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余部橋梁物語 第39話

> さとし、少しは理解できたようでしたが。それでもまだまだよく理解できていないそんな感じでした。
>  そんなおり、初老の男性が猫尾に声をかけたのでした。
> その、内容とは。

「おはようございます、ここに何が出来るのですか?」

初老の男性は、猫尾に声をかけます。年のころは50過ぎと言ったところでしょうか、地元の人ではなさそうです。

グレーのスーツをきたシルバーグレイという言葉がぴったりする男性でした。

こんな田舎に不似合いな・・・そう猫尾は思ったのですが・・・実は福知山鉄道管理局から視察に来ていたのです。

彼は、福知山鉄道管理局の施設部建築課の係長でした。

ここに駅が設置することにたいする実質的な責任者でした、仮にK係長としておきましょう。

K係長は若い頃から現場第一主義を貫いてきた人で、「迷った時は現場に聞け」が口癖でした。

家庭の事情で中学校を卒業後国鉄の保線区を振り出しに苦労をしながら管理局の係員に登りつめた苦労人でした。

「現場に全ての答えがある」が口癖で、定年をあと1年といいまとなってもこうして工事が始まると真っ先に現場を視察してその問題点などを探るのでした。

そこには、自分が出世するための足がかりにしてやろうといった欲等は全くなくて、ただひたすら「国鉄のため」という愚直という言葉がぴったりの職員だったのです。

猫尾は、いきなり声をかけられたので、何を言っていいのか・・・いつもの癖で

どもりながら、

「こ、こ、ここに駅を作るんだ、お、おお、俺たちの、いや、わ、わ、わたした、私たちの駅を、つ、つ、つくるのです。」

猫尾も緊張しているのでしょう、いつも以上にどもってしまいます。

K係長は、ニコニコしながら

「ここに駅が出来たら、便利になりますか?」

と問いかけました。

「そ、そ、それは、べ、べんりに、な、な、なるでしょう。」

日ごろは職人と、気軽に喋れるのですが、相手がどんな人かわからないだけに猫尾はカチンカチンに緊張していました。

K係長は

「そうですか、今まではどうされていたのですか?」

穏やかな顔で再び話しかけます。そして一言、

「気楽に話してくださいね」という言葉をかけるを忘れませんでした。

猫尾は、その言葉に救われたのか、少しぶっきらぼうな感じで話を始めます。

「今までは、せ、線路を渡って、隣の駅までいっていた。」

K係長は驚いて聞き返します。

「線路を歩くということは?鉄橋の上を歩くということですか?」

 「そうだ、鉄橋を歩いて、駅に行ったりしている。」

 「時々、接触事故で亡くなったり、けがをした住民もいるさ」

 「でも。地元ではそれも仕方のないことと、あきらめていた。」

そこまで聞いて、K係長が言葉をさえぎるように聞きます。

「そんなご苦労を・・・」

 猫尾は、頷くとまた話を続けるのでした。

 「俺も、ここに駅が出来ると親方から聞かされたときはにわかに信じられなかった。」

 「でも、こうして工事が始まったわけで、俺たちが作る駅がみんなの役に立つと思うと嬉しい」

猫尾は、自分の思う丈を初対面のK係長にぶつけるのでした。

K係長は深く頷くと、深々と頭を下げて

「良いお話聞かせていただき、ありがとうございました。」

それを見た猫尾は、はっとわれに返り。

 「し、失礼な、は、話し方、ゆ、ゆるして。く、く。くだせぃ・・・。」

相手の丁寧な態度に恐縮してしまった猫尾はまたまた、緊張してしまって上手く喋れません。(^^ゞ

さて、この後のお話はどうなっていくのでしょうか。

K係長は今後どのような采配をするのでしょうか、そして猫尾たちの工事の進捗は・・・いよいよオリジナル編スタートです。

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