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【マーメイドS】永島まなみ重賞初勝利も?改めて際立つ陰の功労者の存在
16日に行われた日曜京都のメイン、マーメイドS(G3)は永島まなみ騎手が騎乗した4番人気アリスヴェリテ(牝4、栗東・中竹和也厩舎)が優勝。人馬揃って嬉しい初重賞制覇となり、永島騎手も初コンビの馬で鮮やかな逃げ切り勝ちを決めた。
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「最後の直線では、後ろから来ないでと思いながらでしたが、馬が最後まで頑張ってくれましたし、馬が助けてくれました。関係者の皆様をはじめ、支えてくださった多くの方々に感謝しています。まだまだ未熟で結果を出せないことも多くありますが、大舞台で活躍できるように頑張りたいと思います」
永島まなみ待望の初重賞勝利
デビュー4年目にして初めて手にしたタイトルにまなみんスマイルが弾けた。今春はスウィープフィートというクラシック候補もいたが、武豊騎手に乗り替わったチューリップ賞(G2)であっさり勝つなど、自身の実力不足を認識させられることもあった。
しかし、そんな苦い経験も糧にして日々の努力を怠らなかった結果が、関係者からの信頼を築き、今回のチャンスが舞い込んだ理由の一つとなったのだろう。
16頭立てのフルゲート。逃げたい馬としては外の7枠13番を引いたものの、永島騎手に迷いはなかった。スタートすると同時にパートナーに気合をつけつつ先頭を窺う。
明暗分けた両者の決断
藤懸貴志騎手のベリーヴィーナスもハナを狙う構えを見せたが、馬上の永島騎手の強い意思を察したのか比較的あっさりと白旗。ベリーヴィーナスといえば、2頭が直接対決した2走前の四国新聞杯(2勝クラス、芝2000m)で敗れた相手だが、このときはアリスヴェリテが2番手に控えてライバルの逃げ切りを許していた。
今回はハンデ戦ということもあり、同斤ではなくアリスヴェリテの50キロに対し、ライバルは3キロ重い53キロ。ベリーヴィーナスの藤懸騎手も共倒れは避けたかったのかもしれない。
■マーメイドS(G3) アリスヴェリテ 勝ち時計:1分57秒2(良)
★前後半
3F:34.8-36.1(前傾1秒3)
5F:58.3-58.9(前傾0秒6)
12.1 - 10.9 - 11.8 - 11.8 - 11.7=58.3
11.4 - 11.4 - 11.6 - 12.0 - 12.5=58.9
2着のエーデルブルーメに騎乗した川田将雅騎手ですら「勝った人馬をほめるしかありません」と素直に敗戦を認めている。
ただ、徐々にペースアップして後続を引き離したアリスヴェリテに比して、ベリーヴィーナスは少々無策だったようにも映った。永島まなみの尻を見ている内にボケっとしていたのか、5馬身6馬身と離れていく相手を“尻目”に後続の射程圏内に位置したまま。先頭があれだけ前にいるのであれば、後ろの馬はそれを目標に追い出しがワンテンポもツーテンポも早くなる。
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3~4コーナーで慌てて差を詰めようとする姿もあったが、いかんせん「時すでに遅し」である。セーフティーリードの積み立てに成功していたアリスヴェリテとは違い、ベリーヴィーナスは結果的に何をしたかったのか分からない中途半端な競馬をしてしまった。
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その一方で気になったのは、アリスヴェリテに騎乗した永島騎手の思い切りの良さ。とういうのも、初コンビだった人馬にしてはあまりにも迷いのなさ過ぎる大逃げを演じていたからだ。
ただこの疑問については、レース後のコメントで合点がいく。「前走騎乗していた柴田裕一郎騎手からアドバイスをもらっていましたし、ハンデの50キロもあって、この馬らしい競馬をしようと思っていました」と彼女は話していた。
柴田裕一郎騎手は少々気の毒
実際、柴田騎手がアリスヴェリテで逃げ切り勝ちを決めた際、自分は肝っ玉の据わった新人だとTwitterで触れている。
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本人は先月28日の調教騎乗中に放馬した馬に蹴られてしまい右脚を骨折。マーメイドSで騎乗するチャンスを失ってしまったが、自身のイメージしていた乗り方を永島騎手がうまくトレースしてくれたと感じたはずだ。
実は近走でアリスヴェリテに騎乗した際、柴田騎手なりのトライアンドエラーによるベストな作戦の答えを導いていたためである。
以下は、そのレースとコメント。
柴田「2番手で我慢したいと思っていたのですが、僕が我慢できずに行ってしまいました」
→ハイペースで飛ばす逃げ。2着に5馬身差の楽勝。
柴田「行く馬がいたので控えました。最後は伸び負けしてしまいました」
→同斤ベリーヴィーナスにハナを譲り、2番手からの競馬。1馬身3/4差の完敗。
1分57秒8
34.5-37.2(前傾2秒7)
56.8-61.0(前傾4秒2)
12.4 - 11.2 - 10.9 - 11.0 - 11.3=56.8
11.9 - 11.9 - 12.0 - 12.4 - 12.8=61.0
柴田「絶対に行きたかったですし、ルソルティールが来ていたので押す感じになりました」
→2着カンティプールにクビ差で勝利。
レース内容と本人のコメントを見てわかる通り、コンビ初戦は逃げにこだわっていなかった様子。だが2戦目で逃げた方が持ち味を出せると把握。3戦目は押さえることなく馬の気分に合わせて伸び伸びと走らせる競馬に切り替え。迷いがなくなったのだろう。
逃げる競馬自体は2歳時に2度経験があるものの、当時は玉砕的な逃げではなく、あくまでスローペースの前残りを狙うような乗り方。それは前後半のラップが後傾ということでもご理解いただけるはずだ。
1着ファントムシーフ
川田騎手の騎乗で2着
5F:61秒4-58秒8(後傾2秒6)
1着リバティアイランド
田辺裕信騎手の騎乗で3着
4F:47秒8-46秒0(後傾1秒8)
長々と書いてしまったが、結局どういうことを言いたかったのかというと、今回のまなみちゃんはめちゃくちゃ幸運に恵まれていたのかなという話。アリスヴェリテを逃げ馬として完成させた功労者は、ハッキリ言って柴田君なのだ。彼が馬の特性を理解し大逃げで活路を見出した。まあ早い話がパンサラッサ的な馬に仕立て上げた。
陰の功労者の存在際立つ
本来ならマーメイドSが集大成となるはずだったが、骨折でまなみちゃんにチャンスを譲る格好。こればかりは本当に気の毒で仕方がない。仮定の話をするのは気が引けるが、柴田君が乗っても勝っていた可能性が高かったともいえる。
そして何よりまなみちゃんに追い風となったのは、「逃げ馬」だった点だ。今年ここまで【19- 16- 16-299/350】の成績を残した彼女だが、逃げでの勝利が最も多い。まあそこは陣営も分かっていた上で白羽の矢を立てたといえるか。
で、メディア向けの原稿ではないから個人の主張をさせてもらうと、普段から「下手糞こそ逃げる競馬で一発を狙え」と言っているのが小生。なぜなら、基本的に日本の競馬は主体性のない騎手が多いためか、スローの前残りが多発しやすい。ゲートを出て周りの顔色をうかがいながら、お互いに「どうぞどうぞ」とダチョウ倶楽部のようなことをやっているのだから当然である。
だからこそノーマークの馬があれよあれよと残ることもあれば、結果的に行ったままの競馬もよく見掛ける。馬券を買っている側からしたら、「おまえ、なんでこんなスローなのに何もしないで後ろにいるんだ」と思うこともしばしば。そりゃ前にいた方が着を拾いやすい。
加えて、騎手の腕の差が出やすいのは差し追込みという側面も重要だ。馬場読みであったり、仕掛けるタイミング、馬群の捌き方など、明らかに差がある。そして下手くそな騎手ほどペースが読めずに脚を余す競馬をしてしまったり、逃げていてもただ前にいるだけで後続の脚も溜まって、直線で瞬発力勝負に負けるという情けない騎乗もある。
そういった間抜けなミスを極力減らすなら後続の脚を削る乗り方がベター。逃げ馬なら進路の確保や馬群を捌くミッションをこなせなくてもいい。ひたすら行くだけ行ってどこまで残せるかがポイントだ。
そう考えるとまだ一人前になり切れていないまなみちゃんが、自身の得意戦法の逃げで通用する馬に巡り合えたのはよかった。
柴田君はこれからも楽しみな若手
つまり、少々意地悪な言い方をすると、今回は柴田君が何もかもお膳立てをしてくれていた中で、一番オイシイところだけまなみちゃんが「頂き女子」をやったなあという印象が残った。
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個人的には実質、柴田君の勝利だったように思う。何しろアリスヴェリテには何人もトップジョッキーたちも騎乗したが、大逃げスタイルを確立したのは柴田君ひとりだったからである。
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まなみちゃんはまなみちゃんで、重賞未勝利という肩の荷が下りて、次回は用意されたものではなく、自力で勝てるチャンスもあるだろう。まあ当方としては、柴田君はなかなか見どころある若者じゃないかといったところかな。
※頑張ってメディア寄りのライティングをしていたけど、面倒くさくなってやめちゃった(笑)
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