭「はい今週もお疲れ」
渚「ん」
昭「…ナギさぁ」
渚「?」
昭「普段のメイクって何してんの?」
渚「メイク?化粧水付けてファンデ軽く塗って…あとリップ」
昭「…それだけ?」
渚「面倒」
昭「世の女性怒り狂いそうだな…」
渚「会社員なんだから最低限でいいだろ」
昭「…同僚ちゃん多分ブチ切れるぞ、それ聞いたら」
渚「そう言われても…」
昭「…まぁ何もしないよりはマシだけど、でもナギは素材が良いんだから活かせるメイクを覚えてもらいます」
渚「なんで」
昭「よく言うだろ、化粧は武装って」
渚「初めて聞いたが」
昭「メイクで自分の新しい可能性を見つけて自信を持つ事で日々に彩りをだな…」
渚「本音は」
昭「私が見たい」
渚「…とにかく今日はやらん、めんどくさい」
昭「じゃあ明日メイクキメて出かけよう」
渚「えぇ…」
昭「どうせやる事無いだろ」
渚「家事…」
昭「それぐらいすぐ終わるだろ」
渚「…」
昭「はい決定」
渚「…そもそも道具は」
昭「用意した」
渚「…」
昭「どんなのにしようかな〜」
渚「…」
渚(朝忙しくなるのやだな…)
チュンッッッッッチュンッッッッッ
昭「さて、準備いいか?」
渚「…」(眠い…)
昭「でまぁ一晩考えたけど、ナギは元が良いし凝った物はやらず基本的なのを追加する感じにしようかと」
渚「…」
昭「てわけでまずはいつもの化粧水」ヌリヌリ
渚「んん…」
昭「あとナギは乾燥しやすいから乳液も」ヌリン
渚「んんん…」
昭「お次はファンデ〜」ポフポフ
渚「…」
昭「そんで隈をコンシーラーでちょいっと」スイッ
渚「ん“ー…」
昭「えーっと、次アイシャドウ。目閉じて」
渚「…一つ前の時点で言ってくれ」
昭「悪い」スッ
渚「…」
昭「じゃあ次はまつ毛をビューラーで上げてマスカラでガッ」ガッ
渚「ぬ”っ」
昭「え、目入った!?」
渚「いや…ちょっと驚いた…」
昭「なんだよかった…じゃああとはチークで血色をよくして〜」ヌイッ
渚「まだかかるのか」
昭「次で最後、リップ塗るから口閉じて」
渚「ん」ヌリッ
昭「ん、こんなもんかな。ほら」
渚「…誰だこら」
昭「牛鬼渚さんにございます」
渚「…あぁ」
昭「普段の会社用にはコンシーラーとチーク追加すればいいんじゃないかなぁ、あと乳液」
渚「あっそう…」
昭「どうよ」
渚「ん…」
昭「…」
渚「まぁ…いいんじゃないか、面倒だから自分ではやらないけど」
昭「なんだよーやってくれよー私の目の保養にー」
渚「気が向いたらな」
昭「めんどくさがりだな相変わらず…まぁいいや、ついでに髪も軽くいじろう」
渚「早くしろよ…いつになったら外出るんだよ…」
昭「はいはいちゃちゃっとはい終わり」
渚「は、え?」
昭「片側をヘアピンで上げて後ろはポニテにした、ほいじゃあ出かけるか」
渚「…おう」
ガチャッ
昭,JD「「あっ」」
昭「どうも」
JD「あっうっす」
昭「どう」ズイッ
渚「ん“っ」
JD「…」
渚「…」
JD「…」グッッッッッッッッッ
昭「でしょ」
JD「素材が輝いてるっす」
昭「んふふー」
渚(なんなんだよ…)
軽く買い物に出たが、ナギは行く先々で視線を感じてたようでずっとソワソワしてた
それがお前の可能性だ…
ふふふ…
渚「なぁ…」
同僚「んな〜?今日は割り勘だよ」
渚「いやそうじゃなくて、うちの同居人にこれ絶対見せろってうるさいからこれ見てくれ」
同僚「え、私もしかして認知されてる?」
渚「まぁ…ちょいちょい話す」
同僚「え怖、どれどれ…」
渚「ん」
同僚「ゥ”ワ“ア”ァ“ッッッッッッ」
渚「…」
同僚「女やめていい?死にたい」
渚「死なないでくれ頼むから」
・遺伝子の残り香
ム”ーム“ー
昭「ん…ナギー」ガラッ
渚「何」
昭「電話」
渚「えっ、ちょっ、手濡れてるから耳当ててくれ」
昭「ほいほい」ピッ
渚「もしもし?…あぁ久しぶり…食ってるから…はいはい…え?来る?うちに?あー…ちょっと待って」クイッ
昭「ん?」
渚「来週うちの母親が来たいって言ってるんだけど…」
昭「いいけど」
渚「もしもし?いいけど…ん…じゃあ2時頃…はいはい、じゃあ…もう切っていいよ」
昭「何、来るの?」ピッ
渚「何か知らないけど来るらしい」
昭「ほーん、いいお茶でも用意しとくか」
渚「別にいいんだけど…」
昭「ナギにとっちゃ自分の母親だろうけど私は違うからな、OMOTENASHIしないとな」
渚「まぁそうだけど…」
昭「こういうのが好きとかある?」
渚「…」
昭「?」
渚「知らない…」
昭「えぇ…どうしよう…紅茶とケーキでいいかなぁ…」
渚「さぁ…」
昭「ナギ…」
渚「いや…普通そこまで知らないだろ…」
昭「そうかぁ…?」
渚「…知らないけど」
昭「ところで風呂掃除終わった?」
渚「あと…流すだけ」
昭「うい」
-1週間後-
昭「そろそろ来るかね」
渚「まだ連絡来てないけど」
昭「そういえば私ってナギママに会ったことあるっけ?」
渚「さぁ…あるとしたら小学校の時とかじゃないか」
昭「あんまり覚えてないけど…どんな人?」
渚「え…えぇ…っと…
ム"ー
渚「あ…あーもう下に着いたって」
昭「おっ、じゃあ直接確かめるか」
渚「行ってくる」
昭「お茶準備しとく」
渚「ん」
渚母「あ」
渚「ん」
渚母「久しぶり」
渚「何で急に来たいとか…」
渚母「いいでしょ、たまには」
渚「はぁ…」
ガチャッ
昭「お」
渚母「結構綺麗なところね」
渚「そう?」
昭「おぉ」
渚母「あ、昭さん?」
昭「はい昭です」
渚母「娘がいつもお世話になっております…」
昭「いえいえむしろ私がお世話してもらってるというか」
渚母「いえいえ…」
渚「そういうのは後にしてくれ」
昭「そうそうお茶も用意してあるんでどうぞー」
渚母「すいません…」
渚母「これ良ければ…つまらないものですが…」
昭「あぁこれはどうもご丁寧に」
渚(こいつこういう対応も出来るんだな…)
昭「ナギ何か失礼な事考えてるだろ」
渚「…別に」
昭「…まぁいいや、良ければケーキ食べて下さい」
渚母「…」
昭「…えっと」
渚母「…あっすいませんいただきます」
渚母「…っ」
昭「?」
渚母「…」
昭(…なんか)
渚「で、何で急に来る事になったんだよ」
渚母「渚昔から食べない方だからちゃんと食べてるのか気になるのよ、ただでさえ体弱いんだから」
渚「そんなの昔の話だろ、それに食ってる」
昭「まぁそうですね、少し小食なぐらいで食べてると思いますよ」
渚母「お酒とか飲み過ぎて無いでしょうね」
渚「…」
昭「まぁ…基本週末しか飲まないですね」
渚母「…はぁ、まぁいいわ。昭さんはどう?この子あまり喋るの得意じゃないから…」
昭「いえそんな、さっきも言いましたけど私の方がお世話してもらってるぐらいなので。それに一緒にいて楽しいですし」
渚母「そうですか…渚」
渚「え?」
渚母「ちょっと…席外してくれない?」
渚「何で」
渚母「昭さんと話したい事があるの」
昭「はえ」
渚「…さっさと終わらせてくれ、屋上行ってるから」
昭「終わったら呼びに行くよ」
渚(何か…前もこんな事あったような)
バタンッ
渚母「屋上?」
昭「あぁ、この物件屋上あるんですよ」
渚母「へぇ…」
昭「それで話って?」
渚母「…渚とはもう何年になるのかしら」
昭「え?そうですね…もう10数年とかですかね?」
渚母「随分長い付き合いなのね」
昭「まぁ高校時代は別でしたし連絡もほとんどとって無かったですけどね」
渚母「…連絡も?」
昭「あー…えーっと…喧嘩というか、ナギの気に触る事しちゃって殴られちゃって…」
渚母「っ!?ごめんなさい!ごめんなさい!」
昭「あいやいやそんなんじゃないんです!私が悪かったんです!」
渚母「そういうわけには…」
昭「もう昔の話ですし…それにナギはずっとそれを後悔していたんです、友人である資格なんて無いって考えるぐらいに」
渚母「…」
昭「あぁそうそう、高校の終わりぐらいにたまたま会ってそんな話をしましたね。私はそれを知れただけで良かったんですよ」
渚母「どうして…」
昭「え?」
渚母「どうしてそんなに渚を信頼してるんですか?」
昭「…昔私も救ってもらったんです、それだけで私には十分だったんです」
渚母「そう…なの…」
昭「はい」
渚母「…本当は、あの子がずっと一緒にいる昭さんってどんな人なのか一度話してみたくて今日来たの」
昭「あら」
渚母「私はあの子にずっと勉強していい学校に入るのを強要し続けてしまったの。今はもう成人したしあの子の生き方を尊重して何も言わないようにはしてるけど…」
昭「…」
渚母「あの子がそれでも潰れずに済んだのは貴女のおかげかもしれないと思うと本当に何と言えば…」
昭「…ナギ、前にお母さんの好みとか知らないって言ってたんですよ」
渚母「え?」
昭「私に何か詫びたいのなら、ナギと色々話してみて下さい。私はあいつが気楽に生きてればそれでいいんです」
渚母「確かに…最近は少しずつ話すようになったけど、まだあの子の事全然知らないわね…」
昭「意外と可愛いところもあるんですよ」
渚母「え」
昭「気が強そうに見えるけど人見知りだったり、人に興味無さそうに見えて意外とちゃんと人の事見てたり」
渚母「…えぇ?」
昭「その反応は流石に可愛そうっす」
渚母「…」
昭「…」
渚母「ん“ん”っ…その…貴女の事も聞かせてくれない?」
昭「私?」
渚母「こう…貴女の視点からの渚を聞きたくて」
昭「あぁ…そうですね…
渚(さみぃ)
昭「ナギー終わったぞー」
渚母「いいわね、屋上」
渚「おー」
昭「というわけでちょっとお二人でどうぞ」
渚「えっおい」
昭「温かいものでも淹れてくるから」
渚母「…」
渚「…」
渚母「…ねぇ」
渚「何」
渚母「昭さんには内緒にして欲しいんだけど、私ね…甘いの苦手なの」
渚「は?というかさっき食ってただろ」
渚母「出された物を食べないわけにはいかないでしょ…」
渚「あいつは気にしねえよ」
渚母「いや、違う、そうじゃなくて」
渚「何だよ…」
渚母「貴女も苦手でしょ、甘いの」
渚「まぁ…そうだけど…」
渚母「…渚の事教えてくれない?私も話すから」
渚「どうしたんだ急に」
渚母「…約束なの」
渚「…」
渚母「何から話そうかしらね…そういえばギターは今も弾くの?」
渚「結局私かよ…まぁいいけど、今もたまに弾いてる」
渚母「音楽は昔から好きなの?」
渚「まぁ…嫌いではない、それと本ぐらいしか昔から興味無かった気がするな」
渚母「そう、本は私も色々読んだわね」
渚「どんな」
渚母「そうね…
渚「送ってきた」
昭「お帰り、色々話せた?」
渚「気持ち悪いぐらいに饒舌だったけどな」
昭「そう言うなって、本当はナギの事好きなんだよ」
渚「ぐっ」
昭「そういえばうちの親父も今どこいるんだかな」
渚「放浪してるみたいな言いぶりだな」
昭「まぁ自由の身だからな」
渚「そう…あ、あと」
昭「?」
渚「今度うちの母親来たら抹茶系とかそういうのを頼む」
昭「…あぁ、悪い事しちゃったなぁ」
渚「あの人も言わなかったから」
昭「そっか」
渚「…なぁ」
昭「うん?」
渚「私って…似てる?」
昭「お母さんと?」
渚「いや、聞かなかった事にしてくれ」
昭「何というか、同じDNAの香りがするなぁって」
渚「…何だよそれ」
昭「そっくりだよってこった」
渚「…そうかよ」
昭(雰囲気そっくりだなぁ、やっぱり)
・末の一日、初の一日
渚「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
昭「溜まってるなぁ、息」
渚「やっと…終わった…仕事…」
昭「休暇入ったか、年末年始どうするんだ?」
渚「…もう疲れたからいい、家いる」
昭「そっか」
渚「でも掃除やらなきゃいけないし…全部やってくれよアキ」
昭「忘れてるだろうけど私も普段労働してるんだからな?」
渚「んんん〜…」
昭「若干キャラ壊れるほど疲れてるな…」
渚「…この時期嫌なんだよな、色々思い出すから」
昭「もー暗い事は考えない思い出さない、せっかく冬休み入ったんだから」
渚「学生の冬休みぐらい長かったらな」
昭「本当に重症だな…あれ?そういえば忘年会とやらがあるんじゃないのか?」
渚「自由参加だったから流石に逃げた」
昭「あぁ…同僚ちゃんも?」
渚「あいつは地元帰るとかの準備で忙しいから参加しないとか聞いた」
昭「ふーん、何か寂しい忘年会になってそうだな」
渚「実際少ないと思う、皆やばそうだったし」
昭「そんなにか」
渚「もうやだ」
昭「まぁとりあえず休みに入ったんだし、ほら飯食べよう。そんでゆっくり寝れば元気になるさ」
渚「…うまい」
昭「そうかそうか」
渚「…その、何だ、今年もありがとな」
昭「んぉん、急にどうした」
渚「いや…うん…別に何でも無い」
昭「…やっぱ寝た方がいいんじゃないか?」
渚「おい」
昭「嘘だよ、持ちつ持たれつギブアンドテイク御恩と奉公ってな」
渚「…違うだろ最後」
昭「ナギはそうじゃないとな」
渚「んん…」
昭「風呂あがったぞー」
渚「んー」
昭「先に入っちゃっても良かったのに」
渚「皿洗わないとだし、これぐらいはな」
昭「律儀だねぇ」
渚「持ちつ持たれつなんだろ」
昭「そういうとこだよ」
渚「うるせぇ」
昭「んふふ」
渚「…よし、終わり。風呂」
昭「ごゆっくり」
渚「ゆっくりしてたら寝そうだよ」
昭「頼むから寝んでくれ…」
渚「はいはい」
〜30分〜
昭(…いつもより長い気がする、本当に寝てるのか?)
昭「ナギー…?」
渚「ん?」
昭「あ、起きてた」
渚「スマホで本読んでた」
昭「怖いからやめてくれ…」
渚「そうだな、もう出るk…うっ」
昭「ナギ!?」ガラッ
渚「あ“ー…のぼせた…」
昭「…はぁ」
渚「う“お”ぁぁぁぁぁ…」
昭「ほら、タオル冷たくしたから…」
渚「…すまん」
昭「相当だな…本当に大丈夫か?」
渚「…気が抜けたんだと思う」
昭「んー…まぁナギが頑張ってるのは知ってるから、気にするな」
渚「…」
昭「ナギ?」
渚「ちょっと…こっち見るな」
昭「え、泣いてんの?」
渚「疲れたんだよ…それに歳もとった…」
昭「えー?何ー?かーわーいーいー!というかそんな歳じゃないだろー?」
渚(ぶん殴りてぇ…)
後日
昭「じゃあ大掃除やるkう“っ”」ドッ
渚「…」
昭「え、何、ちょっとだけ痛い」
渚「…」
昭「え」
そのまた後日
渚「おい…」
昭「…」
渚「増やしただろ…物…」
昭「…ゴメンナサイ」
大晦日
渚「ふぅ…」
昭「鏡餅早く開けたいなぁ」
渚「お前餅好きなの?」
昭「餅は色々楽しめるからな〜」
渚「ふーん」
昭「でも年越し蕎麦も食べないとな」
渚「晩飯に食うか」
昭「え?去年それで論争して結局跨ぎながら食う事にしたんじゃなかったか?」
渚「え?そうだっけ?」
昭「え?」
渚「え?」
昭,渚「「…」」
昭「まぁいっか、夕飯別に作るのも面倒だしな」
渚「そうだな」
昭「何入れる?」
渚「ネギと…鶏肉でいいんじゃないか」
昭「うーん、何かこう…もうちょっと…」
渚「年明けてから好きなだけ食えばいいだろ」
昭「むー」
渚「はいはい蕎麦作るぞ」
ア、タマゴハ?
…ソレツキミジャナイカ
昭「じゃあ」
昭,渚「「いただきます」」
昭「テレビ…特に無いなぁ」
渚「んー…」
昭「格闘技でも見るか」
渚「…今日何曜日だ?」
昭「え?土曜?」
渚「土曜か…」
昭「あ〜曜日わかんなくなるよなぁ」
渚「まぁゴミ出しあるからわかるけど」
昭「どっちやねん」
渚「思考が鈍ってる」
昭「鈍ってるかー」
渚「…来年どうしたい?」
昭「どうしたいって?」
渚「何だろう、抱負的な」
昭「あー…何だろうな、まぁいつも思うのはとりあえず楽しく自分で道を進みたいと思うよ」
渚「お前らしいな」
昭「私らしく生きたいからな、そういうナギは?」
渚「そうだな…何か新しい事でも始めるか」
昭「新しい事?」
渚「…資格とか…格闘技?」
昭「ほう」
渚「何も決めてないけど」
昭「いいじゃないか、未来は手の中さ」
渚「手の中か」
昭「格闘技は詳しくないけど資格とか検定なら何でも聞いてくれていいぞ」
渚「例えば」
昭「そうだな…日本酒検定とか確かあったぞ、私はあれだから取らなかったけど」
渚「ふーん」
昭(ちょっと目が光ったな)
昭「あとはインテリアプランナーとか掃除系とか面白そうじゃないか?」
渚「んー」
昭(光が…)
渚「まぁ…ゆっくり考えるよ」
昭「ん、それがいい」
昭「何だかんだもう今年も数分だな」
渚「…」ソワソワ
昭「どしたの」
渚「いや…」
昭(意外とこういうとこ子供っぽいよな)
昭「何か言い残した事は無いか?」
渚「え」
昭「年内に済ませておく事は?」
渚「…無い」
昭「あけましておめでとうございますを言う準備はOK?」
渚「…イジってるだろ」
昭「ごめんごめん」
渚「はぁ…」
昭「…なぁ」
渚「ん?」
昭「来年も仲良くやってこうな」
渚「…ん」
ゴーン
昭「お、じゃあ」
昭,渚「「あけましておめでとうございます」」
元旦
昭「ナギ!ナギ!餅!はよ!きな粉磯部お汁粉ぉぉぉぉ!!」
渚「うるせえ朝っぱらから!!」
・見てきた者、知っている者
昭「あぁっ…くそっ」
渚「…」
昨日帰って来てからずっとあんな調子だ、珍しく怒りを堪えきれないでいる
マイナス感情のコントロールが特段上手いという訳では無いと思うが、あれほどに抑えきれていないのは今までそうそう無かった
私が顔を洗ってる時も何かを叩く音が時折聞こえるほどだった
渚「アキ…」
昭「…何だよ」
渚「…折角休みだしどっか行くか?」
昭「いいよ…やる事ある…」
渚「休み挟まないと効率悪くなるだろ」
昭「…」
渚「今日、あったかいしな」
昭「…はぁ、上ならいいよ」
渚「じゃあ飲み物でも用意するよ」
昭「…」
渚「たまには日光浴しないとな」
昭「お前はそんなキャラじゃないだろ」
渚「社会人になってから色々気付く事もあるんだよ」
昭「…」
渚「風も無いしちょうどいいな」
昭「…」
渚「昨日どこ行ってたんだ?」
昭「…買い物」
渚「また何か高いの買ったのか?」
昭「別に、資料探してただけだよ」
渚「そうか」
昭「…」ガリガリ
渚「そういえば髪伸びてきたんじゃないか?」
昭「あ?まぁそうかもな」
渚「その髪型いつからしてるんだ?」
昭「…高校からじゃないか」
渚「そうか、昔は邪魔だって短くしてたのにな」
昭「…」
渚「私もそろそろ切ろうかな」
昭「…もういいだろ、ハッキリ聞けよ」
渚「何が?」
昭「どうせ私がイラついてるのを気にして喋ってるんだろ」
渚「まぁ…そうだな」
昭「ならもういいだろ」
渚「それは私が決める事じゃないしなぁ」
昭「は?」
渚「お前が話したくならないと意味無いからな」
昭「…ちっ」
渚「…お前ならこうするってのをやってるんだ、昔から私が酷い気分だったりした時はお前はまず気持ちを落ち着かせようとしてただろ」
昭「…」
渚「だからまぁ…見習って試してみてるんだよ」
昭「…」
渚「しかし慣れない事は上手くいかないもんだな」
昭「…はぁ、そういう事は言わないもんだぞ」
渚「…自分で言ってて少し思った」
昭「全く…悪かったよ当たって、ただこれは言えない」
渚「私の事だから?」
昭「っ」
渚「お前が言えない事って私に黙って高い物買ったか、私に関係する話ぐらいじゃないか?高い物買って怒るってことはまぁ無いだろうから後者かなって」
昭「…ナギはそういうの鈍いと思ってたよ」
渚「おい」
昭「…中学の時の同級生にたまたま会ってな、向こうから話しかけてきたし流石に露骨に逃げるのもあれだから立ち話したんだ」
渚「…」
昭「それで流れでナギと同棲してるって言ったら『何であんな奴と』って言ったんだ、私を殴ってそれっきりの奴とって」
渚「あぁ…」
昭「それまで私達はずっと仲が良かったのにその一度の光景だけでナギをそう言われる事が許せなかった、大して喋った事も無いくせに…」
渚「…」
昭「でも私は何も言えなかったよ、言い返すのも面倒だとか公共の場だからとか色々あったけど…あいつはクラスメイトで…私にとっては仮面を被る相手だったんだ。昔、久々に再開した時言った気がするけどナギの前では素の私でいれた、でも完全に仮面を取れたわけじゃなかったんだ。多少なりとも無理をしようとしてた、もう癖みたいになってたからな」
渚「そういえば…他の奴と話すとなんとなくそうだった気がするな」
昭「まぁ…酷い気分の要因はその二つだな…そいつと自分に吐き気を催すよ」
渚「…一つ、いや二ついいか?」
昭「え?」
渚「まず私はそれを聞いて至極どうでもいいと思った、次にお前が私を思う気持ちに変わりはないだろ?」
昭「…」
渚「そいつがどう思っていようがもう顔見知り程度のクラスメイトですら無いんだ、ネットの向こうの誰かが喚いてるのと同じようなもんだろ」
昭「そういう問題じゃ…」
渚「そういう事なんだよ、まぁ殴っていいなら殴りたいぐらいに思ってるけど」
昭「気にしてんじゃん…」
渚「ない、それとお前が反論出来なかったとしてもそれも私はどうでもいい。事実のお前は小学校からこんな歳になるまで付き合いがある親友なんだから」
昭「ナギ…」
渚「好きな事に目を向けろよ、人生短いんだろ?」
昭「…」
渚「…今のは中々お前っぽかった気がする」
昭「…その一言が無ければ中々良かったな」
渚「ん“ん”」
昭「でもまぁ、惚れ直すには完璧だったな」
渚「そうかい」
昭「愛してるぞーちゅっ」
ベシッ
昭「あっおい!」
渚「それはいらん」
昭「んもー…あ、そういえば」
渚「?」
昭「髪切るのか?」
渚「あ?あぁ…そうだな…」
昭「切ってやろうか、慰めのお礼代わり」
渚「え…」
昭「大丈夫だっていけるいける」
渚「えぇ…やだよ…」
昭「大丈夫ベリショも似合うよ」
渚「どこまで切るんだよ」
昭「私もバッサリ切ろうかな」
渚「お前は…合いそうだな」
昭「お?そう?」
渚「知らん」
昭「どうしよっかなぁ」
渚「それよりそろそろ飯の準備するぞ」
昭「おう、今日はいいもん作るかー」
渚「まともなの作れよ」
昭「まかせろ」
・紫煙の女と紫メッシュの女
渚「…」
昭「…」
渚「…」スッ
昭「…」
〜10分後〜
昭「…ん?」
昭(トイレにしては遅いな)
昭「あれ?いない…どこに…」
昭「…鍵無いな、屋上か」
トットッ
昭「あ、いた」
渚「あ」
昭「なんだ、煙草吸うのか?」
渚「いや…」
昭「そんな煙草見つかった高校生みたいな反応するなよ、別に咎めないよ」
渚「その…何となく知られたくなくて…」
昭「何でよ」
渚「何だろうな…普段偏食やらをうるさく言ってる奴が煙草吸ってるのってこう…」
昭「ナギ変なとこ気にするよなほんと」
渚「うるせえ」
昭「まぁ私は程々になとしか言わないよ」
渚「ん…」
昭「そういえばさぁ、煙草の煙を紫煙と言うけどマジで紫なの?」
渚「そんな真面目に見てねえよ」
昭「じゃあ見せてくれよ」
渚「ほら」
昭「んー…?よく分からんな」
渚「何だよ…」
昭「しかしまぁ、何だ、似合うな」
渚「似合う似合わないってあるのか?」
昭「良い女には煙草が似合うって昔から相場が決まってるんだよ」
渚「…昔の洋画の女優みたいな?」
昭「そんな感じ」
渚「私はそんなんじゃねえよ」
昭「系統的にはそういうタイプの美人じゃないか?」
渚「タイプも何もそもそも違う」
昭「相変わらず卑屈というか…もうちょっと自信持ってくれよぉ」
渚「そういう質なんだよ」
昭「難しいなぁ、何か言われた事あるの?」
渚「言われたというか…そもそも私には勉強しか頭に無かったから、あの人に言われて」
昭「うむむ…それにナギ頭硬いとこあるしな…」
渚「お前は頭自由過ぎる、そのご機嫌な髪色も含めて」
昭「ブフォオwwwご機嫌なwww」
渚「自分で笑うなよお前の髪だぞ」
昭「ワードチョイスに吹いた」
渚「…」
昭「これもなぁ、厳つさ出すために適当に色決めたら何かしっくりきちゃって」
渚「…それ高校からだっけ」
昭「うん、まぁ好きな人に振られて髪切るようなもんさ。私は人を近寄らせないためにだったけど」
渚「…本当に迷わk 昭「ナーギ」
渚「…」
昭「もう、過ぎた事だ」
渚「…」
昭「…次さ、何色にしようか」
渚「…髪型も変えたらどうだ、もう威圧感を出す必要は無いだろ」
昭「おぉ、それもいいな」
渚「お前は何でも似合うよ」
昭「アフロとかドレッドでも?」
渚「…そもそもやってくれるとこあるのか?」
昭「近所には無いだろうなぁ、というかナギも変えてみたらどうだ?ショートボブとか、ふんわりじゃなくてシャープに切り揃えば良い感じになりそう」
渚「私は良いよ」
昭「人には言っといてこのー」
渚「んん…」
渚(でも…これも煙草と近い気がする…人には言っといて自分が出来ないやらない。こんなの対等じゃないしそれに…何も変わらない)
昭「いや私はむしろ伸ばそうかな、アレンジの幅も広があそうだツインテやってみたいな」
渚「それはやめろ…」
昭「何でよ」
渚「何か…イタい…」
昭「おいコラ昭ちゃんはスーパークール&キュートなんだから似合うだろ」
渚「お前にキュートさがあるなら福山○治にもキュートさがある事になるぞ」
昭「何で福山雅○…えー?ダメ?」
渚「そもそもお前デカいだろ…私と同じくらいなんだから」
昭「デカくたって可愛いもんは可愛い、実際そういう奴いたぞ」
渚「知らん…」
昭「私も一応女なんだけどなぁ…じゃあイケメン路線でいくかしょうがない」
渚(今までは…?)
昭「じゃあ…それ一本くれ」
渚「煙草?」
昭「良い女も格好良い女も煙草は似合うはずだからな」
渚「知らないけど…はい」
昭「ふんふん、こんな香りなのか」
渚「吸った事無いのか、お前の事だから興味本位で経験ぐらいはあるかと」
昭「何だろう、単純にタイミングが来なかっただけだと思う」
渚「ふぅん…ほら火」カチッ
昭「ほう?」
渚「そう…そのまま吸って…」
昭「…ゔぇえっほ!!」
渚「まぁそうなるよな」
昭「げほっげほっ…あ“っ、でも火付いた」
渚「灰皿も」
昭「どうも」
渚「…」
昭「…ふぅー」
渚「…」
昭「少し…甘い香りがする」
渚「バニラ風味…だったかな」
昭「何かいいなぁ」
渚「そうか」
昭「少し日が傾いた群青の下、屋上で空を見上げ、友と煙を蒸す…これこそ人生だなぁ」
渚「まぁ…今の時代じゃ高級な人生かもなぁ…」
昭「いいね」
渚「…やっぱり髪いじろうかな」
昭「どした」
渚「伸ばしっぱのこの髪は楽だけど、時には変化も必要なのかもしれない」
昭「そうだなぁ…同じように見える関係性も割れたりくっついたり、形を変えながら新しくなっていくのかもな」
渚「…誰の事言ってるんだ」
昭「さてなぁ」
渚「…だからお前も変えろよ」
昭「む?いいけど、どうしよっかな」
渚「美容院予約しないとな…時間取れるかな…」
昭「楽しみにしとこう、ところでこれどこまで吸えばいいの」
渚「え?あ!?もういいよ!!」
昭「勿体無い気がして」
渚「根本はフィルターなんだから…」
昭「というか割とびっくりした」
渚「そりゃそんな根本までいってたら…」
昭「はっはっは」
渚「ったく…」
〜後日〜
同僚「…デートでもあるの?」
渚「…何の話だ」
同僚「そんな髪整えておめかししちゃって」
渚「人は時には変化が必要なんだ」
同僚「つまり恋か」
渚「…お前恋愛脳とか言われるだろ」
同僚「いーじゃーん恋って楽しいじゃん」
渚「んー…」
同僚「そういえば恋愛遍歴とか聞きたいところだけんども」
渚「仕事しろ」
同僚「今日はまぁまぁ暇ですー」
上司「じゃあこれよろしく、急がないから」
同僚「ヴェアッ」
渚「まったく…」
・この地の底に潜む物
昭「ナギ〜」
渚「…」
昭「起きろぉ!」
渚「ガッ」
昭「朝だぞ起きろ」
渚「…まだ8時じゃねえかこの野郎」
昭「今日の用事のために起こしたんだろこの野郎」
渚「は?あぁ…そういえばそうだった…」
〜前日夜〜
昭「水族館行きたい」
渚「水族館?」
昭「ウツボが急に見たくなった」
渚「…行けば?」
昭「えー付き合ってくれよ〜」
渚「別に私は興味無い」
昭「いーじゃん、ゆっくりクラゲでも見てりゃ」
渚「えぇ…」
昭「おねげーしますだお代官様」
渚「誰がお代官様だ、まぁ…いいや」
昭「いえー」
〜今〜
渚「だからってこんな早く起こさなくたって…ふぁ」
昭「じっくり見てたら1日かかっちまうからな」
渚「…」
昭「…え?」
渚「…zzz」
昭「寝てる…嘘だろ、漫画じゃあるまいし…」
渚「…あ」
昭「いや…やっぱいいや、午後から行こう」
渚「…ん」
昭「ごめん…」
渚「…いいよ、じゃあもうちょっと寝るから…」
昭「おやすみ」
〜昼過ぎ〜
昭「来たー」
渚「水族館…小学生の頃行ったっけ?」
昭「んー?なんか水道の博物館的なのは行った覚えはあるけど」
渚「え、じゃあ私初めて来るかも…」
昭「おいおいマジかよ、はじめてのすいぞくかんじゃん。ドーレミファソラシド〜♪」
渚「は?」
昭「じゃあ行くか」
渚「おー」
昭「まずは海岸とか浅瀬のエリアみたいだな」
渚「ずいぶんドギツイ色してんな…」
昭「熱帯の海なんかだとかなりカラフルだな、サンゴとかウミウシが顕著だな」
渚「なんでだっけ…?」
昭「なんだったか、毒を持つ生物がそういう色をしている事が多いから自身もカラフルにする事で毒持ちと騙すためだったかな?」
渚「あぁ…」チラッ
昭「…鳥類の毒持ちは確認されたと聞いた事があるけど哺乳類は無いだろ」
渚「いや?何も?」
昭「擬態でも無い!」
渚「ほら次行くぞ、ウツボ見るんだろ」
昭「こんにゃろー」
渚「ここは…クラゲエリア?」
昭「最近クラゲが人気みたいだからな」
渚「ふーん…」
昭「しかしまぁこのでかい水槽を漂うクラゲをみるのは…人気なのもわかるなぁ」
渚「…」
昭「…」
20分後
昭「…ナギ?」
渚「…え?」
昭「そろそろ次行かない?」
渚「いいけど」
昭(もしかしてそこそこな時間見てたの気付いてない…?)
昭「次は外洋エリアか」
渚「イワシか?実際に見るとすごいな」
昭「トルネード迫力あるなぁ」
渚「うぉ」
昭「おーこれは…コブダイかな?でかいなぁ」
渚「…」
昭「あれ刺身何人前になるかなぁ」
渚「…あれ食えるのか?」
昭「タイなら食えるんじゃないのか?」
渚「うーん…」
昭「さて次は…あ」ビクッ
渚「ちょっ急に止まるな」
昭「え、あ、行こう行こう」
渚「何なんだ…ん?これは…」
渚「…マンボウ?」
昭「お!触れ合いコーナーじゃん!」
渚「おぉう…」
昭「ほらナギ見てナマコ〜」
渚「よくそんな平然と触れるな…」
昭「毒も針も無いし」
渚「いやそうじゃなくて…」
昭「ヒトデ〜意外と硬い〜」
渚「…なぁさっきの…」
昭「え」
渚「マンボウ」
昭「っ」
渚「嫌いなのか?」
昭「え、いや、そうじゃないけど…あの見た目でフグの仲間だしヒレも面白い形状だし…」
渚「じゃあなんだよ」
昭「いや…」
渚「…」
昭「…怖いじゃん」
渚「…は?」
昭「いや…でかいし…目が虚ろだし…水槽暗いし…」
渚「…ブッッッッッッッッッッッッッッ」
昭「…」プルプル
渚「ふー…ふー…駄目だ駄目だ抑えろこんなとこで大声で笑うわけnブフォッッッッ」
昭「許さんぞ牛鬼渚…」
渚「ちょっ…ちょっと待って…マジでツボに入った…」
昭「…」
グッ
渚「い“っっっっっっっっっっっっ!?」
昭「笑いを抑えるツボだ、滅茶苦茶痛いけどな」
渚「そんなの無いだろ…」
昭「ふんっ」
渚「悪かったって…」
昭「淡水エリア」
渚「ん…」
昭「…」
渚「…」
昭「…昔、本でダイオウイカの水中撮影の写真を見た事あってな」
渚「え?あぁ」
昭「そのダイオウイカの目がな、あまりにも怖くてな」
渚「…」
昭「それでまぁ、その手の海中巨大生物?がちょっとな」
渚「そうか…」
昭「なーんだろうな…あの目は…」
渚「ん…」
昭「…ほらシケた面するなよ、アロワナいるぞ」
渚「…ごめんな」
昭「しょうがねぇなぁ」
渚「ありがと」
昭「お、ヤドクガエルもいるじゃん。かわい〜」
渚「かわいい…か?毒ありじゃなかったかこれ…」
昭「ビビットカラーでこの柄はかわいいだろ」
渚「そういうもんか…」
昭「そういうもんだ」
〜夜〜
昭「いやぁ楽しかったぁ」
渚「疲れた…水族館けっこう歩くんだな…」
昭「まぁ広いからなーさてお土産広げようぜ」
渚「その前に天気予報」ピッ
「今回は海の巨大生物特s
ピッ
昭「…」
渚「…いや…悪気は…」
昭「わかってる…わかってるから…」
渚「…土産広げるか」
昭「…うん」
・大人、同級生、そして
昭「よし、じゃあ準備が出来たんで」
渚「…」
昭「誕生日おめでと〜、今年で30かぁ」
渚「…」(ぶいっ)
昭「…なんというかアラサーになったあたりから随分変わったよな、ナギ」
渚「んー…まぁこの歳になってようやく色々吹っ切れたというか、自分を許せるようになってきたというか」
昭「ふーん?」
渚「そういうお前だってだいぶ大人しくなっただろ」
昭「私もようやく滾る好奇心が落ち着いてきたのかね」
渚「でもあの頃のアキといるのは何だかんだ楽しかった気がする」
昭「え、やだ、素直。じゃなくて今の私は嫌だってのかこのやろー」
渚「今のアキは落ち着ける」
昭「やだ、結婚して」
渚「するかアホ」
昭「そこは変わらなくて安心した」
渚「しかしもう30か…もう20年近くお前といるんだなぁ」
昭「間に休養期間入るけど、それぐらい経つんだなぁ」
渚「…長かったなぁ」
昭「あっという間だったよ」
渚「…そうだな」
昭「あーもうほら、しっとりする前にケーキ食べよう。今年も甘さ控えめココアケーキ作ったんだし。あと酒」
渚「…」
昭「ナギ?」
渚「最近…たまに甘い物食べれそうな感覚があるんだよな」
昭「マジで?あの甘味嫌いなナギが?」
渚「ん」
昭「ふむ…今度試してみるか」
渚「まぁ、お前の作るもんなら食べれそうだけど」
昭「結婚してくれ、毎朝味噌汁作るから」
渚「しねーよ」
昭「ふふふ」
渚「…」
昭「ん?」
渚「…アキも30だよな?」
昭「そりゃあ、同級生だし」
渚「結婚とか…考えた事無いのか?」
昭「…まぁ、両親に孫の顔見せるのも親孝行かなって思った事もあるけど…結局、今のところ運命と信じたい相手はいなかったかな」
渚「そうか…」
昭「それもこれも全部ナギが悪い」
渚「何でだよ」
昭「ナギ以外と生きる人生が想像できない」
渚「そう言われてもなぁ」
昭「なぎあいしてる」
渚「はいはい私も愛してる」
昭「う“っ”」
渚「え?」
昭「不意打ちで言うのやめてくれないかなぁ…普通に照れる…」
渚「えぇ…」
昭「そういうナギこそどうなんだよ」
渚「うーん…親にそれとなく…というかそう言う雰囲気だけで丸わかりな聞き方された事はあったけど特に…」
昭「結婚はしたいのか?」
渚「…どうだろう、私もアキといれば不満はあまり無いし…なんか、いいかなって」
昭「まぁ、そんなもんだよな…」
渚「うちの同僚は婚活してるみたいだけど、マッチングアプリ?だかで」
昭「あ〜最近は多いらしいなぁ」
渚「結婚か…」
昭「今思うと漠然とこういう大人になるんだろうなって将来像が私には無かったな、昔から」
渚「お前は刹那主義者だからな」
昭「明日死ぬかもしれんのにそんな先の事なんか考えられるか」
渚「お前が言うと重いからやめろ」
昭「はい。ナギはあったのか?」
渚「…幼少期の将来像?」
昭「うん」
渚「普通に大学まで進学して普通に就職して…そこまでだったな、あの頃の私はいい会社に就職するのがゴールだったから」
昭「ナギもそれ言うと重いからやめてくれ」
渚「昔の話だよ」
昭「…私達は同級生で、同居人で、親友で…次は何になるんだろうな」
渚「もういいだろ、それだけで十分すぎる」
昭「人は変化する、変化しないのは人の手から離れた物だけだよ」
渚「なら人の手から離れた過去も変わらない。同級生だった事も、同居人だった事も、親友だった事も何もかも。変化するなら、そこに戻せるはずだし」
昭「やだイケメン」
渚「そうだな」
昭「…婚活、一回ぐらいは試しにやってみてもいいかもな」
渚「お前は面白いしスタイルもいいし、貰い手はいっぱいいるだろうな」
昭「なんだ、ナギはやらないのか」
渚「…仕事が忙しいもんで」
昭「同僚ちゃんを見習え同僚ちゃんを」
渚「それはそれ、これはこれ」
昭「いやどれだよ」
渚「ビール」
昭「あ、逃げるなこのやろー」
渚(結婚…と言っても自分がどういう人間に惹かれるかよくわからないしなぁ…)
渚(…)
渚(いやあいつはまた違うだろ)
渚「うーん」
昭「おい冷蔵庫開けっぱなしにするな」
渚「え?あぁ…」
昭「世の問題事ってのは、一人で考えたってどうにもならない事が八割だぞ」
渚「…何が?」
昭「どうせ自分の好みがわからないとか考えてたんだろ」
渚「え…こわ…」
昭「20年近くいりゃ何となくわかる、それにナギは分かりやすいし」
渚「…何だと思う?」
昭「何が」
渚「私の惹かれる相手ってのは」
昭「それは…流石にわからない」
渚「…」
昭「でもまぁナギは社交的な方では無いからな、そもそもどういうタイプの人間がいるかっていうイメージの幅が広く無いんだろ」
渚「んー…」
昭「会社でいないのか、そういう人」
渚「いたらこんな悩んでいないだろ」
昭「それもそうか…まぁ焦ってもどうしようもないしな」
渚「そもそも結婚したいかもわからんし」
昭「子供もなぁ…欲しいような別にそうでもないようなって感じだしなぁ」
渚「そうだなぁ」
昭「…なんでナギの誕生日にこんな湿っぽい話に」
渚「…さぁ」
昭「…」
渚「…」
昭「…どっちか男で生まれれば万事解決したのかな」
渚「は?」
昭「いや何でもない、気持ち悪い事考えてた」
渚「はぁ」
昭「そういえばナギ何だかんだ言って今の会社もそこそこ長いよな」
渚「転職の二文字が過った事もあったけど、まぁ忙しいだけで給料も悪くないし何だかんだでここまで来ちゃったな」
昭「もう若くないし無理だけはしないでくれよな」
渚「サプリとか飲んだ方がいいかな」
昭「そんなもん飲まれるぐらいなら私が完全栄養弁当作ってやる」
渚「その対抗心何だよ」
昭「PRIDE」
渚「そう…というかアキこそ無理して体壊すんじゃねぇぞ。今年は健診行ったらどうだ」
昭「やだねぇ、歳取ると健康の話ばっかになる」
渚「健診…」
昭「正直面倒」
渚「おいコラ」
昭「しょうがないなぁ」
渚「お前粘る癖に即折れるよな」
昭「んふふ」
渚「…そういえば今年の健診、視力下がってたんだよな…」
昭「メガネ、新しく作ろうぜ」
渚「うーん…でも別に車乗るわけでもないし…」
昭「えー」
渚「日常生活で特別困るほどでもないし」
昭「えー」
渚「また今度」
昭「むぅ」
渚「ほらビールやるから」
昭「なんか最近更に弱くなった気がするから飲めんわい」
渚「加齢…」
昭「なんかその言い方はやだ!!」
渚「はっはっは」
数ヶ月後
新人「研修終わりまして今日からこちらで働く事になりました!よろしくお願いします!」
同僚「(なかなか爽やかイケメンじゃない?)」
渚「(んー?まぁ印象は悪くないな)」
上司「じゃあ牛鬼さん、教育お願いね」
渚「え、は」
新人「よろしくお願いします!先輩!」
渚(まじか…)
渚「まぁ…はい、よろし…その手」
新人「手?」
渚「もしかして空手やってた?」
新人「はい!学生時代やってました!でも何でわかったんですか?」
渚「…」
渚「昔、空手やってた友人がそんな手だった気がして」
・夢はやがて思い出に
同「それでさぁその子の彼氏がさぁ、ライブがあるからって記念日ぶっちしたんだよ酷くない!?」
渚「はぁ」
同「忘れてたとしたら薄情だし、わかってて予定入れてたらもっとタチ悪くない!?」
渚「わかったからちょっと声抑えてくれ…そのライブも大事だったんじゃないのか?」
同「じゃあチケット2枚取れって話じゃない!?」
渚「私に言われても…」
ム"ーッ
渚「ん」
同「キーッ!」
渚「…」
同「はぁ…彼氏欲しい…」
渚「…」
同「牛鬼ちゃん?」
渚「!?」ガタッッッ
ガンッッッ
渚「ガッッッ!!??」
同「ちょっ!?えっ!?大丈夫!?」
渚「…っつぅ…」
同「急にどうしたの…よしよし」サスサス
渚「…当たった」
同「え?宝くじ?」
渚「…チケット」
同「え、やったじゃん。何の?」
渚「…」
渚「クリスマスの約束…」
渚「…ただいま」ガチャッ
昭「おかエリマキトカゲ、今日も寒かったろ」
渚「…」
昭「寒くて口もきけんか〜」
渚「…」
昭「ナギ〜」
渚「…んあ」
昭「そんなに寒かった?」
渚「え、あぁ…冷えてきたな」
昭「じゃあ風呂入ってこい、今日は辛い鍋だぞ」
渚「激じゃないだろうな」
昭「調整は出来るようにしてある」
渚「はぁ」
昭「鍋にデスソースって合うかなぁ」
渚「…」
昭「…おいナギ、さっきからどうした」
渚「ん…」
昭「ん〜、何かやなことがあったわけじゃ無さそうだが」
渚「…ちょっとキモいぞ」
昭「んだこら、ナギのにカイエンペッパー入れるぞ」
渚「いや…なんでわかるんだよ…」
昭「どれだけの付き合いだと思ってるんだ、それにナギはわかりやすい。で、どしたん」
渚「…クリスマスの約束の観覧チケット当たった」
昭「クリスマスの約束って?」
渚「小田和正がやってる音楽の特番」
昭「あ〜ナギが好きなミュージシャンだっけ?」
渚「そう」
昭「良かったじゃん、いつなんだ?」
渚「12月の…この日」
昭「…」
渚「…?」
昭「この日、夜飯行こうって言ってなかったっけ…?予約取ってたろ」
渚「え、あ…」
昭「…」
渚「悪い…」
昭「…何だよ、そっち優先するつもりかよ」
渚「いやそういう意味じゃ…」
昭「…薄情者」
渚「はぁ…?夜飯なんかいつでも行けるだろ?」
昭「次があるなんて誰が保証してくれるんだよ」
渚「おいどうしたんだ、そんな言い方…」
昭「私は!!」
渚「っ」
昭「…いつだって、後悔しないようにしたいんだ」
渚「…」
昭「…風呂入ってこい」
渚「…」
あいつと喧嘩した。
今まで無かったわけでは無いが、こういうのは初めてだった。
恐らく、私が見た中で初めて、あいつは自分の我儘のままに怒った。
-翌日-
渚「はぁぁぁぁぁぁぁ…」
同「今日はまたずいぶんと大きい溜め息じゃん、どしたの」
渚「…同居人を怒らせちまった」
同「あぁ、あのハイパーイケメンスパダリベスフレ」
渚「変な称号付けるな」
同「えーでもその人牛鬼ちゃん大好きで滅多に怒らないんでしょ?」
渚「…観覧の日、夜飯食べに行くことになってたんだ、店も予約して」
同「ありゃ」
渚「どうせ当たらないだろうと思って応募したのが間違いだった…」
同(なんかどっかで聞いた話だな…)
渚「私が悪いし…あいつがああいう怒り方したのも初めてだし…多分、帰ったらあいつは謝ってくると思う…」
同「あっちが謝るの?」
渚「あいつは自由人だけど、同じくらい律儀だから…理由も言わずに急に怒った事を反省すると思う」
同「まじで聖人なの?」
渚「…」
同「ごめん。いやでもそこまでわかってるなら牛鬼ちゃんもちゃんと謝って、何か埋め合わせするしかないんじゃない?」
渚「…そう…なんだけど」
同「弱気なのらしくないね。何か心配?」
渚「…いや」
あいつは許してくれる。
そうわかってても初めてのことで先が読めない怖さがあった。
まるで、初めて喧嘩した時のようだ。
渚「…ただいま」
ガチャッ
昭「…おかえり」
渚「…半分隠れて何やってるんだ」
昭「いや…その…」
渚「…ごめん、昨日は」
昭「んんん〜…」
渚「でも…あの人のライブを次いつ聞けるかなんてわかんない、私だって次があるかわからない」
昭「…」
渚「だから、今回は許してほしい。埋め合わせはするから…」
昭「…とりあえず風呂先に入れ、飯の準備は出来てるから」
渚「え?あぁ…」
…
昭「む〜…」
渚「な、何だよ…」
昭「…」
渚「…」
昭「…楽しんで来てくれよ」
渚「え?」
昭「そんで、いっぱい思い出話してくれ」
渚「…ん」
昭「…昨日はごめんな、思わずカッとなって」
渚「いいよ、私が悪かった」
昭「はぁ〜あ、しかしライブかぁ。たまに出たくなるなぁ」
渚「出たことあるのか」
昭「サポートだけどな、高校大学と」
渚「ふーん…ギターのサポート必要な時ってあるのか?よく知らないけど」
昭「7割ぐらいベースだったな、ドラムもちょっとだけやったけどまぁむずかった」
渚「お前いつの間にベースも弾けるように…」
昭「似たようなもんだろ」
渚「ベーシスト怒るだろそれ…」
昭「はっはっは」
-クリスマスの約束 収録当日-
渚「じゃあ…行ってくる、飯もそのまま食べてくる」
昭「あいよ、耳かっぽじって全力で聞いてこいよ」
渚「あぁ」
ガチャッ バタンッ
昭「…いつもならツッコミ入りそうなもんだが、それぐらいテンション上がってるのか?」
昭「さてまぁ、飯どうするかな。適当に散歩しながら決めるか」
昭「さみぃ…ん?」
〇〇町クリスマスフェスティバル
ステージ出演者募集中
昭「…」
昭「…ほぉ」
昭「はは〜〜〜〜ん?」
-数時間後-
渚(最高だった…本当に…)ズビ
渚(あとで母さんにも話すか…)
渚「ただいま」ガチャッ
昭「おうおうおうけぇったなおう」
渚「なんだそのキャラ」
昭「…何?泣いてんの?」
渚「う…ん…まぁ…」
昭「あのナギが素直に涙を認めるとは…相当良かったのか」
渚「…良かった」
昭「ん〜!良かったなこのやろー!」グリグリ
渚「ぐえっおいやめっ!」
昭「あっそうだ話しあるから風呂入ってこいや」
渚「話し?」
昭「埋•め•合•わ•せ」
渚「あぁ…あんまり変なのは無理だからな?」
昭「でーじょぶでーじょぶだ」
渚「ふーん…?」
ザバァ
渚「んで?」
昭「これ♡」
渚「…ステージ出演?」
昭「ギターデュオで出よう、というかもう申し込んだ」
渚「はぁ!?」
昭「曲も決めた、スコアも用意した、ナギはまぁ適当にバックとたまにリードしてくれればいいし」
渚「いやそんな…もうギターもしばらくまともに弾いてないし…」
昭「ナギなら大丈夫だよ」
渚「…」
昭「一度出来たことは、そう忘れないもんだ」
渚「…はぁ、半月もないってのに無茶言うよな全く」
昭「…」
渚「やるよ。埋め合わせの意味だけじゃなく、本当は久々に弾きたいと思ってた」
昭「…ほんと、愛する親友だよ。ナギは」
渚「うるさい」
昭「ふふふ」
クリスマス当日、会場はそこそこ人が集まっていた。
親子、老夫婦、カップル…様々なグループの人間がステージの開演を待っていた。
そして時間になり、司会が進行を始めた。
昭「おーそこそこ来てるな」
渚「んー…」
昭「そう固くなるなって、大丈夫だよ」
渚「無茶言うな…」
昭「じゃあ私だけ見てろ、このライブは私との会話だ」
渚「…お前昔からそう表現するよな」
昭「音楽は歴史的に見ても神や人間との対話だからな…ほら行くぞ」
渚「はいはい」
盛大な拍手に迎えられ、私達は"会話"を始めた。
あいつは普段のように冗談を交え、時にキザに、そして思い出を懐かしむような温かい音色を奏でた。
そして最後に…
昭「はーいじゃあ次が最後の曲となります!素敵なクリスマスになってると嬉しいぞ!それでは!___」
その曲は
『またデュエットしような』
と約束を交わしたようだった。
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