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天皇賞・春「公正競馬」揺るがしたタイトルホルダーの競走中止! アフリカンゴールドにも飛び火、「平場だったら……」安藤勝己氏も意味深コメント

 2年半の沈黙を破り、センテニアル・パークとして生まれ変わった淀の長丁場に17頭の精鋭が集結した春の天皇賞。新装京都の記念すべき初回のG1ということもあり、入場制限もされた中、大勢のファンが駆け付けた。

 レースを制したのは、C.ルメールが騎乗した4歳馬ジャスティンパレス。前走の阪神大賞典(G2)でも好相性をアピールした新コンビは、道中の折り合いやソツのない進路取りでも他馬をリードした。

 道中は外にいるディープボンドを見ながら内目をロスなく運び、先行勢にも目を配ってアフリカンゴールドの失速にも巻き込まれずにパス。向こう正面から外をスムーズに進出すると、最後の直線では残り300m辺りで先頭に踊り出る。追い出してからも内と外をチェックする余裕もJRAが公表したジョッキーカメラの映像に収められていた。

 ゴール後に「イェス」の一言を残した名手は、これでフィエールマン(2019年、20年)に続く春の天皇賞3勝目をゲット。「長距離は騎手で買え」という競馬の格言通り、最初から最後までパーフェクトな騎乗だった。

「すごく嬉しいです。直線に向いてからこれは勝てると思いました。ずっと冷静に走ってくれましたので、ディープボンドの後ろで徐々にポジションを上げて、最後直線ではエンジョイしていました。

今日はお客様も多く関係者はみんな喜んでいました。今回長距離でスーパーホースになりました。この後はどのような路線かはまだわかりませんが、2500mの有馬記念でも大丈夫だと思います」

 会心の騎乗をそう振り返ったフランス人ジョッキーの視線は、早くも暮れの大一番を見据える。数多のG1馬の背中を知る名手が、世代を超えた最強馬の争う舞台を意識したのだから、それだけジャスティンパレスが強かったということだ。同世代のライバルにイクイノックスやドウデュースがいるとはいえ、今後の活躍次第では「二強」ではなく「三強」といわれる時代がやってくるかもしれない。

 若手の有望株・鮫島克駿、T.マーカンドが騎乗して敗れた2戦とは、目に見えて前進を証明しただけに、この乗り替わりは大正解だった。ルメールの存在がジャスティンパレスの潜在能力の引き出しに大きく貢献したといっていい。

 その一方、2番人気で快勝したジャスティンパレスに対し、このレースで大本命に推されながら、競走中止に終わってしまったのが横山和生騎手の騎乗したタイトルホルダーだった。

昨年の同レースを7馬身差で楽勝していたディフェンディングチャンピオンは、今年の日経賞(G2)をこれまた8馬身差で勝利。単勝1.7倍のオッズが示す通り、不良の中山で59キロを背負っての一人旅を演じた王者の連覇を信じて疑わなかったファンも多かったはずだ。

 ただ何も不安がなかったのかというと、必ずしもそうとは言い切れない前兆も見え隠れしていた。

 昨秋の凱旋門賞(G1)に遠征したダメージは、帰国してからも尾を引いた。次走の有馬記念(G1)では最終コーナーで失速。今年初戦の日経賞を楽勝したタイトホルダーだが、敗れた2戦の汚名を返上するためにも負けられない一戦だったことは容易に想像がつく。

 叩き台の前哨戦にしては、やや高い本気度が伺えた前走だが、よりによって疲れを残しやすい不良馬場で行われたことも、少なからず今回の天皇賞・春のアクシデントに影響を及ぼしたのではないか。

 最終追い切りの時計自体は悪くなかったものの、動きにも堅さを感じられ、併走馬を突き放すほどのパフォーマンスではなかった。

 個人的に物足りなさを感じつつも、各メディアのジャッジは、どこもかしこも「申し分のないデキ」「態勢は整った」と手放しで絶賛。温度差をどうするかと悩みもしたが、それならこちらの気のせいなのだろうと決めつけてしまった。大昔とはいえ、競馬界に身を置いていたこともある自分の直感をもう少し信じるべきだったか。

 それはそうと、タイトルホルダーを管理する栗田徹調教師から「返し馬でジョッキーが少し硬さを感じ、入念にほぐしてレースに向かったが、展開も厳しく、2周目の下りで走りがバラバラになってしまった。人気を背負っていたので申し訳ない気持ち。ただ、ジョッキーの判断のおかげで最悪の事態を免れることができたと思う」といったコメントが出されたことは非常に遺憾である。

 JRAから「右前肢の跛行」と発表され、和生によると「下り坂で(フォームが)バラけてしまった」とのことだが、一部で噂されている淀の下り坂との因果関係はないだろう。そもそもそんなことを言い始めたらキリがない。

 やはり軽視できないのは、陣営がタイトルホルダーの異変について、「レース前に気付けたタイミングがあった」のではないかという疑惑だ。それはつまり「返し馬でジョッキーが少し硬さを感じ」ていたのなら、万全な状態にないことも把握できたということにもなる。

 にもかかわらず、出走に踏み切ったということは、一歩間違えれば大惨事も起こり得たことを意味する。専門家の説明によると、元JRA騎手の安藤勝己氏は自身のTwitterにて「タイトルホルダーはいつも以上のピッチ走法で硬い返し馬に見えたし、和生のほぐしが入念すぎた。平場だったら除外させてたかもしれん。G1で1倍台の人気を背負っとって複雑な心境でスタートさせたんやないかな。最後の直線手前で追わずに止めたことを好判断と思いたい(原文ママ)」と述べていた。

 問題視すべきは、氏が『平場だったら除外させてたかもしれん」と少々際どい表現をしていたことだろう。

 レースの「公正確保」を大前提とするなら、出走馬に不安の兆候が見られたなら競走除外という決断も可能である。ましてやタイトルホルダーは大本命馬。本馬に投票された勝ち馬投票券は、相当な売り上げがある。走らせるからには万全の状態でレースに参加すべきだ。

 そしてこれはファンとしても同じ。不安があるなら回避なり取消なりすると信じているからこそ、出てくるからには大丈夫という信頼関係で成り立っている。あくまで結果的に競走中止となったが、こちらについては陣営による裏切り行為と受け取られてもやむを得ない。

 幸い馬の命に別状はなかったが、タイトルホルダーを応援していたファンの馬券は命に別状どころか大虐殺と同等。今回の陣営の判断を不可抗力というにはあまりにもお粗末だったように思える。

 また、同様に競走中止となってしまったアフリカンゴールドについて、同馬がタイトルホルダーに競りかけたから、レースがおかしくなったという意見も見られたが、これは事実無根の“とばっちり”だろう。

 芝3200mの勝ちタイム3分16秒1(稍重)を4Fごとのラップで区切ってみたが、それぞれの推移は47.1-49.2-52.2-47.6となり、長距離戦でよく見られる構成だ。ちなみに前後半5Fと間の6Fでも59.7-75.6-60.8となり、前後半が流れて各馬が息を入れる中盤で少し緩むオーソドックスな内容だった。

 2年前の菊花賞(G1)が60秒0で昨年の天皇賞・春が60秒5(いずれも良)なら、稍重で多少きつかったとしてもタイトルホルダーの許容範囲に収まる流れと思われる。

 むしろアフリカンゴールドは、ノーマークの逃げがハマってなんぼの馬であり、自分からハイペースを演出して後続に脚を使わせるタイプではない。

 戦前に西園正都調教師が「ハナを切って上手く離して逃げられれば……」とコメントしていたとはいえ、この馬自身がこれまでスローペースの前残りで恵まれていたことを思えば、正直「無茶しやがって」というしかない暴走だったように思う。競走中止の理由のひとつとするなら、アフリカンゴールド限定で国分恭介の判断が問われるところかもしれない。

 話を再びタイトルホルダーに戻すと、不幸中の幸いで済んだのは非常にラッキーだったというよりない。

 少し前にドウデュースがドバイターフ(G1)を直前で回避することになったが、このときも左前肢跛行による出走取消。キーファーズのHPで発表されたのは、「現地でドクターストップがかかりました。歩様が悪いと言うことで調教を禁じられ診断の後に馬場入りして確認して、JRAの獣医さんも大丈夫との見解でしたが開催側からはダメとの結論となりました」という情報だった。

 これのどこが酷いかというと「現地でドクターストップ」された症状に対し、JRAの獣医が「大丈夫」という見解を伝えていることだ。その後に春を全休して秋に備えると発表されているが、もし強行的に出走していたら何があっても不思議ではなかったはず。

 今回のタイトルホルダーをこのときと同じだとはいえないものの、馬券を購入するファンからすると甚だ迷惑な話である。もし馬の将来を優先しての回避ならファンの理解は得られても、そうではないのなら「なぜ走らせた」と指摘が出るのは当然だ。

 しかし、安藤氏が「平場だったら除外させてたかもしれん」と触れたように、G1だからといって判断に違いが生じるようなら、これは到底看過できるものではない。

 確かに馬券の当たりハズレは、我々ファンにとって重要ではある。かといって応援している馬に少しでも不安があるなら、無理に出てくれとは思わない。こういったことが秘密裏に闇へと葬られていたとしたら、公正競馬そのものが成り立たなくなると懸念せざるを得なかった今年の天皇賞・春だった。

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黒い太陽
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