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MADMAX2022参加作(最後の一欠片 【昴スバル】)について
2022年末にニコニコ動画で開催されたMADイベント「MADMAX2022」に参加した作品について、書いていきます。
1:基本コンセプト
ソースについて
今回制作した「昴スバル」は1999年から2002年まで連載され、中断を経て、2007年から2011年まで「MOON -昴 ソリチュード スタンディング-」として連載されたバレエ漫画です。
MADMAXに出るならこのソースかなと自分の中で決めていました。鬼気迫る表情で命を燃やすような踊りを見せる主人公のすばるの人生は、自分の作風にMADMAXで戦えるだけの映像的圧を加えるのに最適じゃないかと思ったからです。
ちなみに作者の曽田正人先生は、他にもロードレースの「シャカリキ!」、消防士の「め組の大吾」 、F1レースの「capeta」などを描いてらっしゃいますが、MADMAXホームページのアイコンは「シャカリキ!」主人公の野々村輝を使ってソースのヒント的なものを出してたり。
テーマ的な
MADとして作るにあたって、原作のどういった側面を見てもらおうか考えた時に思い浮かんだのが、続編にあたる「MOON -昴 ソリチュード スタンディング-」8巻で「誰にだって一本の「ア・ライフ・オブ・バタフライ」はあるのよ」というセリフです。
※「ア・ライフ・オブ・バタフライ」:作中では蛹から蝶になり羽ばたいていく時のように、人生で生まれ変わるような瞬間のことを指しています。
ここで描かれているのは、すばるのライバルキャラの「ア・ライフ・オブ・バタフライ」なのですが、じゃあすばるにとってのそれはどこだったのかを考えてまとめたものが今回のMADです。
メインとして据えたのは、原作第1部の最後にあたるローザンヌ国際バレエコンクールフリーヴァリエーションです。この舞台に立つまでの葛藤と決意こそがすばるの「ア・ライフ・オブ・バタフライ」だと思いました。
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作中で観客にも伝わるほど踊りを求める心、楽しそうに踊る姿が描かれているこのフリーヴァリエーションをMADで見てもらいながら、すばるを応援したり、楽しそうな気持を感じてもらったりできるような構成を目指して作っています。
2:構成
全体構成
まず、MADMAXというタイマン対決イベントに望むにあたり、最初に考えるべきことがあります。
どうやって相手を殺すか
色々なアプローチがあると思います。あえて相手の得意な作風で完全上位互換を狙う、ガラッと作風を変えてインパクトを狙う、自分が思うMADMAXらしいソースや作風で作る、有無を言わせぬ暴力的編集力で圧倒する、etc.
私が今回取ったのは、自分の作風をベースに、それに合ったMADMAXらしい表現を取り入れるというアプローチです。
今までの私のMADを見てきた人が初見時に思う感想として想定していたのが
イントロ~Bメロ:いつものブラマンやん
1サビ~間奏:MADMAX仕様のブラマン!?
Cメロ~ラスト:やっぱりいつものブラマンやん
というものでした。皆さんの感想はどうでしたか?
では、実際のMAD全体の流れを見ていきます。
イントロ:闘病中の弟の前での踊り
Aメロ1:弟を失った人生で嬉しいと思えることは何か
Aメロ2:すばる(主人公)のことを知ってもらう
Bメロ:才能の目覚めとその根源
1サビ:周りを圧倒する踊りとすばるの思うバレエの魅力
間奏:恩師の喪失とその中で踊れるかの選択を迫られる
Cメロ:人生を振り返って自分にとってのバレエとは何か
ラスサビ:踊る楽しさに浸りながらのプログラム。
アウトロ:楽しい舞台から現実に返ってきた時の後悔と救い
ややこしい部分の解説
それぞれのパートの関係図をまとめてみました。細かいテキストまで読みたい方は拡大表示か別ブラウザでの画像表示推奨です。むしろややこしくなってるような…
ただ、初めて図に落としてみたけど、これ作る前にやってたらもっと手早く考えが整理できてたんじゃないかって気がしてきました(笑)
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今回のテーマであるすばるの「ア・ライフ・オブ・バタフライ」の瞬間というのが、黄色文字の「バレエこそが自分=自分が自分でいられる場所」に気付くことです。MAD内では「初めてなれたよバレエだけに」「生まれてから最高の状態かもしれない」というテキストです。正直Aメロ2でのテキスト「それ以外は全て捨てていい」「ダメだった時はあたしはそれで終わりでいいの」とニュアンスが近いので、同じこと何回言ってんだこいつ?って思われてるんじゃないかって不安だったのですが、伝わったという感想もいただいたので、流れ自体は間違ってなかったはず。。。
赤で囲ってある部分「Aメロ2」「Cメロ」は両方ともすばるを掘り下げるパートです。
「Aメロ2」はバレエに夢中で他に何もいらないと思っている状態。バレエをして生きていくのが自分。
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「Cメロ」の入りで、大事な人を失ってしまうようなバレエはいらないと否定しますが、人生を振り返って自分がいかにバレエでできているのかに気付く。自分があるのはバレエがあるから。
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これを受けるのがラスサビの「うれしいことも楽しいことも舞台にある」「ずっと踊らせて」というテキストになります。
なんかわかったぜ!!ってなっていただけたら、もう一度MADを通して見ると一層楽しめるかもしれません(ダイマ
3:演出
蛹から蝶へ
ド定番の演出ですね。ただ、どちらかと言えば原作既読の方に、基本コンセプトの部分を気付いてもらうためにやった演出なので、代替できるものではなかったかなと。未読の方には主人公の心情を理解してもらうサポート的な役割になっていればいいかなと。
ちなみに自然界の羽化は殻を破ってから出てくるまでの時間に比べて羽を乾かして伸ばす時間のほうが長いそうです。その間に雨だったり気温が適温じゃなかったりするとそのまま死んでしまうことも多いそうです。
これを今回のMADで当てはめると、
蛹状態:弟の前での踊りを忘れて眠ってるような状態
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殻を破る:生死をかけたテンションにバレエ技術が身についた状態
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羽を乾かす:逆境に立たされ、外的要因ですぐに死んじゃう状態
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羽を広げて飛び立つ:バレエこそが自分という生き方に辿り着く
となっています。
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その他諸々
イントロ(0:00~0:20)
伸ばした手を一度降ろすのは、踊っても弟が笑ってくれずにそのまま遠くへ行ってしまうんじゃないかという恐怖から逃げ出したい気持ちの表れ
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猫の真似をするダンスだよというのを知ってもらうための変身。バレエを知る前なのでただただ日常の出来事を踊りで見せて笑ってもらってました。
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Aメロ2(0:34~0:48)
かなり後から再構成したすばるの掘り下げパート。Q1~Q3でおおよそ普通の15歳の考え方とは全然違う生き方をしているということと、後半のおどり以外何もなかった人生に説得力を持たせるために入れました。
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1サビ(0:57~1:17)
見た瞬間にわかる鳩麦さんリスペクト。鬼気迫る踊りというのを表現するのに最適だろうと参考にさせてもらいました。
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群舞では、すばるの振りは他より大きく、1フレームくらい速く動かして、周りとの違いを出しています。本来はピッタリ揃うのが群舞の魅力なんですが、ここは圧倒されて周りが必死についていく場面だったので、それを表現してます。
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対戦相手のkurobeさんがハイキューでやってた演出をオマージュしつつ、こまっかーいバレエの性質をテキスト埋めまくることで表現。読んで欲しいテキストだけ被写界深度で強調。
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間奏(1:17~1:40)
人物が粒になって消える=死んでしまったというのも定番表現ですが、短時間でわかりやすく伝えられるのでありがたく使用。
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こういう色使いとかグチャっと感ってMADMAXっぽいイメージ
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テキストのフォントを変えてノイズ感を出す。あえて日本語非対応のフォントを選ぶと色んな表示が出てくるので、それもノイズとして使えます。
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リファレンス
手がいっぱい出て来て引きずりこむ。悪い思考に飲み込まれそうな感じがします。
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ラスサビ(2:09~2:30)
シネスコから全画面へ。ド定番(笑)上記の蛹から蝶への瞬間を強調する狙いなので、最初からCメロまでずっとシネスコで展開していきます。ラスサビ入りのライトのカットからの解放感も人生の転換点の最初のカットとしてふさわしいだろうと採用
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エフェクトの色が赤から青へ。これもバレエの捉え方が変わってるよという意味合いです。
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アウトロ(2:30~
こんな状況で楽しんで踊ってたことを後悔するすばる。救ってくれるのは見ていた観客です。自分が楽しんで踊ることが人をこんなに笑顔にできるんだと教えてくれます。
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最後までどうするか迷いましたが、これからのすばるの生き方をみんなが肯定してくれているよという意味も込めて、観客の拍手をいれました。
構図としては二人からもらってきたものと一緒に生きていくすばると二人の別れにも見えるようにしています。
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4:終わりに
今回のMADは絵的にも動き的にも構成のまとめ方的にも現在の自分の最高傑作をぶつけることはできたんじゃないかと思ってます。
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本来はこうなる予定だったんですが、MADMAXがそんなに甘いはずもなく、3票差で負けという悔しい結果に終わりました。対戦相手のkurobeさんが超絶完成度の高い新技を体得してくるという精神と時の部屋から出てきたようなMADを作ってきたのがもちろん大きな理由ですが、戦い方が異なった相手をねじ伏せ切る力がまだまだ足りませんでした。
こうした作風が異なった時に好みの勝負に持ち込ませないためには
①いつものという部分をもっと圧倒的なレベルにする
②いつものをもっと多彩にしておいて何でくるのかわからなくする
③MADMAX仕様の割合をもっと増やす
とかが必要だったのかなと。次回参加するとなればここをもっと考えたいですね。
過去最大の参加者数の中で開催されたMADMAXにおいて、セミファイナルとして対戦を組んでいただいたことを嬉しく思いながらも、それにふさわしい物を出せるかというプレッシャーを感じてきた数カ月でしたが、両作が投稿された後の皆さんの反応や感想で「どっちもいい」「投票迷う」「結果が読めない」と言っていただけたのを見てめちゃくちゃホッとしていました(落ち着いてからは何回もTL見てニヤついてました)。
私自身がMADMAXを知ったのはかなり最近(2019をあとから知り、2020からリアルタイムで追ったレベル)なのですが、そんな私でもイベントの過去を振り返って語りたくなるような「これヤバすぎるだろ」という名作、「この対決アツすぎるだろ」という名勝負がいくつもあるのがMADMAXの魅力でもあると思います。自分たちの今回の対戦がどのような立ち位置になるのかは数年後を楽しみに待つことにします。
最後に、参加者数34、対戦数17というとんでもない数を運営してくださった主催のぐんまさんをはじめとしたVISITORの皆さま本当にありがとうございました。