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キミが全部悪い
ある日曜日の昼下がり、自宅近くの大規模ショッピングモールに、小学校6年生の長男と来ていた。彼のテニスシューズを選ぶためである。
コロナ禍のなかでも、ショッピングモールは家族連れで、賑わいを見せていた。遠出の外出はなかなかできないが、せめて買い物や食事に。そんな家族が多いだろう。
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スポーツ用品専門店でテニスシューズを選び終え、エレベーターの前を通り過ぎようとしたとき、こんな声が聞こえた。
「俺が、全部悪いのかよ!」
見ると、30歳くらいの夫婦がいて、険悪な雰囲気を醸し出していた。傍らには、2歳くらいのかわいい女の子を乗せたベビーカー。
今時のカジュアルな格好をした、おしゃれめな家族である。旦那は、大手企業の営業職といったところか。
「なんで、いつも俺が全部悪いことになるの! みーちゃんはいつも正しいのかよ!!」
旦那が1人で激高し、奥さんは静かに怒っている様子である。
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僕も、長男が2歳くらいのとき、そんなふうに思ったことがあったな。
父親になった男なら、誰もが通る道である。
「ねえ、みーちゃん! どうなのっ!」
* * *
「通りすがりの者だけど、キミが全部悪いよ」
「はっ!?」
「事情は分からないけど、みーちゃんは全然悪くない。むしろ正しい」
「えっ、おっさん、誰? 何言ってんの!?」
「ははは、俺かい。十数年後の、君さ」
「ちょ、ちょっと誰か! け、警察」
「いいかい。2歳児、育てるの、めっちゃ大変なんだよ。いや、それどころか、みーちゃんは出産からここまでほとんど気が休まらずにここまで来てるのさ。すげえ、苦しいんだよ。育児は『やるか』『やらないか』じゃなくて、『やるか』『やるか』さ。だって、こんなに小さい命、預かってるんだから。君は平日ずっと会社だろ。ずっとみてる訳じゃないだろう」
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「あ、あんた、何? すみませーん、変な人に絡まれてます。この人、頭おかしいです」
「ん? 俺かい。不倫男だよ。奥さんが育児で大変な時に、不倫ばかりしていて、今もしてるんだ」
「ちょ、ちょっと、あなたなんなんですか! うちの主人をあなたと一緒にしないでください! ちゃんと子育て一緒にやってくれるし、ただちょっと喧嘩しただけです!!」
「えーん、ママー・泣」
「ゆずがおびえてるじゃないか! あっちいけよ、お前!」
「関係ないんだから、向こうに行ってください! 本当に人を呼びますよ」
「はははは、気持ちが1つになったじゃないか。そう、それでいい。これでお前は、俺とは違う道を行く。ははははは」
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* * *
おとうさーん、おとうさーん
「ん?」
「何、ぼーっとしてんの。早く帰ろうよ」
「は、も、妄想か。あれ? あの家族もいなくなってる……。あ、ああ、帰ろう」
「何、疲れてんの? ぼけたの? しっかりしてよ、笑笑」
ああ、やべえ。変な白昼夢のような妄想しちゃった。本当に声をかけたのかと思ったぜ。
「そういえば、最近、お母さん、また疲れてるみたいだけど、仕事が忙しいのか?」
「うーん、なんか大変そうだよ。だから、俺、最近いろいろお手伝いしてるんだ。皿洗いとか、洗濯物とか」
「おお、偉いじゃないか。お前、お母さんにはやさしいな。俺の言うことは全然聞かないくせに、苦笑」
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「ま、当然さ、笑」
「なんだとー、このやろう、笑」
「ま、僕はお母さんには全幅の信頼を寄せてるんでね。お父さんのことはあんまり信用してないけどw」
我が家の子育ては、成功のようだ。
* * *
「早く、どっかに行ってください! 私たち家族の時間を邪魔しないで!!」
え? えええ?? なにこれ。
「本当に、いい加減にしろよ、あんた。なんなんだよっ!!」
「えーん、えーん、ママー、怖いよー」
「ちょっ、違う。俺はただ、育児中の母親はとても大変なんだ、だから、男が全部悪いってことを伝えようと……」
* * *
おとうさん、おとうさん……
「ん? あれ? 香奈がなんでここに………」
「なんでじゃないですよ、待ち合わせの時間、とっくに過ぎてるから、探してたんです」
「え? えええ?」
「それとね、お父さんにそんなこと言う資格は全くありませんからね!怒」
「ひ、ひーっ!!!Y(>o<,)Y」
* * *
がばっ!!!
あれ、ここどこ? ホテル??
あれ、このコは………。
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あー!!! あのとき、バーに居たコだ。あ、そうだそうだ、ホテル入ったんだ。
それで寝ちゃったのか。え、今、何時? 2時!!!!
やべー、タクシーはきついから、朝帰りか……。
バレてっかなー……。
あれ? LINE……。
≪お父さんにそんなこと言う資格は全くありませんから≫
ひ、ひーっ!!!!!!Y(>o<,)YY(>o<,)YY(>o<,)Y
あれ? 笑い話を書こうとしたら、サイコホラーになっちゃった……。
※第1回note-M1(真顔で文字を書いて笑わせる1)グランプリ参加、2本目です。
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