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物議を醸す、消費者庁による相次ぐ杜撰な処分(前編)

遵法意識が低い事業者を取り締まり、消費者の安心と安全を守る役割を担う消費者庁。しかし昨今、その消費者庁による杜撰な処分が物議を醸している。消費者保護の現場で今何が起きているのか、消費者庁による「不当処分」被害に遭ってしまった企業の実録をレポートする。

消費者庁は2009年、内閣府の外局として発足した行政機関。国民生活センターを所管するとともに全国の消費生活センター等と連携し、消費者行政の中核的な実施機関としての役割を担っている。

同庁では偽装表示や誇大広告など、商品やサービスについての不当な表示などを規制する「景品表示法(景表法)」、 訪問販売、通信販売、連鎖販売取引(いわゆる「マルチ商法」)など、トラブルになりやすい取引を対象に、事業者の不当な勧誘行為を取り締まる「特定商取引法(特商法)」などを取り扱っている。「食品産地偽装」(景表法違反)、「根拠のないダイエット効果を標榜」(景表法違反)、「通販でお試しサンプルを申し込んだら自動的に継続購入になっていた」(特商法違反)、「稼げる在宅ワークを紹介するとして高額情報商材を販売」(特商法違反)といった事件がしばしばネットニュース等でも話題になることが多く、読者諸氏にもなじみ深いところであろう。

筆者もこれまで、違法行為を繰り返す悪質業者の情報を消費者庁に提供し、行政処分を促すなどの連携をとってきたこともあり、消費者庁の働きには万全の信頼を置いていた。しかし直近の数年間において、景表法や特商法の執行件数が増加してきたことに比例して、明らかに調査不備と思われる一方的な処分や、個別の事情を無視するかのような一斉処分、処分後の処分撤回など、これまでに例をみない杜撰な対応が目立っているのだ。

<杜撰な対応が報道された例>
消費者庁、措置命令を撤回<処分事実、認定に誤り> 「制度上起こりうる」と理解求める

「消費者庁は説明責任を放棄している」消費者庁のさくらフォレスト措置命令に疑問の声も 措置命令内容を詳説

しかも調査の結果、不当な処分を受けている企業の中には「過去確かにクレームが多かったが、反省・更生し、現在は内部体制を整備して優良事業者として運営している会社」も含まれていた。このような状況がまかり通っていては、消費者保護の目的を達成するどころか、せっかくの指導の成果として改善した優良事業者までをも駆逐してしまう展開になりかねない。今回は、まさにそのような杜撰な処分の被害に遭ってしまった企業の事例を2件レポートする。

【ケース1 訪問販売業者「株式会社L」と、その関係者に対する行政処分】

株式会社Lは、民家の屋根や外壁修理等のリフォーム工事を手がける訪問販売業者である。同社に対して、消費者庁の権限委任を受けた関東経済産業局と埼玉県が連携して調査をおこない、

・実際はクーリングオフ(一旦契約した後でも、一定期間内であれば無条件で契約申込を撤回したり、契約を解除したりできる制度)できるにも関わらず、顧客に「クーリングオフできない」と告げた
・実際は修理の必要がないにも関わらず、「このままだと雨漏りする」「すぐに工事をやった方がいい」などと告げて工事勧誘した

などの行為が特定商取引法違反にあたると判断され、令和5年1月27日から令和6年1月26日までの12か月間、訪問販売に関する業務の一部停止を命令された。併せて、同社代表取締役のM氏、及び関係者のF氏に対しても、L社に対して業務停止を命じた範囲の訪問販売に関する業務を新たに開始することの禁止を命じられた。同時に埼玉県からも、同年1月26日付でL社に対する特定商取引法に基づく行政処分並びにM氏及びF氏に対する業務禁止命令が出されている。

この報道を見る限り、一般人にとっては「悪質業者に処分が下ってよかった」程度の感想しか持ちえないだろう。しかしながら当該処分には重大な事実誤認があり、処分自体が適正手続を欠いた違法性が高いもので、対象者に対する不利益処分である旨の提言が、多数の弁護士からもおこなわれているのだ。

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