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交通違反取締り ー 地面に叩きつけられた免許証 ー
一時不停止、赤信号無視、携帯電話使用、シートベルト義務違反・・・これらは警察官の視認という至極曖昧かつ不明瞭なものが証拠として採用されていることから、捕まった違反者が納得できないのも無理はない。と言っても停車を求められた時点で98%の違反者は自覚があるはずだ。警察官はよほど自覚があるであろうと思われる違反しか停めない。それは万が一冤罪であった場合に、最悪の場合は賠償請求に発展するおそれがあるからである(と、警察内部では言う人が多いけれども、ほんとにそういった判例があるのかはみんな頭悪いので知らない。)
わたしもそうだった。赤信号無視は赤信号に切り替わった瞬間に車の先端鼻面が停止線の上を掠めていれば停車を求めたことはないし、一時不停止だって完全に停まっていなくたって5キロくらいまで落として右左をしっかり見ている人は目を瞑る。逆に国〇議員に『おれは〇〇だけど知ってるか』とすごまれたって踏切前で停止しなったら違反切符を切るし、青のMTインプレッサSTIで140キロ出してたのを本気で追いかけて停車させたのが同級生のお父さんでも赤切符を交付する。警察官がみんな思ってることだが、やっちまったものはやっちまってるし停車させたが最後切符を切らなあかんというのもあると思う。
『(べしーん!!)拾え!!切符きりてーんだろ!!』
炎天下38℃猛暑日、汗だくでスピード違反取り締まりをしている殊勝なわたしの足元に、オンボロワゴンRに乗ったハゲたおっさんが窓から免許を叩きつける。(好きでやってんじゃないんだけどなあ・・・)なんて思いながら「すみません」と、なぜ自分が言わなければならないかすらわからない謝罪の言葉とともに免許を拾ってパトカーに戻り、免許の内容や違反事実を切符に記入する。
余談ではあるが、スピード違反で停められた場合は大人しく捕まるのがいい。他の違反と違うのは、出していたスピードが機械測定によって紙で明示されることだ。これは警察官の視認なんていうク〇曖昧なものではなく決定的証拠。調書を取られた後の簡易裁判になっても、違反者に勝ち目はまずない。嫌味を言う時間すらもったいないので、できるだけ短時間で終わるように警察官の指示に従うのが吉である。このハゲたおっさんはそんなことを知る由もなく、絶対にやってないだとか、どこに目つけてんだとか大声で怒鳴っている。絶対にろくなもんじゃない。
「ご職業は・・・?」
記入欄があるので聞くことにはなっている。明らかに嘘を言う人もいるがそれはだいたいの反応で警察官は嘘だと見抜けるものだ。
おっさん「県職。学校教員。」
ほーん、いまなんて?聞き返そうかと思ったが一応やめる。そうですかありがとうございますと返事をして記入。事実であれば世も末だが、わざわざそんな嘘をつく人もいないか。まあでも、お前から教わることなんてどうすれば将来ハゲないか、その対策くらいだ。
「押印かハンコがなければ手で捺印お願いできますか?」
(・・・ごねて押さないだの嫌だだの始まるだろうな。)
もちろんおっさんは断固拒否。指紋を何に使うつもりだまで言い出す始末。そんなことを言われたら逆にこっちは指紋をとられて不都合があるのかと余罪を疑ってしまうし、そうでないとしても、わたしにはおっさんの指紋を何かに使う性癖は無い。
結局おっさんは押印も指紋も押さずにペンでサインをするらしい。
もちろん判別できる文字で書かないのはそういう方々のお決まり。みんな同じように象形文字を書くのだから面白い。証拠にならないための精一杯の抵抗なのだろうが、内心失笑である。このおっさんも例に漏れることはなかった。
すったもんだの末におっさんから解放されたところでその日の取り締まりは終了。帰ったら県職員名簿でも見ながらほんとに学校の先生か調べてみないといけないな。そんなことを思った取り締まり道具の片付け中。
「あれ息子の担任・・・」
なぜだか帽子を深めにかぶって離れて見ていた上司が近づいてきてわたしたちに言った。息子さんが他の先生からちゃんした学校教育を受けていくことを、心からお祈り申し上げる。
警察官をしていると人の本性が見れる。見ているこっちとしては楽しいものからドン引きするものまで多種多様だが、警察官も人間なのであんまり酷い言葉を投げつけるのは勘弁願いたいものだ。(そうされて当然のやばい警察官が多数実在するのも事実ではあるけれども)
わたしが見覚えのある名前を聞いたのは次の年の春。
【N高校野球部監督、部員への暴力で懲戒。部員か の家族からは被害届を受理。】
免許を叩きつけられて傷ついたわたしの心への傷害罪もこれにて相殺。因果応報とはこのことであったか。
この物語はふぃくしょんです。