餘部橋梁物語 第38話
> 「猫、お前も居たのか、今日は俺の奢りだから飲め、女将熱燗を猫にも付けてやってくれ。」
> 先ほどの甘い雰囲気はどこへやら、もうすっかり、お店は大衆酒場のその雰囲気になってしまいました。
> いやはや、あと一息でいい雰囲気だったのに
せっかくの甘い雰囲気は、無粋な親方の一言で台無しに、猫尾は、早々と退散しようとしたのですが、親方に止められてしまいました。
猫尾にとっては、先輩ですのであまり無下にも出来ません。
早く帰りたいという気持ちとは裏腹に時間だけが空しく過ぎていきます。
「親方、今日はこの辺で止めておきませんか?」
「なに?、まだ呑み足らんわ。しかし、時間も時間だしなぁ。」
時計は既に10時を回ろうとしています。
田舎の人は大概早起きです、その代わりみんな9時を過ぎれば早々と寝てしまう人の方が多いのです。
「女将、勘定いくらだ、猫の分も一緒でいいや。」
親方は、無造作にポケットからクシャクシャになった紙幣を何枚か取り出して女将に渡すのでした。
「猫、明日からは本格的な工事になるからな。」
「へぃ、了解だ。」
そう、明日からは本格的に土木工事が始まるのです。まだ若干ですが、草引きや整地がありますが、取り合えず、駅を作るための切通を作る作業が明日から始まるのです。
明けて、翌日。気温は7℃と春にしては寒さを感じる朝です。
人夫たちは三三五五に、時間までにはやって来ました。
さとしの姿も見えます、相変わらずいやいや仕事に来た、そんな風情が見受けられました。
猫尾は、さとしの姿を見かけると、「おはよう、さとし」
明るく声をかけるのでした。
「おはようございます、おやかた。」
さとしの声には少しも元気がありません、猫尾は少しむっとなりながらも、さとしに再び声をかけるのでした。
「さとしよ、お前が前に言っていたことあったよな、俺は何のために働くんだろうって。」
「さとしよ、俺たちの仕事は、記録に残らないわな、それに仕事は単純な作業かもしれない。でも、俺たちはみんなの記憶に残る仕事をしているんだ。違うか?」
じっと黙っていたさとしですが。やがて重い口を開くと「たしかに、俺たちの仕事は単純な作業じゃないですか。でも記憶に残る仕事って?何ですか。」
「さとしよ、俺たちが実際に作業しなかったら誰がこの橋をかけたんだ、そして今まさのこの駅を作っているんだ。」
「少なくとも、俺たちのことは忘れ去られてしまうだろう、しかし、駅を作ったという事実は残る、そして、それを作ったお俺たちのことは、住民の記憶に残るのだ。」
さとし少しは理解できたようでしたが。それでもまだまだよく理解できていないそんな感じでした。
そんなおり、初老の男性が猫尾に声をかけたのでした。
その、内容とは。
こうご期待
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