餘部橋梁物語 第37夜 猫尾と女将再び・・・(^-^;
> 自分が探していた言葉のピースが見つかった喜びを胸に、猫尾は自転車に乗りいつもの女将の店に向かうのでした。
猫尾の乗った自転車は、快調に風を切って走っていきます。
まるで自転車に羽が生えたように、軽やかに進んでいきます。
昨日の、自転車に2tの重しがついてるのではないかと思わせる程重かったのに・・・。
店の前につくと猫尾は、「女将、いるか?」
いつもになく、陽気な猫尾がいました。
「どうしたの、今日は嫌に機嫌がいいのね。あす、雨が降らないと良いけど。(笑)」
「なにをいってるんだ、俺はいつでもこんなだぜ。」
「うそ、おっしゃい。いつもは、沈んでいるくせに。」
「そ、そんなことないさ。き、きっと何かの、ま、間違いだろう。」
猫尾は核心を突かれるとどもる癖があったのです。
女将は、それを知っていましたので更にからかってやろうと、意地悪な質問をぶつけるのでした。
「あらあら、顔に書いてるわよ。今日はいいことあったって、さては好い人が出来たとか?」
「そ、そ、そんなわけない、そんなわけ・・・。」
「お、お、俺は、お、お、おか・・・・・・・。」
何か言ったみたいですが、最後の方は声が小さくなって殆ど聞き取れませんでした。
猫尾はなんて言ったかって?
猫尾は、皆さんにだけそっと教えて起きますね。
猫尾は、「お、お、俺は、女将がすきなんだ。」
でも、女将は知っていました。その雰囲気から内容は概ね知っていました。
だって、猫尾の顔は、それを言ったあと顔を真っ赤にしてそのまま下を向いてしまったのですから。
女将にしても、好きと言われて嫌でありませんでしたと言うか、女将もほのかに猫尾に対して好意を持っていたのですから。
女将は、ふざけてはいけないと思い。
「猫さん、今日は何か言いことがあったの?機嫌が良かったけど。」
女将は、言葉を選びながら話しかけるのでした。
「ああ、実は俺の雇ってる若い奴がこんなこと言ってたのさ。」
「俺は、何のために働くんですか。」
「そんなことがあったの、そう言われて見ればそうよね。何のために働いているの?なんて言われたら困るわよね。」
女将も頷きます。
「俺だって、そんなこと考えたことなかったから戸惑ってしまってな、それが今日偶然だけど、子供に教えられたんだよ。」
「きっと、おじさんたちの仕事が人の役に立つ仕事なんだろうな。」
「それを聞いて、はっと思ったんだよ。俺たちの仕事は、名前が残るわけでもなんでもない、でも俺たちが働かなかったら、何も出来ない。少なくとも俺たちの仕事は人の役に立っているはずだって。」
猫尾は、いつになく雄弁でした。女将も黙って聞いています。
そしてしばしの沈黙が流れます。
どちらからともなく、寄り添って良い雰囲気になったとき。
「ガラガラ」 荒っぽくドアの開く音がします。
「女将、いるか。仲間連れてきたから酒出してくれ、今日から仕事が入ったから今日はしこたま飲むぞ。」
猫尾と同じく餘部駅の建設に参加している別の親方でした。
猫尾の姿を見ると、親方は
「猫、お前も居たのか、今日は俺の奢りだから飲め、女将熱燗を猫にも付けてやってくれ。」
先ほどの甘い雰囲気はどこへやら、もうすっかり、お店は大衆酒場のその雰囲気になってしまいました。
いやはや、あと一息でいい雰囲気だったのに・・・・気の毒な猫尾と女将の恋の行方はどうなるのでしょうか?そして、餘部橋梁の進捗は。
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