【雑記】アングラとは何か
アングラという言葉を、よく使う。
先日書いた倒錯した小説(『二元論』)も「アングラ小説」と銘打ったし、僕の自称もエロ・アングラ系ライターである。
しかし、アングラとは何だろうか。これがなかなか、難しい。
◆アングラの語源・意味の変遷
語源や本来の意味、その後の意味合いの変遷については、ある程度、知っているつもりでいる。
アングラは、アンダーグラウンド underground(地下世界)の略語である。
undergroundは、米国の歴史の様々な変遷のなかで、ニュアンスを大きく変えてきた言葉である。
当初は、ニューヨークスラム(ファイブ・ポインツ)やアイルランド系ギャング、初期の奴隷解放運動(地下鉄道など)と関連づけられ、「権力の目が届かない世界」というニュアンスが大きい言葉だった。
しかし、19世紀に入ってからは非合法(アウト・ロウ)という意味合いが強くなり、禁酒法下のギャング、その後のイタリア・マフィアなどがアングラ世界の代表格となった。
現代に通じる意味が生まれ始めたのは、1950年代以降のことである。公民権運動やヴェトナム反戦運動、ヒッピーカルチャーの高まりのなかで「権力への抵抗」という意味を帯びるようになり、裏社会の人々以外にもクール cool な言葉になった。
1960年代くらいからは、主に文化・芸術の世界で「権威への抵抗」「主流への反逆」という意味合いで使われはじめ、1つのムーブメントを引きおこした。そのなかで生まれたのが「道徳への挑戦」であり、様々な背徳的なエロ・グロ・ナンセンスな作品が世に送り出された。サブ・カルチャーの走りである。
最近は、エロ・グロ・ナンセンスな部分ばかりが焦点化されて、「主流ではない背徳的な世界」「倒錯したエロの世界」をあらわす言葉として使われるようになっているようである。
前置きが長くなったが、僕が知りたいのは「今、生きているアングラという言葉の意味」である。
◆アングラという言葉の現代的な意味を考える
アングラは、今でも一般的な会話で、比較的よく使われる言葉である。しかし、その実態は曖昧である。使う人や文脈によって意味がかなり異なるように思える。辞書的な定義や説明はあるだろうが、すでにそこから一人歩きしている。しかし、共通項はあるはずだ。今回、それを言語化したいのである。
今、この言葉が生きて使われるのは、エロ系と芸術系だろう。
僕はもちろん、前者の意味で使っている。
いろいろ考えて、自分のなかのアングラ(エロ系)という言葉のイメージを言語化してみると、次のような感じである。
「文化性を帯び、背徳的で倒錯した、非合法のにおいがするエロの世界」
芸術系で使われる場合も、考えてみよう。
音楽や絵画などでも使われるが、最も定着しているのが演劇の世界だろう。「アングラ劇」「アングラ芝居」といえば、いまだ確立した1つのジャンルの感がある。
(あ、演劇は詳しくないので、間違っていたら教えてください)
芸術系で使われるアングラという言葉のイメージは、次のようである。
「社会の常識や道徳・倫理観、人々の好悪の感情に挑戦し、既成概念を破壊することを目ざす芸術」
芸術系の場合は、カルト、前衛(アバンギャルド)との違いも考えなければならない。
カルトは、映画でよく使われる言葉である(カルトムービー)。
「一部の人たちが熱狂的に支持する異端」、こんな意味合いだろう。
異端は、思想や宗教、学問などの世界でよく使われる、正統から大きく外れた異説(それを提唱する人々も含む)のことである。
前衛は、途中から左翼的、反体制的な意味合いが強くなった言葉で、既成概念を打破するムーブメントの先鋒という意味合いである。
異端、カルト、前衛は、アングラと一部が重なる言葉である。しかし、このように考えてみると、これらの言葉とアングラの違いは「背徳的か否か」である気がする。
◆アングラに必要なのは文化性
アングラという言葉の姿が多少見えてきたような気がするが、エロ系の意味に限れば、変態との違いも考えなければならない。
変態という言葉の持つ意味の範囲は狭く、アングラとは性質も異なるが、一番の違いは文化性の有無だろう。変態は非道徳的であるが、単なる性癖・欲望であるため、文化性はない。例えば、SM行為は、文化性があればアングラであり、ただの性癖ならば変態だ(基本的に、SMは文化性を持つのが基本である)。
吉原や鶯谷もアングラだが、これは歴史そのものが文化性を帯びるからだろう。吉原は言わずとしれた江戸期の遊郭の街、鶯谷は戦後の焼け野原から生まれたラブホテル街である。
歴史的背景や伝統が、アングラな雰囲気を醸し出す。
それに加えて、池袋のデリヘルやオナクラは、アングラではない。
文化性がないからだ。
池袋はアングラ度が低い街である。
確か、昭和から続くポルノ映画館とストリップ劇場が1軒ずつ存在する。また、ロサ会館そのものはアングラだし、あの周辺には寄席やジャズ喫茶がある。ロサ会館の裏手には、老舗のSMクラブがある。これらはそれぞれ渋くていい感じにアングラなのだが、街全体を考えると、アングラ度は低い。東京芸術劇場を抱える芸術の街であり、古い歓楽街でありながら、なぜか文化性を帯びないのである。
◆アングラの辞書的な説明
最後に答え合わせとして、いや、参考として、辞書的な意味がどうなっているか、辞書の王様『広辞苑』(第七版)を開いてみよう。ちなみに先入観をもたないよう、ここまで辞書類は一切見ずに書いてきた。
さて、『広辞苑』(第七版)には、どう書いてあるだろうか………。
うーん、なるほど……。しかし、エロ系の意味は載ってないな……。
辞書は、社会に浸透・定着した文字化できる情報しか載せないため、アングラのような足が早い言葉については、どうしても現実社会の使われ方と乖離が生じ、少し古い説明になってしまう。そのうち、僕が述べたような意味も記載されるかもしれない。
ただし、勉強にはなった。
確かに芸術系の場合は、「実験的」という意味合いが含まれるだろう。
②の非公然という意味では、もう使われないのではないか。
「アングラ放送」はまだ使うのかな。
用例の「アングラ経済」については、すっかり忘れていた・苦笑
これは今でも使う。というか、僕は経済誌にいるというのに、すっかり頭から抜け落ちてたw
ここまで、アングラという言葉が持つ現代的な意味について考えてきた。
まだはっきりした輪郭はつかめないが、「背徳性」「文化性」「非主流」「裏世界」「倒錯」、こんなところがキーワードになると思う。もう少ししっくりくる説明を考えてみたい。
アングラは、感覚的な言葉であり、「何がアングラで、アングラじゃないか」は、ある程度明確に区分けることができる。次回は、映画や音楽、性風俗について、アングラなものとそうでないものを区別して、もう少し輪郭に迫ってみようと思う。
ネットで検索したら「ネット乞食」という言葉に出くわしました。酷いこと言う人、いるなー。でも、歴史とたどれば、あらゆる「芸」は元々「乞食」と同根でした。サーカス、演芸、文芸、画芸しかりです。つまり、クリエイトとは……、あ、字数が! 皆様のお心付け……ください(笑) 活動のさらなる飛