文章を褒める職業、あるいは「水曜特価バーゲンセール」について
「水曜特価バーゲンセール文章を読んでメッチャ褒める」というサービスをやっています。2千円/2万字、納期は長くて二週間程度頂いています。2016年にはじめたサービスなので4年になりました。
このサービスの名前はあえてわかりにくくなっており(別に水曜日以外でも申し込めます)、サービスを用意した経緯もそれなりにわかりにくく、そのためこのnote記事は多分販促のためのページではありません。サービスを利用していただければうれしいとは感じるのですが、わたしがこのサービスを通じてやっていることは、金銭のやりとりというよりもう少し面倒くさいことです。
なお、Skype通話による1時間の文章添削(メールやチャット対応も可)を行う、もっとずっとわかりやすいコースも用意しております。2500円/2万字です。
こちらでは、「作品を通してやりたかったこと」「自分で気に入っている部分、直したいと感じた部分」を伺い、当方で良いと感じた部分を挙げながら作品の修正方法を考える、あるいは「自分は自分のために作品を書きたいのか、それとももっと他人に『ウケる』作品を書きたいのか」の分析を行っていきます。
話を戻しまして、「水曜特価」の話をします。
1.感想のやりとりをするということ
まずわたし自身の話をします。
オンラインで小説その他の文章作品を公開し始めて18年になります。わたしは文章が下手な方ではない(極端にうまいとも思わないが、下手な方だったらこんなサービスを立ち上げてはいない)ので、18年間、様々な感想や、期待や、そして悪意(としてしか捉えられなかったもの)を頂いてきました。
経験上、感想のやりとりをするという行為は、好意や善意や友愛のやりとりではなく、もっとエゴイスティックな行為であるとも感じてきました。ひとつの作品に対して感想というコンテンツをぶつける、ある種の喧嘩のようなものだと感じたことさえありました。
感想のやりとりをするという行為から、少なくともわたしは、「欲しいものがもらえるサービス」を立ち上げることは難しいと感じていました。金銭を支払って対価を手に入れるという行為に、「求めている感想を手に入れる」を用意するのは不可能だとすら思いました。
心を込めて書いたものであればあるほど、自分の想定とは違う感想として返ってくることは往々にしてあります。そこにあったのが悪意ではなくても悪意であるとしかとらえられないこともあります。
2.水曜特価バーゲンセールについて
というわけで、このサービスがわかりにくくなっているのは、ある程度のわからなさを形にしたいと思った結果でした。
ともあれ4年も前に考えた「わからなさ」の形なので、そろそろ別の形にした方がいいのではないかとも考えています。
「水曜特価バーゲンセール」という言葉を見て「受け取ってほしかった」意味内容は、「その褒め言葉はバーゲンによって手に入れたものである」という「覚悟」のようなものでした。
有料感想という形態の都合上、そこで用意される美辞麗句が「百パーセントの純粋な真意」であるとは言い切れません。「褒める」と言われて「褒められた」言葉は、言ってしまえばどこまでいっても「お世辞」です。
それを知ったうえで、それでもほしい言葉があるかどうかということを考えてから、契約をはじめてほしいと考えて、このような形に落ち着きました。
わたしは時間をかけて(1千円/2万字という額なのは、1万字読んで内容を整理するために1時間以上かかるからです)丁寧に読み、できる限り誠実に内容を整理し、文章の魅力であると感じた部分についてお伝えしますが、それが依頼者さんにとって良い感想であるかは誰にもわかりません。
わたしがこのサービスを通じてやりたかったことは、ある種の共犯関係を作り出すことであり、それは、ひとつの作品を通じて相互に関わり合う、再度言いますが「覚悟」のやりとりのつもりでした。
3.実際に起こったこと
このサービスは4年間、静かに途切れずお申込みをいただき、現在も2点お待ちいただいております。
これは架空の例なのですが、たとえばこんなことがありました。
作品は高校の文化祭で上映された高校演劇です。友達が主演でした。BL二次創作を書きたくてたまらなくなり、書きましたが、高校演劇の当事者の目に触れたくはなく、ということは誰にも、どこにも見せることはできません。綴られた美しい言葉は行き場を失い、結果としてわたしのもとを訪れることになりました。
引き出しのなかに詰め込まれたまま読まれることがなかったのであろう文章、誰かの言葉によって新しい意味を見つけたい文章、その他何らかの期待によって引っ張り出されてきた文章に対して金銭を支払うというのは祈りのようなことです。
そしてわたしがそれに対して「水曜特価」をお返しするのも、また、文章を書いてくれてありがとう、書き続けてくれてありがとうという、祈りのようなものなのです。
4.おわりに
最後に感想をひとつ置いておきます。これはわたしが16歳の頃に読んだオンライン小説への感想です。作者の方がどこで何をしていらっしゃるのかはわかりません。それはあなたかもしれません。
素晴らしい作品をありがとうございました。
作品を拝見いたしました。長編作品の完結おめでとうございます。
優しい人間関係から伝わってくる、それでも分かり合えない人と人との関係の切なさ、それでも分かり合おうとする関係の、やっぱり優しさとしか言えないものに、ずっと胸を締め付けられながら読み終えました。
素朴ともいえるような簡素な文章に、冷たいような色気や、なめらかすぎてそうとはわからないような嫌悪が含まれており、人間が生きていくのは優しいだけのことではないのだと感じました。
主人公たちが最後にたどり着いたシーンはとても美しいのですが、同時にとても悲しいような気もしました。完全に満ち足りた幸福なものとしてではなく、切なく痛々しいけれどそれでも続けることを選んだという形で、主人公たちの結論を書いていただいたことで、これまで読んできた時間や、彼らと一緒に苦しんだ時間も肯定されたような気がしました。
素晴らしい作品を拝見できて本当に幸せでした。
「水曜特価バーゲンセール文章を読んでメッチャ褒める」というサービスをやっています。ご利用お待ちしております。
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