Singapore pt.1俺のモラトリアムの始発駅
モラトリアム=人生における執行猶予
みんな元気?
今年、数年勤めた会社を辞めた。
目標を成し得た瞬間、心の中にある細くて一番綺麗なワイヤーが完全に切れた気がした。
次の仕事も決まっていない状況もあったので、退職まで数ヶ月上司と揉めた。
最終的にはお互いの主張と提案が論理を欠いたように幼稚なものであったが、
俺はこう見えて人事のエキスパートなのだ。そういう仕事をしていたので自分の主張を法の面から我を通した形で退職した。
パンクの精神を提唱する人間であったのに、法を印籠にする自分にものすごい皮肉を感じたのを記憶している。
最後の出張の日、俺はビジネスホテルで全裸で大の字でガラムを吸った。
渡辺貞夫のアルバムを聴きながら。
昔から属するのが苦手だった。
いつか消えますようにこの低気圧のような倦怠感が。
高校の頃、ブックオフで買った『深夜特急』という小説が好きだった。
お金がなくても旅行ってできるんだとシンプルに背中を押された。
孤高で無職の文学、人と人の一期一会。
事前情報もなしに、土地土地の人との交流で宿泊するところ、行き先が決まる、こういう肝の座った、
割り切りをすることで生命力が磨かれる気がした。俺は自分の執行猶予を得る。
欧米のアートスケイプを巡るのもいいなと考えたが、もともと俺の地元にたくさんの人が来ていてカルチャーが面白そうなインディアや、
「恋する惑星」みたいな映画の世界観が好きな香港もいいし、
昔、母がタイが世界で一番楽しいところだと言っていたのも思い出したので何週間かかけてアジア適当に回ろうと決める。
もう行き慣れた成田空港。前日にとったチケットだったがzipair、リーズナブルでいいエアラインのようだ、YouTuberが言っていた。
シンガへの入国プロセスを何もやっていなかった俺は、機内でWi-Fiがなければ詰んでいた。
俺は近く頼れる人がいると何もできないんだな。
手の中にあるのは高校の時から着ている汚いパーカー、
見慣れた数枚のフクザワユキチと12のミニとかいう世界で最もスマートな武器。
飛行機のテイクオフに比例する高揚感。
心は静かに定まった。
もう何とかなる気しかしない。別に数日宿がなくてもいい。もともとホームレスだから。
シンガポールチャンギ空港
ディズニーランドのような、ららぽーとのような、旅情と陽に満ちている。
深夜に到着した。明日何しよう。
俺は四年前よろしく空港で横になった。
シンガポール ラブ
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