現役獣医師が「動物のお医者さん」に全話マジレスする 第1巻
「動物のお医者さん」、知っていますか?
佐々木倫子さんによる獣医学部の学生の生活を描いた伝説的獣医コミックです。
当時、このマンガがヒットしたおかげで、大学の獣医学部の女性志望者数と倍率が飛躍的に上昇して、また、シベリアンハスキーのブームを引き起こしたりもしました。
言い忘れましたが、僕は現役の獣医師です。
このマンガのヒットの少しあとに大学の獣医学部に入って(おかげで高倍率化の煽りをくって)、このマンガと(少し)同じような学生生活を送りましした。
当時から「動物のお医者さん」は擦り切れるほど読んでいました。
そりゃもう教科書よりも何度も読んでいました(だから成績はとても悪かった。教授ごめんなさい)。
今回(2024年)、新装版「動物のお医者さん」が小学館から刊行されたことだし、現役獣医師の僕が、(だいたい)獣医師目線で、全話にマジレスを加えることにします。
↑前置き / ↓本題
<第1話>
のっけから家畜解剖の描写が出てくる。
1コマ目に解剖棟の建物に書かれていて、その隣の建物の屋根に煙突が見える。大抵、解剖棟には焼却炉が隣接されてるから、隣の建物は焼却炉なのだろうか。屋根がずいぶん高いことを考慮すると、牛とか馬とかの大型家畜にも対応した自然式の焼却炉だろう。
4ページ先、ハムテルとチョビの出会うシーンの背景に畜魂碑が描かれている。
僕は去年、北海道大学の獣学部を訪れたけど、確かに畜魂碑はわりと、人が通りやすいところに目につくように建っていた。
<第2話>
子供の頃のハムテルが自分の便と偽って、道に落ちていた野良犬の糞を持って行ったところ、「人間には出ないはずの寄生虫があらわれて検査の人がパニックに〜」とある。
野良犬に普通にいるであろう犬回虫は、人の回虫卵とそれほど区別はつなないだろうから、鉤虫とか、マンソン裂頭条虫とかだろうか。
<第3話>
チョビに点滴を刺すとき、留置針とかじゃなくて普通の注射針を刺しているように見えるけど、1980年代はそんな感じだったのだろうか。
<第4話>
スナネズミに遭遇して仮死状態になった二階堂だけど、しっかりミケの前足を保定している。68ページの最後のコマの、猫の前足の保定方法はとても正しい。62ページでおばあさんが割といい加減な保定をしているのとは、大違い。
<第5話>
このころは豚コレラといって、北海道でも予防接種をしていたのですね。
現在では正しい病名は豚熱、本日現在、北海道はワクチンを接種していない地域です。
<第6話>
よく見たら、菱沼さんもずいぶん適当な猫の抱き方をしている。獣医なのに。
<第7話>
発咳は犬フィラリア症の初期症状。咳をみただけでフィラリア症を疑った清原くんは正しい。卵酒飲ませようとするハムテルよりもずいぶん勉強していたのかも。
<第8話>
H大学は牛の直腸検査を右手でやるのですね。僕は東北地方の私立大学の出身だけど、左手でやるようにならいました。不測の事故が起きた時に、利き手が活かせるように、だとか。
<第9話>
第2話で「10年飼ってる」といっている西根家のヒヨちゃんといい、当話で2年前から成鶏の様子の隣の高田さん家のケンさんとキョウさんといい、ずいぶんご長寿なニワトリたちである。
<第10話>
二階堂くんがコピーしてる資料に「家畜外科診療」と書いてあるけど、ずいぶんカリキュラムの進みがはやいね。このとき学部3年生じゃない?
<第11話>
直検手袋って脱ぐのはすぐだけど、1回脱いだ手袋を再装着するのって、ごわごわして気持ち悪いです。
つづく(↓第2巻の記事はこちら↓)