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Blackmagic Creator's Close Up #8 - 真鍋大度 【vol.1 学生時代から現在まで】 (1/3)



本連載は、映像業界の最先端で活躍するクリエイターの歩んできたストーリーや思考にフォーカスしインタビューする企画です。

今回は特別編として、5月下旬に2日間開催された『Blackmagic Night』にてグラミー賞受賞アーティストKnxwledge(ナレッジ)さんと初共演をされた真鍋大度さんに、当日の様子や制作に関すること、学生時代について伺いました。

プロフィール

真鍋大度(まなべ だいと)

1976年東京生まれ。アーティスト、プログラマー、コンポーザー、DJ、VJ、Rhizomatiks(ライゾマティクス)主宰。Studio Daito Manabe代表。テクノロジーとアートを融合させた作品を多数制作。坂本龍一、Bjork、Arca、Grimes、Nosaj Thing、Squarepusher、Machinedrum、サカナクション、Perfume、ELEVENPLAYを始めとしたあらゆるアーティストとの共同制作など、幅広いコラボレーション作品でも知られる。革新的なプロジェクトを手がけ、国内外で多数の賞を受賞。

父親がベーシスト、母親がキーボディストという音楽一家で育ち、90年代後半に大学時代を過ごした真鍋さんに、ライゾマティクス設立に至るまでのお話を伺いました。

自由に魅せられた音楽

― 大学生時代はどんな学生でしたか?

「表面上は数学科の学生でしたが、実質的にはレコードのバイヤーやDJ、バンド活動に没頭していました。特にHip Hopに傾倒し、音楽と数学という一見異なる分野を並行して探求していましたね。」

― 音楽は小さい頃から好きだったのですか?

「実は当初は違いました。厳しい先生についてピアノを習わされていたんです。上達が思うようにいかず、音楽にコンプレックスを抱いていました。しかし、高校1年生の頃にDJを始めたことで音楽の自由な側面を発見し、それが転機となりました。そこから楽しさを見出し、のめり込んでいきました。」

― 機材にも興味が?

「そうですね。サンプラーやドラムマシンなどの機材にも興味が湧き、テクノロジーと音楽の融合に魅了されていったんです。」

スタジオには音楽制作に使用する楽器や壁一面のレコードも

サラリーマン時代からライゾマティクス設立、現在へ

大学在学中はターンテーブリストとしてジャズバンドでも活動。その後は大手電気メーカーへ就職し、IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)へ進学しました。

― サラリーマン時代はどんなお仕事をされていましたか?

「マルチメディア開発部に所属し、主に防災システムの設計とシミュレーションに従事していました。具体的には、トンネルのカメラを遠隔操作するシステムの通信プロトコルの設計などを手がけました。今思えば地味な仕事でしたが、システム設計の基礎を学ぶ貴重な経験となりましたね。」

― IAMASへ進学した当時の背景をお聞かせください。

「ちょうど私が大学を卒業する頃、ラップトップを使用したオーディオビジュアルのライブシーンが盛り上がっていたんですよね。それに影響を受け、Maxというツールにどっぷりと浸かっていったんです。IAMASへの進学は、DJ用のシステムを開発したいという具体的な目標があったからです。このシステムのアイディアを卒業生の方に相談したところ、『そこまで明確にやりたいことがあるのであれば絶対に行った方が良い』背中を押してくれたのが決め手となりました。」

― 具体的にどのようなシステムですか?

「レコードの再生位置と進行方向、再生スピードを解析する信号を作り、その信号を解析してパソコン内のオーディオファイルをコントロール、スクラッチすることが出来るというシステムです。当時、ロータリーエンコーダーでレコードの動きを解析するシステムは存在していましたが、私はもっと簡単な方法があるのではないかと考えていたんです。

さらに、音だけでなく映像や照明もコントロールすることで、新しいオーディオビジュアルのパフォーマンスが可能になるのではないかと考え、入学と同時に開発を進めました。入学当時はSeratoのような市販のソフトもまだ登場していない時期だったので、先進的な取り組みだったと思います。卒業する頃には類似のソフトも出始めましたが、当時としては良い線を行っていましたね。」

― ライゾマティクスを始めたのはいつですか?

「2006年に、理科大の同級生2人とIAMASの後輩1人、そして私の4人で創業しました。当初のライゾマティクスは、主にバナーや企業のウェブサイト制作を手がけていました。しかし、各メンバーが異なる専門性を持ち寄ることで、多角的なアプローチが可能になりました。具体的には、齋藤が営業とCG、千葉がFlashとバックエンド、堀井がFlashとインタラクティブ映像、そして私が音楽制作とシステム開発を担当するという形で、それぞれの強みを活かした体制を構築しました。私と堀井は今でもやっていることは変わっていないですが、この多様な専門性の融合が、後のライゾマティクスの革新的なプロジェクトの基盤となったと考えています。」

ライゾマティクスは2006年に齋藤精一氏(左上)、千葉秀憲氏(左下)、堀井哲史氏(右下)と共に設立

最近の活動について

― 最近の活動についてお聞かせください。

「現在、ライゾマティクスは企業ではなくアーティストとして活動しています。最近の主な取り組みとしては、生成AI技術を活用した革新的な展覧会を開催しています(※1)。この展覧会では、既存の基盤モデルを使用せず、完全に自分たちのデータのみでAIモデルを構築し、画像生成を行いました。さらに、そのプロセスを可視化して展示するという新しい試みも行っています。

特筆すべきは、開発したAIモデル自体も販売しているという点です。このモデルには非常に自由度の高いライセンスを付与しており、一定のルールを守る限り、モデルの改変や商用利用も可能です。例えば、このAIモデルを使って絵葉書を作成し販売するといったことも許可されています。全く前例のない試みで自分たちも色々と学びながら取り組んでいます。

個人的な活動としては、オーディオビジュアルのライブパフォーマンスに力を入れています。最近では、Sónar FestivalやDekmantel Festivalなどヨーロッパの著名な音楽フェスティバル、そして世界各国で開催されているMUTEK Festivalなどに出演しました。これらのパフォーマンスでは、音楽と映像の両方を自ら制作し、様々な手法を駆使しながら、人間の身体性とAI技術を融合させた革新的なダンスパフォーマンスの創造に取り組んでいます。

また、7月にはPerfumeのアジアツアーに参加し、映像制作や技術面でのステージサポートを担当しました。さらに、8月から始まった彼女たちの展覧会 (※2) では、インスタレーションの制作を手がけています。この展覧会では私がディレクターを務め、ライゾマティクスのメンバーが実装を担当するという形で、チームの総合力を活かしたプロジェクトとなっています。

これらの多岐にわたる活動を通じて、テクノロジーとアートの融合、そしてその新しい可能性を追求し続けています。」

※1 Rhizomatiks Beyond Perception
※2 Perfume Disco-Graphy 25年の軌跡と奇跡

10月14日まで延長が決定したRhizomatiks Beyond Perception

アーティストとして感じるテクノロジーの進化

― この20年、アーティストとして感じるテクノロジーの進化はありますか?

「私の活動の中で、特に大きな進化を感じたのは二つあります。一つは機械学習を用いたリアルタイムの解析技術の向上、もう一つは生成AIの急速な発展ですね。

リアルタイムの解析技術については、例えば私たちのプロジェクト (※3) で実現したマーカーなしでフェンシングの剣先を追跡する技術などが挙げられます。これは従来の手法では困難だった課題を克服し、新しい表現の可能性を開いた革新的な進歩だと言えるでしょう。

そして、生成AIのここ3年間のインパクトはすごいですね。20年以上この分野に携わってきましたが、これほど大きなムーブメントが来るとは予想していませんでした。創作の概念自体を根本から覆す可能性を秘めていると思います。アーティストとしての役割や創造性の本質について、深い省察を促している気がしますね。」

※3 Fencing tracking and visualization system

― プラットフォームも大きく変化しています。

「現在は良くも悪くも、作品を即座に発表できる環境が整っています。また、情報やチュートリアルが豊富に存在し、誰でも簡単にアクセスできるようになりました。これは創作活動の民主化を促進する一方で、独自性や深みを追求することの重要性も高まっているように感じます。」

ー そんな変動の時代に最先端を走り続ける一方、真鍋さんは学生時代から一貫して音楽やテクノロジーに関わり続けているように感じました。現在、夢を追う世代に伝えたいことはありますか?

「私自身、昔から取り組んでいることの本質は変わっていません。音楽制作、数学、プログラミングから始まり、テクノロジーの進化やプラットフォームの変化に合わせて活動が次々に進化、変容してきました。

重要なのは継続することです。この20年はあっという間でしたが、続けていたからこそ今の自分があるのだと実感しています。チャンスはいつか必ず訪れます。だからこそ、続けることが大切なのです。

長期的な視点を持ちつつ、日々の努力を積み重ねることの重要性を強調したいですね。テクノロジーは急速に進化し、プラットフォームは変化し続けますが、基本となる情熱や探究心、そして継続する力は変わらず重要です。これらを持ち続けることで、どのような変化の時代でも、自分らしい道を切り開いていけると信じています。」

次の記事では、さまざまな分野で活躍をされている真鍋さんの制作活動について詳しくお話を伺いました。