Vermilion
その色は、奴隷の少女だった。
自分の名前も親の顔すら知らない。気づいた頃にはこの立場が与えられていた。諦めや抵抗を学ぶ前に少女は、その立場を甘んじて受け入れるしか無かった。
少女の役割は人々を喜ばせることだった。喜ばせるとは言っても、その相手は奴隷にふさわしい相手だった。
具体的な役割は”傷つかない程度の硬さのものを投げつけられる”というものだった。
肉 卵 水 スライム状の物体 口にするのもおぞましいもの
そういったものを観客から投げつけられ、嘲笑をもらう。精神を削られる上に、傷は付かないとはいえ痛みが無いわけではない。だがそれでも他の奴隷の役割に比べればマシだと少女は思っていた。
古い拷問器具を用いられるもの、消えぬ傷を付けられるもの、獣と---されるもの。
少女はもう同情すら出来なかった。中には肉体が耐えられず死ぬ者、精神の限界を迎え発狂する者。それが一種の日常と成り下がっていた。
奴隷の中にはそんな少女をよく思わない者もいた。
なぜ彼女だけ傷つかずに済むのか、なぜ彼女だけ軽いもので済むのか、なぜ彼女だけ、なぜ、なぜ。
直接的な攻撃は無かったものの日に日に少女への当たりは強くなっていった。それでも少女はそれすらもはや何も感じずになっていた。
もう生きているのか死んでいるのか、少女は感じられなかった。
ある日、少女はいつものように舞台に上がりいつものように観客から様々なものを投げつけられる。食べ物から液体から様々なものを。
だがその日はひとつだけ、普段は無いはずの物が観客に配られた中に存在していた。
突然、空気を割るような悲鳴が響いた。
観客も、スタッフも、驚愕を隠せなかった。
少女からは白い煙が立ち上っていた。他の奴隷に使われる危険な薬品が観客に配られたものの中に混ざっていたのだ。
少女は苦痛に悶え転がり暴れ回った。
だが今まで感じたことのない激痛に、少女は死の恐怖と共に、生きる実感を感じていた。
苦痛に悶え、しかしうっすらと笑っていた少女にそこにいる誰もが恐怖にのまれ動けずにいた。
初めて自分が生きているという実感に感動すら覚えていた少女であったが、薬品は着実に命を蝕んでいた。初めての生の実感と、初めての死の実感。
「生きたいか」
不意に聞こえる声。耳を経由しない、脳に直接伝えられているような声。
いつの間にか目の前には帽子を被ったブロンドの女性が立っていた。
「生きる力を授けよう。だがこれからは純粋に人としては生きられない。それでも生きたいなら、手を貸そう。」
少女は答えた。初めての快感をこのまま手放すにはあまりにも勿体ない、もっと感じたい、そうして答えた。
少女から何かが生えだしていた。それは少女にとても良く似ていた。傷一つ無い、綺麗な少女だった。
そして傷一つ無い少女から植物のようなものが生えてくる。
根 幹 枝
それはそこにいた人間に絡まり、あるいは突き刺し、尽く吸い取っていった。そしてそこには、時代が違えば世界樹と呼ばれるであろう巨木が生えていった。
そうして少女は舞台から立ち去り、建物から出たところで一人の女性と会った。
「君は生きる道を選んだ、もう人としては生きられない。だから私と共に生きてもらう。
私はスカーレット、君には新しい名を持ってもらう。
そうだな、君の名は ーーー
「さて、最近マンネリ気味なんだよなぁ…こう、新しい刺激が…次は---を---して---みたいな…うーん違うな、---を---か? え?仕事?えー…今いそがs、アッハイスイマセンイキマス。しょーがない、ついでに可愛い子でも探すか。」
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