<第8巻>「動物のお医者さん」に現役獣医師が全話マジレスする話
佐々木倫子さん「動物のお医者さん」に、現役獣医師の僕が1話1話にツッコミ、、、、感想をするシリーズです。
第8巻では、ハムテルくんたちは卒業間近になってます。
<第72話>
親戚により菱沼さんの幼少期の思い出がほじくり返されたきっかけで明かされる、チョビの出生直後の話。
この話では、生後2日目に漆原教授に持ち込まれて、目が開く頃までが描かれている。大型犬の子犬の目が開くのは大体生後2週間くらい。
乳母犬のリリーちゃんは、1週間以上も自分よりも大きな子犬に授乳していたわけだ。
そりゃ実家にも帰りたくなるわけである。
あと、冒頭で幼き菱沼さんがコスプレ(?)していた「ハリマオ」というのは、1960年に放送されていた「怪傑ハリマオ」のことである。
「月光仮面」(これも古い)の流れを組む覆面ヒーローで、当時の子供たちに大人気だった(らしい、知らんけど)。
<第73話>
引き続きチョビの幼少期話。
乳母犬を卒業し、離乳食になってからだから、せいぜい生後3〜4週齢目だと思う(つまり1ヶ月間にわたり、漆原教授は子犬の世話にかかり切りだったわけだ。大学業務の停滞が本気で心配される)。
(義理の)兄弟犬に負けて離乳食を食べ損なうチョビだけど、多頭飼いしているときは、全てのご飯を同時にドン!と置くのが基本だ。
僕も学生時代にひとつひとつ置いてしまって、一つの皿に何頭も殺到してしまったことがある(もっとも、これは「待て」ができない躾不足も原因だと思うけど)。
<第74話>
大学構内の交通治安をめぐる漆原教授と不良高校生と大学総務課の三つ巴の戦い(というほどでもないけど)。
怖い犬→牛に舐められる→をへて、最終的に牛フン攻撃を加えられる高校生たち。
漆原教授も「最終手段」といっているように、強力な攻撃になることはわかっているけど、一方で、意外と教授はそこまで深刻なことだと思っていないかもしれない。
獣医師たちは、牛フンに耐性がついている。
特に臭いに対しては完全に感覚が麻痺していて、例えば1日牛に接して、髪の毛に牛フンの匂いが染み付いていても、まったく気が付かず車にのって帰宅できるくらいだ(自分の経験を含む)。
頭から牛フンを被った不良少年たちに、無自覚なトラウマを与えてしまっているかもしれない。
ところで、大学構内に「ロバパン」と描かれたトラックが走っている描写がある。
「ロバパン」は北海道限定の老舗パンメーカーである。
現在は、フジパンと業務提携しているけど、山崎製パンの「ランチパック」によく似たコンセプトの「スナックサンド」を開発したメーカです(実は、スナックサンドのほうが先)。
個人的には、ランチパックよりもおかずパンのラインナップがスナックサンドのほうが多くて、応援しています。
<第75話>
チョビの海水浴回。
札幌市内から免許取り立てのハムテルくんたちが車でいけるところ、となると、銭函か石狩の海水浴場だと思う。つまり、日本海側であって、太平洋側にあるであろう憧れのリゾート的な海水浴場とは、ちょっと違ってくると思う。
初めての海に戸惑うチョビに、二階堂くんは「そんなんじゃ立派な海難救助犬になれないぞ」と叱咤(?)する。
でもハスキーはもともとそんなに泳ぎが得意じゃないし、海難救助犬(厳密には水難救助犬)には向いてないと思う。
↓水難救助犬に向いている犬種
ハスキーが向いているのはソリとか、あとシベリアなんかでは狩りのお供に使われるみたいだし、ハムテルくんたちの妄想するラインナップのなかでは「熊に襲われるのを助けてもらう」が一番可能性が高いかもしれない。
<第76話>◀︎今回のイチオシ
毛刈りの窓の時間。
超音波診断で大型犬の毛刈りの目測を誤ったハムテルくんは、マッチ箱サイズのはずの毛刈りがパスポートサイズになってしまう。
いまいち診断ができないハムテルくんに、漆原教授は「心の目でみろ」と指導をする。
これ、冗談でもなんでもなくて「よく聞くワード」のひとつである。
個人的なことを言うと、僕は超音波診断に限らず画像診断(顕微鏡像とかX線診断)全般がとにかく苦手だったから、よく「心の目」に頼った。意外と真実が見えてくるものである。
ところで(臨床経験の乏しい)獣医師としての純粋な疑問なんだけど、超音波診断像に描出されないのに、血尿を引き起こす腎出血、ってありえるのだろうか?
漆原教授は「腎臓のあたりを何かぶつけた」と言ってるけど、血尿になるほど強くぶつけたなら、それこそ毛刈りしたのだから、その辺に外傷が見られると思う。
個人的に疑うのは、腎臓じゃなくて、膀胱の炎症だ。
ナツコ嬢には、抗生物質と抗炎症剤と止血剤の処方がされていてほしい。
<第77話>
菱沼さん(と神谷さん)が博士論文執筆に励む回。
冒頭で菱沼さんが博士論文を落っことす際に誦じているのは、森本誠一「人間の証明」の一節である。
海外の学術雑誌に論文を送った菱沼さんと神矢さんだけど、神矢さんのほうが「レベルの高い雑誌」に送ったようだ。
ここでいう「レベル」とは、影響度指標(インパクトファクター)で示されるものだ。
これは、「過去2年間で、その雑誌に掲載された論文が、どれだけ他の文献に引用されたか」を示すもので、他の文献に引用される(参考文献として利用される)回数が多い=レベルが高い、という考えに基づいているものだ。
雑誌のレベルが高いということは、それだけ査読(雑誌に掲載するべきかの審査)も高いということである。
例えば研究者が准教授→教授なんかにレベルアップする際も、インパクトファクターの高い雑誌に掲載された回数が多いほど、高い評価につながる。
もっとも、菱沼さんたちが課程博士を取る際の基準は、論文3本の査読付き雑誌への掲載のようで、雑誌のレベルは問われないようだ。
(よくわからなかったのだけど、どうやら)現在の北海道大学獣医学院の基準もそのようになっている。
だからこそ、神矢さんの「やなやつ」感が際立っているのである。
<第78話>
おばあさんの知り合いのインコをあずかる回。
(インコの生体について大学で学んだ記憶はないのだけど)インコの「吐き戻し」はよくある行動のようだ。
Merck Veterinaly Manualを見ると、「ペットの鳥の吐き戻しの鑑別」の項に、消化管の炎症とか、細菌による感染とかと並んで「求愛行動」が掲載されている。
から、漆原教授やハムテルくんたちの診断も、検討はずれというわけではない(けど、クラミジアは下痢はしても嘔吐はしない)
もっとも、ペットの鳥は、大学で勉強したことない割に、社会に出てから遭遇することが結構あって、僕も慌てて教科書(というか、鳥の飼育の参考書)を買って自習することになる。
それでも知識が足りないから、インコに突かれたり、九官鳥の爪で腕を掴まれたり、とか、(自分が)血まみれになりながら相手をした記憶ばかりである。
<第79話>
定期的にある菱沼さんと猫たちの交流を描く回。
野良猫だと思ってた菱沼さんの(心の)ライバルであるハナちゃんも、(一方的な)友達であるニャオンも、実は飼い猫であったことが判明する。
そもそもだけど、北海道は野良猫の数が少ない。これは、単純に、冬の寒さを乗り越えられないから、と言われている。
単純比較はできない統計だけど、環境省の全国を対象とした統計では、保健所に寄せられる猫に対する苦情のうち、野良猫に起因するものは20%くらい。それに対して、札幌市の調査では12%くらいだった。
それだけ野良猫が少ない、ということかもしれない。
だから、数年にわたって菱沼さん宅に姿を見せるニャオンもハナちゃんも、飼い猫だった可能性のほうが高かったわけだ。
ひとつ念のために言っておくと、飼い猫でも、完全部屋飼いの猫と、外飼いの猫では、外飼いの猫の方が平均寿命が3年くらい短い。
これは、外飼いでは交通事故にあいやすいのと、猫エイズ(通称)などの感染症にあいやすいから、と言われている。
だからといって、室内飼いの猫の方が幸せか、となるかもしれないけど、僕はそう断言できない。
たしかに、飼い主にとっては、より長い期間猫と一緒にいられるのは幸せなことかもしれない。
でも、刺激の少ない部屋に閉じ込められて生活するのと、外で遊ぶことのできる生活では、どちらが猫にとって幸せなのだろうか、と僕は個人的にはいつも考えている。
(ひょっとしたら、猫にとっては、どちらもどうでもいいことなのかもしれないけど)
<第80話>
研究室に出現したネズミと、二階堂くんの壮絶な戦いを描く話。
今回登場したのはドブネズミのようだ。
札幌市の保健所のサイトによると、ドブネズミはハツカネズミの3倍近くでかくて、より活動的らしい。
いやいやながらも積極的な攻撃を展開する二階堂くんに対して、ハムテルくんは、以前(第6巻)の経験をもとに、ハエトリ紙作戦を展開する。
さっきの保健所でも、対策の筆頭に粘着シートが挙げられているし、ドブネズミにもハエトリ紙作戦は有効なようだ。
作中では、「ネズミ対策は猫の効果はない」と言っている。
でも、僕の経験では、例えば牧場なんかで猫を飼い始めると、急にネズミを見かけなくなったりする。
捕食スピードというよりも、猫の存在を警戒して、姿を見せなくなるのだと思う。
二階堂くんは「最後の手段(ネコ)も封じられた」と言っているけど、いっそミケとかその辺の猫とかを放し飼いにすることは、けっこう有効だったかもしれない。
以上です。
次回(第9巻)に続きます。