餘部橋梁物語 第28話 財布再び・・・。
さて、前回は猫尾がうとうとと河原で眠ってしまうところで終わっていましたよね。
>ふーん、ここに駅が出来たらここから汽車に乗れるのか。
>猫尾は独り言を言いながら、つい春の陽気とお腹がいっぱいになったことで、ついうとうと始めたのです。
>「いかん、我慢できん。少し寝ることにしよう。」
>おやおや、猫尾は橋梁下の河口付近で寝てしまいましたが・・・・財布大丈夫ですか?
>上着のポケットに無用心に入れた財布は?そして女将との恋の行方は?
猫尾は、春の陽気に誘われて眠ってしまいました、すやすやと軽い寝息すら立てています。
しかし、餘部の集落は三方を山に囲まれていますので日が暮れるのも早いのです。
3時すぎになると、日は山陰に隠れてしまい少し肌寒くなって着ます。
「おっちゃん、おっちゃん、こんなところで寝ていると風邪ひくよ。」
近くに住む小学生の男の子が声をかけるのでした、
「いかん、寝てしまったみたいだ。坊主ありがとよ。」
猫尾は、スクッと起き上がると大きく欠伸をして、それから少し体をねじっったあとは、弁当箱を大事そうに抱えて自転車の方に歩いていくのでした。
しばらくすると、後ろの方から、先ほどの子供が呼んでいます。
「おっちゃん、おっちゃん、・・・」
「坊主、何か妖怪、じゃなかった、用事でもあるんか?」
少し、不機嫌そうに猫尾は答えます。
子供は少し困惑した表情で、小さい声で、「財布・・・」と言ったのです。
「坊主、小遣いが欲しいんか?」
「ちぇ、仕方ないなぁ。」
猫尾は、上着のポケットの手を入れるのですが、少し赤らめた顔がだんだん青くなっていきます。
さらに、上着の内ポケット、ズボンと探しています。
そんなとき、子供が再び小さな声で
「おっちゃん、財布落としてるよ。・・・河原の下に。」
猫尾は、はっとしました。きっと先ほど起き上がった時か、寝ている間に抜け出したのでしょう。
青くなっていた顔は、今度は恥ずかしさから赤くなっていきます。
まるで柿の実が熟すようです。でも、この柿は甘柿ではないのでしょう。
だって、渋そうな顔をしていましたから。
等と冗談はさておき、猫尾は慌てて、河原に走り財布を取ってきたのでした。
幸い、財布の中身はそのままだったので少しほっとしました。
猫尾が、先ほどの場所に戻ってくると少年は少しおびえたような表情で猫尾を見ていました。
「坊主、ありがとよ。少ないけど小遣いだ。」
猫尾は、財布から10円札を取り出すと子供に渡したのです。
少年は、怒られるのかと思ったら、小遣いをもらえてとっても嬉しそうです。
「おっちゃん、ありがとう。」
「おう、いいってことよ。それより坊主、今度ここの橋のたもとに駅が出来るんだ。お父ちゃんやお母ちゃんに教えてやんな。」
猫尾は少年に話しかけるのでした、しかし、素の言葉を聞くと少年の顔は少し曇ってしまいました。
「お父ちゃんは、死んだ。汽車に轢かれて。」
この少年のお父さんもまた、駅が無かったことによる犠牲者の一人だったのです。
「そうか、ごめんよ。嫌なこと思い出させてしまって。」
猫尾は少し申し訳なさそうに、それでいて。来週から基礎の工事が始まるのだからもう一踏ん張りして人を集めなくてはそう思ったのでした。
お天道様は、すでに山をこえています、後一時間もすればすっかり暗くなることでしょう。
猫尾は、少年にもう一度、「お母ちゃんを大切にな」
そう言い残して、自転車に颯爽と乗って女将の元に走って行きました。
さて、次回からいよいよ工事編が始まります。こうご期待
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