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余部橋梁物語 小さな町長恐縮する。

皆様こんばんは、今日もしばしおつきあいくださいませ。
今日から本格的なお話に入っていけるかな、ということで第5話目がスタートです。

> 流石に、知事もお疲れのようです。

> さて、役場の町職員、議員、そして町長が出迎えるのでした。

前回は、車で香住町に向かった知事と秘書の一行が香住町役場に到着したところで終わっていました。

知事を乗せたクラウンは、静かに玄関の前に横付けされました、運転手は車を停止させると急いで後部座席の知事が乗るドアを開けるため小走りに走るのでした。

運転手は、知事の乗車する後部座席のドアを開けると、「ご苦労」

軽く、それでいて短く、運転手に言葉をかけるのでした、

知事が車から出てきたのを認めた町長は、走りより

「遠路はるばるご苦労様でございます、どうぞこちらにお越しください。」

町長は、緊張してコチコチになって、見ている町役場の職員さんから見ても気の毒でした。

町長は、さほど広くない庁舎の一番奥にある、町長の執務室に先導するのでした。

兵庫県庁の知事室と比べるべくもない質素なつくりの執務室には、歴代の町長の写真が飾られている他は、特段これと言って目を引くものはありませんでした。

 町長と知事、そして秘書の3人は執務室の応接セットに座ってしばらくすると、香住町役場の助役が入ってきました。

 町長にすれば緊張が最も高まる瞬間です。

恐る恐る、町長が口を開きました。

「本日は、遠路はるばる興し頂き誠にありがとうございます。当方に何か間違いでも有ったのでしょうか。」

今回のきちんとした訪問目的を聞かされていなかった役場では、大混乱になっていたのでした。知事が来るというだけでも大変なことなのに、特に目的を告げられていないだけに小さな町は大混乱。

 経理部は予算の執行に問題がないか過去数年を調べたり、資材部にあっては、資材のごまかしがないのか・・・実際に知事がそんあことまで見てるわけないんですけどね。

知事と同行していた秘書が、今回の訪問の目的を話し始めました。

「今回、訪問したの目的は、餘部の集落に住む子どもからの手紙が知事宛てに届いたのです。そこで、知事は国鉄本社に陳情に上がる前にその状況等を知りたいと思ったので、足を運んだのです。」

「特に冬場の状況などを詳しく教えていただきたい」

町長は、体から力が抜けていくのを感じながら、わざわざそのために来てくれたのかという感動と、特に問題があったわけではないという安堵の気持ちから、すこしホッとしたのです。

町長は、助役に命じて、集落の地図を持ってこさせると。

「本当にありがとうございます、当香住町は、冬場は日本海から吹く雪で1m以上の積雪があります、特に余部の集落は三方を山、もう一方は海となっており、特に冬場は日本海から山間部に吹く風が大変強いのが特徴です。」

「確かに余部の集落の人間にすれば、汽車に乗るためには、山越えをするよりも、余部の橋を渡って鎧の駅まで、線路沿いに歩く人がめっきり多いと聞いています。

 地元の人は慣れているといいますが、やはりあの高さですし、本来は列車が通る橋ですから、人が通るには危険だと思います。実際に年に何人かは事故でケガをしたり死亡したりしています。」

知事にしてみれば、子どもが書いた手紙にウソはないと信じていましたが、改めて地元の首長の口から聞いたことで、ここまで来た甲斐があったというものだ。

そんな、満足感に浸っているのでした。

「ありがとう、よくわかりました。餘部の集落に行って見たいので案内してもらえますか。」

町長にしてみれば、まさかまさかの展開に少し驚きを隠せませんでした。

まさか、知事自らが視察に行くとは思ってもいませんでしたから。

知事は、秘書に命じて車を出すように伝えるとともに、町長に案内してもらうように依頼するのでした。

「町長、私と一緒に車に乗って餘部の集落を案内してください。」

町長は恐縮至極、小さくなってしまって、元々小さい町長が見えなくなってしまいました・・・冗談です。

役場の外に出ると、クラウンは先ほどの泥トンカラーはどこへやら、綺麗に泥を洗い流し黒く光っています。

助役と町会議員が見送るなか、車は餘部の集落に向かって走り出したのでした。

さて、同乗することになった町長はどんな様子でしょうかって?

町長はそれこそ緊張がピークではないかと言うほどカチカチになっていましたよ。

この様子は、また明日以降にでもお話できることでしょう。


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