アーモンド~Another STORY~
俺には首に正体不明の「できもの」があって、とても邪魔くさく、とても歩きにくい。
これのせいで、仲間たちが離れていってしまい、ひとりぼっちになってしまった。
寂しい………。言葉にしてみればそういうことなのだろう。俺はいつも公園の時計台の下にいて、他の鳩の様子を伺っている。でも、誰もこちらを見ようとしない。
やっぱりこの「できもの」のせいなのだろう。
鳩の病なんて誰かが助けてくれるわけでもないし、俺はこいつと心中するつもりだ。その日を待ち遠しく思う。
俺とつがいになろうとしてくれたあの子も、今は違う鳩と仲良くやっているみたいだ。いっそのこと道路へ飛び出して、死んでしまおうかなぁと思う時もある。でもそんな度胸はない。
俺はいつも1人で時計台の下にいるけれど、群れってそんなに大事なのだろうか。家族で支えあって生きている。人間様みたいに。
俺はもうすぐ死ぬと思うから、家族はいらない。だけど、あの人間にだけはもう一度会いたい。
その人間は歌うことを仕事にしてるらしい、けれど、声に不調をかかえているようなのだ。
ある日のこと、その人間に、
「お前は悔しくはないのかい?」
と、俺に言った。
俺は病をかかえてから、死ぬことばかり考えてきた。その日その日を何となく暮らしていた。
そんな同じ毎日の中で、鳩の群れからは外されるし、歩きにくいし、女はとられるし!
悔しいことだらけじゃないか。
みんなより先に死ぬなんて!
それが1番悔しいじゃないか!!
悔しい、悔しい、悔しい!
俺は、簡単に死ぬという事を軽はずみに見ていたのだろうか?諦めにも近い、大きな絶望の中で、俺はまだ生きてる。なのになんでっ………。
そう思った瞬間、あの人間は声を出しながらむせび泣いている。声が上手く出なくて泣いているのだろうか、一通り泣いたあと、涙に濡れた顔をこちらに向け、
「孤独の種だよ」
と、アーモンドを1粒置いて、公園から去っていってしまった。
孤独の種か。俺は誰にも見られずに死ぬ。
少しだけ勇気を出して、側で群れてる鳩に、話しかけてみようか?それとも孤独を選ぼうか、弱音を吐こうか、やめようか。
あの鳩たちは受け入れてくれるだろうか?
もはや、そんなものはどうでもいい。
あの人間にもう一度会いたい。
あの後、事態は好転しているのか知りたい。
俺は、この公園であの人間に再会するためにここにいようと思った。
生きる活力をくれたアーモンド。俺はこのアーモンドを特別な場所に置いてある。おそらく誰も知らないところ。
間に合ってくれ。
俺が死ぬ前に、また来てくれ。
あの人間に会えるまで、俺は死なない。
死ねない。
お願いだよ。俺の顔も何故か濡れていた。
そうして俺は視界が霞む中、むせび泣いたあの人間の顔を思い出した。
けれど、記憶の中はあの人間は、泣いたまま。
俺の意識は遠ざかっていった。
了
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