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【静止画MAD】ヘイルデビルラン【アイシールド21】後書き
YouTubeのMADイベント、「第7回MCL大会Hell静止画部門」とニコニコ動画のMADイベント「AniPAFE2024」参加作品について書いていきます。
曲へのアプローチ、全体構成とそれを表現するための演出意図あたりを主に原作未読者にどう見えるように作ったかを書いていきます。構想から含めると丸2年くらいかかったことになるので、そのあたりも少し触れたいと思います。
1:選曲
歌詞からソースを決める
今回は曲から決めてソースを選びました。
使わせてもらったのはUVERworldの「PRAYING RUN」という楽曲。
ライブでもずっと人気の曲ですが、ボーカルのTAKUYA∞曰く、発表前は受け入れてもらえるかめちゃくちゃ不安だったほど、本人の内情をほぼそのまま歌詞にした曲です。
メッセージ性がめちゃくちゃ高い曲にばっちり合うソースを見つければ最強のMADができる!!と考え、歌詞に合うものを考えました。
努力をせずに夢が叶った人と 努力をしても叶わなかった人
たとえ僕は叶わない人だとしても この足を止めはしないだろう
ここの歌詞を聞いたときに、
努力しないでも最強:金剛阿含
努力しても叶わなかった人:敗れていった選手たち(特に葉柱ルイ)
が浮かび、
いつか誰もが驚くような奇跡が この身に起きたとしても
きっと僕だけは驚きはしないだろう 起こるべき奇跡が起きただけさ
ここに基礎トレを重ねた結果、ヒル魔が阿含からタッチダウンを決めたシーンを合わせられる!!と考え、アイシールド21に決まりました。
ヒル魔ってTAKUYA∞じゃね?
このMADで伝えたかったのはこれです。(え?
もしくは、この逆、TAKUYA∞ってヒル魔なんだ!です。
というのは、半分冗談ですが、半分は本気です。
上で挙げたシーンをラストにもっていくのならば、主役はもちろん蛭魔妖一です。このキャラは、脅し、暴力(銃乱射)、ハッタリ、なんでもありで頭もめちゃくちゃ良く、勝ちに徹底的に拘るという普段の言動に対して、アメフトには誠実であったり、本気の人に対するリスペクトであったり、仲間に対してドライになり切れてない人間臭さであったり、その辺のギャップが魅力だと思っています。
走り続けようとする僕に誰かが言った
あなたは強い人 怖いものはもうないでしょ
そんなわけない 違うよ
曲を通して特に好きな歌詞なんですが、ここが完全にヒル魔妖一というキャラの魅力を表してる→この歌詞はTAKUYA∞本人の内情→ヒル魔ってTAKUYA∞じゃね?となるわけです。………ほんまになるか????
実際にそうかはともかく、ヒル魔のこうした二面性をうまく伝えたうえで、勝つために地道な努力を積み上げる様子や仲間への関わり方を構成の主軸として考えていきました。
2:全体構成
MAD内におけるストーリー
構成を組むにあたり、最近の作品ではMADの中だけで一つのストーリーがきちんとできているかという点を意識しています。
MADを作るうえで、最初に考えるポイントは、メインターゲットを既読者にするか未読者にするかです。
今回のMADは、自分としては珍しく既読者をメインに作っていますが、未読であっても、何かわらからないけど、スゴイ!だけでの感想で終わって欲しくないというのが自分のスタンスです。MAD内で一つのストーリーとして完結できていれば、未読者も内容面で置いて行かれずに最後まで楽しめるのではないかと考えています。
全体の流れ
今回は歌詞から流れを決めていったので、確実に合わせたい部分を埋めるような形でストーリーを組んでいきました。未読の方相手でも初見でこのストーリーの半分くらいは伝わっていれば自分としては合格点だと思っています。
イントロ:なんとなくのアメフトで大切なことと目標(クリスマスボウル)の提示。そしてこれは3人で始めた物語
Aメロ:このMADの主役は誰なのか、そして主役のヒル魔妖一という男のヤバさを刷り込む。また、今後の展開の伏線になる部分をいくつか仕込んでおく。
Bメロ:Aメロラストカットをそのまま受ける形で勝ちに対する執着と努力する様子。また、外から見たヒル魔妖一の評価が入ることでアメフト選手として評価されていることを示す。その後、「そんなわけない違うよ」の歌詞とともに少し違う面を見せ、内面へフォーカスを移す。
1サビ:1サビ通してヒル魔の一人称視点で内面を強調。自分だけではどうにもならない無力さ、少しずつ集まる本気のメンバーたち→各メンバーの活躍→最強の敵との闘いへ
Cメロ:こちらの策が全く通じない試合展開をカードで表現。勝つ確率がほとんどないことへの説得力を上げ、こんなんどうやったら勝てるんや?という感情になってもらう。合わせて、最大の敵(ドレッドヘアの男)を何度か出して印象付け。
落ちサビ:ヒル魔の内面②。自分だけで何でもできる超人ではない。今まで闘い方(奇策)も通じない。勝ち目がほとんどなくなった中で、脅しでやらされるのではなく、自分の意志で一緒の夢に向かって闘う仲間の存在が最後の希望として残っている。そんな希望を持ってラスサビに繋げます。自分自身の能力の限界を知りつつも、それでも勝つために何ができるのかを考え続ける男、それこそがヒル魔妖一の一番好きなところです。ここの流れを作りたくてこのMADを作ったと言っても過言ではないパートです。
ラスサビ:歌詞に合わせて、努力をせずに最強の天才から、努力をしても敗れていった選手達を映します。ここは既読者にとってはそれぞれ思い出深いキャラ達、未読者の方には、夢破れた男たち(または、直前に登場したキャラに踏みつぶされた男たちでもいいです)と見てもらえてたら十分です。試合に戻り、絶望的状況でも諦めない姿をプレーで見せる。最後に奇策のカードの上に積み上げた基礎トレによるほんの少しの成長で天才から得点を奪う。
アウトロ:勝利の雰囲気に合わせて今回の一番のメッセージであるアイシールド21のテーマ(かつヒル魔の生き方)を示したテキストから次の戦いで〆
このイメージで作ったのですが、どれくらい伝わったでしょうか。自分としては、1サビ、落ちサビの内面パートでどれだけギャップを感じてもらえるかが大事だと思っていたので、この部分がグッときていればとても嬉しいです。
伏線あれこれ
イントロ~Bメロくらいまでに仕込んだ伏線を紹介。既読の方なら初見からこれは!?となるようなものから、これも?!まで様々です。
テレビに3人で目標を書く
⇒1サビ全員の名前が載る=本気の選手が集まった
ラスサビでまだ全員目標を諦めてない象徴として使用
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裏返しがいっぱいのカード
キッカーがいなくなったのでキックティーでムサシも裏面になり三人から二人へ
1サビで全部ひっくり返して仲間集め。雪光は戦力として起用されたタイミングで裏返す
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ヒル魔の40ヤード走タイム
既読の方ならこれを見れば、0.1秒が来る!と思ったのではないでしょうか。
原作では、4月に5秒1で自己ベストタイ!と言っていたのですが、秋大会まで半年あったので、1年で0.1秒に整合性をつけるため、5秒19という自己解釈タイムになっています。
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奇策を好むパートに挟まる筋トレ
最後にモノ言うのは基礎トレ…というか奇策って前提として実行できるだけの能力身に付けてないと通用しないって観点大事ですよね。
勝ち目1億分の1までは粘る男
試合を投げ出すシーンですが、逆説的にはそこまではガチで勝ちに行っている。そんな男が0コンマ数%を諦めるわけない!他のやつらはどうなんだ!?
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長尺のすゝめ
自分は割とフル尺(曲全部や2番等一部だけをカットしたもの)で作ることが多いです。それは単純に原作に長編漫画が多いというのもありますが、キャラの葛藤や成長、ストーリーをできる限り伝えたいと考えた時に長めの尺が必要になるからです。今回のMADでも前半部分に伏線を張ったり、視聴者にこういうキャラと思ってもらってからそれをひっくり返したりということがしたかったので、その辺りが気に入った人には是非長尺にチャレンジして欲しいなと思います。
でも長尺って作るの大変そう。
そんなあなたに伝えたい。
「落ちサビの構成組んでる時がいっちばん脳汁が出る!!」
個人の感想ですが、少しは共感してくれる人もいるかもしれない。
落ちサビはフル尺にだけ与えられた最大のご褒美です。
前半で出してきた情報を活かして、ゆったりしたテンポの中で、テキストを出せば情感が増して感情移入しやすいし、キャラの表情もじっくり見せられてよりエモく映るし、過去の回想や伏線回収でラストに向けてめちゃくちゃテンションを上げられる!!何より割と1カット長めに取れるからここ作るの自体はそこまでしんどくない!
なので、ここから作り始めて、この一連の流れみんなに見せてぇ!!のモチベで長尺を乗り切ってください。一度作ればなかなかの中毒性があります。
といっても、今回のAniPAFEやMCL参加作ではフル尺の作品が多くありました。
SNSとかで5~10秒くらいをいっぱい作っているのをよく見るようになって久しいですが、そうした中でもこれだけじっくり向き合って作ってる人がいっぱいなのは本当に嬉しいです。
3:演出
カードの演出
今回は全編を通してカードの演出を多用しています。基本的には、全て「自分が切れる手札」と言えます。
どんな味方がいて、それぞれどんな能力を持っていて、彼らを使ってどんな戦略を取るか、そして最後の場面では相手からはどう見えていたのか。
・フォーメーションとカードの裏表でチームのメンバー加入の表現
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あと、しれっといる男、石丸。
・試合の展開の表現
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物理演算はこういうの暴れて時間溶けそうなので回避
奇策を使う→カードをフィールドに出す
通じない→カードがくしゃくしゃになる
相手のカードは最初の3枚からずっと同じ→強者に奇策など不要(横綱相撲の様子)
・カードを積み上げて1年間努力を続けてきた表現
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・カードをひっくり返してラインを超えることで状況の変化を表現
→初めて試合に出るや成長してタッチダウンを奪う
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動き過ぎでうるさかったので没行き
アウトロのテキストにもつながりますが、大事なのは無いカードをうらやむのではなく、配られたカードでどうやって最強を目指すかです。持ってないカードは努力で手に入れるか、仲間に加えるか、切り方で持ってるように見せかけるか、その戦い方は人それぞれだと思います。
このあたりは感想で書いてくださった方もいますが、自分自身にもかなり当てはめています。オシャレな画面作りもキャッチーなテキストアニメーションもセンス溢れる配色やルックもアッっと驚く着眼点や演出も持ってない今の自分が勝つために何を磨くのか、何を学ぶのか。それをこのMAD内にも込めたつもりです。
Aメロのシームレス表現
この曲で圧倒的に癖が強いこの部分をどう見せるか。ヒル魔がどういうキャラか示す役割ではありますが、同じようなテンポ感が4回続き、初見では少し長く感じてしまう可能性もあるため、インパクトある映像が必要だと考えました。リファレンスはプレモルのCMです。そうです。またLikiさんのお仕事です。。。広瀬すずVer.のほうが人気そうですが、自分はこのVer.が一番好きです。
このレベルは流石に2D画像メインだと難しいですが、色数を絞り(その結果泥門の制服が緑から赤になったのは許してください)、イラストは少な目に寄り引きと回転のカメラワークをメインにしたトランジションでつないでいきました。
作る際はこのようにオブジェクトを羅列して共通する項目から流れを作りました。
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当然大麦さんの書いた記事もめちゃくちゃ参考(特に図と地の反転、ずらしという見方)になりました。
いつものメモhttps://t.co/Ip4p1ueLil
— 大麦 (@oomugi839) September 10, 2023
1サビの1人称視点
内面にフォーカスした場面というのを強調するため、1サビのテレビに全員の名前が刻まれるまではずっとヒル魔の1人称視点として作っています。ヘルメットを前景として使うことで、伝わりやすかったと思います。
問題は、良いカットが探しにくいこと。。。デスマーチの白線のシーンはかなり無理矢理パースをいじって表現しています。
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また、仲間集めの前の独白は作中には全くないテキストです。場面を変えたり、表現を少し変えたりということは多々してきましたが、全くないテキストを散らばった情報から実際にあるかのように作るというのは初めてでした。そのため、特に既読者の皆様に受け入れていただけるか不安でしたが、このパートが好評価だったのはめちゃくちゃ嬉しかったです。
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アメコミ風の表現
アメリカンフットボールだし原作でも時々近いデフォルメしてるので、採用したアメコミ風のルック。
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あまり今までしてこなかった絵作りですが、ハーフトーンやドット、ベタ塗リムライトや極端な色収差など、なかなかに楽しかったです。
VS演出
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アイシールドと言えばこれは入れないと!と思いましたが、明確な対決構図があまりなく、ここから先はシリアスになるので、難しかったです。1カットでも入って良かった。
花火
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勝った時は毎回派手に何かしてますが、実は原作では恋ヶ浜キューピット戦くらいしか勝利の花火はしてなかった。けど、去年見に行った花火がめちゃくちゃ良かったので、その時の撮ってた動画を使って合成。まさかの音ハメにも成功する奇跡!三重県のきほく灯籠祭というイベントです。めちゃんこキレイなので是非!
4:ちょこっとした技術的な話
見直して改めて大して目新しいことしてねぇなってなりました。基本的な合成を繰り返してるだけ…
ソフト間のデータ受け渡し
一番多いカットは4つくらいソフトを跨ぎます。Photoshop(PSD)→Live2D(png連番)→Blender(OpenEXRマルチレイヤー)
特にBlenderのマルチレイヤーは色んな情報(Zパスやクリプトマット、AOV、Viewレイヤー)を一つのファイルにまとめてレンダリングできるので重宝しています。
デビルバットの羽ばたき
Live2Dのスキニング機能で動きをつけています。
キレイに作成できるとほぼワンボタンなので、労力いらず(失敗も多いからたまにしか使えない)
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エフェクト
Yotubeエフェクトも使っていますが、他は大半をBlender内で作りました。
シェーダーで作成
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ジオメトリーノードで作成した螺旋ノイズエフェクト
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深度マップ合成しやすいのでありがたい
オブジェクトをディスプレイスメントモディファイアで変形させて土埃のエフェクトを作成
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後からDavinci Resolveや単体のFusionを使って合成しています。深度マップやクリプトマット、AOV辺りをカットによって使い分けてマスクしたりして処理をしています。
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伸びる矢印
こちらもジオメトリーノードで作成。上から見ると原作で見慣れたパスルートになります。
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5:終わりに
お前は1年間何してたんだ!?
結局時間ギリギリになり、何ならかなりのお騒がせまでしてしまい申し訳ないです。私的な理由もあり、1年ずっと作業とはなかなかいかず、結局去年のPFをちゃんと動かしたのは7月最終日からでした。そのため、去年作ったけど、直したい箇所がそのまま出ているカットも多い上に、この曲とアイシールド21の組み合わせ、全体のプロットを考えたのはなんと2022年の10月頃、、、
2022年ブラマン:選曲、構想、曲編集
2023年ブラマン:全体構成、イントロの一部、1サビ後半からアウトロ
2024年ブラマン:イントロ残り、Aメロ~1サビ前半、一部埋まっていないカット及び一部のブラッシュアップ
という、過去の自分との合作感がめちゃくちゃあります。よく一貫性保てたな…
進捗部分が一番強くない?
自分が一番懸念している点です。去年進捗で上げたところが結局一番強いパートの可能性もあるのに、何故そこをあげたのか。それは、全体構成を隠せるからです。
曲バレもしてましたが、ありがたいことにヒル魔視点というのは、ここを進捗にしたおかげか気付いてる人があまりいなかったので、期待感と初見の驚きを天秤にかけるなら良い判断だったかなと。
また、全体の流れで見た時と単体で見た時は大きく印象が変わるのではないかと思ったので、その点も楽しんでいただけていればいいかな、と。
今後について
正直どうなるかわかりません。ただ、一人の時よりしっかりとした生活しないとなんで、睡眠削って、バカほど時間をかけて作るというスタイルとはさよならしないといけません。MADに対するモチベはまだまだあるので、先輩方の姿を見習いながら、後1作、できれば2作、なんなら3作と時間の許す限り作っていきたいと思います。
今回は、自分としても確実に時間をかけられる最後と思っていた作品でAniPAFEとMCLという二大イベントに参加することが出来て良かったです。
多くの感想ありがとうございます。結果発表やMCLの審査発表を楽しみにしています。